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クリエイティブな職人技を伝えていきたい | 乗富鉄工所 乘冨賢蔵 × COTEN

株式会社COTENの挑戦を応援してくださる、法人COTEN CREW企業の皆様をご紹介します。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。

今回は株式会社乗富鉄工所 代表の乘冨賢蔵さんです。

乘冨賢蔵(のりどみ・けんぞう)
福岡県の水都柳川に本社を置く水門メーカー、株式会社乗富鉄工所の代表取締役。1985年生まれ。職人の集団離職をきっかけにITツールによる業務効率化や水門のDX、職人の働き方改革など経営改革を実施。2020年にはデザイナーや大学生と職人技を生かした商品開発活動「ノリノリプロジェクト」をスタート。地域のさまざまなプレイヤーを巻き込みながら町工場のモノづくりを盛り上げるべく奔走中。

「クリエイティブ」を大事にする三代目

COTENインタビュアー(以下、ーー)まずは簡単に事業紹介をしていただいてもよろしいでしょうか?

乘冨賢蔵(以下、乘冨さん:)福岡県柳川市にある鉄工所です。水門など水に関係する施設をメインでやっていて売上の7割ぐらいを占めています。創業は1948年、戦後すぐですね。水門メーカーって専業になりがちなんですけど、創業者の祖父が職人出身でいろいろな事業に手をつける人だったこともあって、建設機械の部品を作ったり、食品プラント工場の整備をしたり、さまざまな事業をおこなっています。それが広がって、今やっているキャンプ事業などにもつながっています。

乘冨さん:うちの会社の方針は、最初にほぼ祖父が作ったんです。基本的には職人さんだったんで「腕利きに貧乏なし」みたいなことはよく言っていたみたいです。とにかく職人気質で技術さえあれば食いっぱぐれることはないよと。
僕が、今年の1月に代表になるにあたって会社のあゆみを出し洗い出してみたら、結構初期の頃には自分たちで開発して焼却炉を作ってみたり、プレス機を開発し始めたりと、いろいろなことをやろうとしてたんですね。
今うちの会社は「クリエイティブ」って言葉を大事にしていますけど、祖父もそういう人だったのかなと思っています。

ーー乘冨さんのこともお伺いしたいのですが、乗富鉄工所の代表取締役に就任されるまでの歩みを教えていただけますか。

乘冨さん:小さい頃から人前に出るのが苦手で喋るのも苦手だったので、後継ぎは無理だと思ってました。祖父の部屋にあったいろいろな図鑑を片っ端から読み漁って、歳のわりにはいろいろなことを知っている物知りな子供だったんです。なので、学者になろうか小説家になろうかなんて考えていました。

ーー大学卒業後は造船所に入られたんですね。

乘冨さん:そうですね、造船所に就職して、そこで生産管理をしていました。生産管理なので現場の方と距離が近いところで仕事をするのですが、そういうポジションに新卒で入ると「お前は偉くなるんだろう」なんて現場の方から嫌味を言われることもあって。それでも何年か続けているうちに人間関係も構築できていきました。ある意味、少し跡継ぎと似てるんですよね。これは、自分の中ではとても大きな体験だったなと思います。

乘冨さん:あともう一つ、今考えるとこれも僕の中で結構大きな体験だったなと思うんですが、その会社の現場は分業制だったんです。職人さんはたくさんいらっしゃるけれど、溶接の職人さんは溶接だけ、組み立ての職人さんは組み立てだけ。図面を読むのは僕らの仕事で、職人さんにメイン業務以外のことをやらせてはいけないという考えだったんです。とにかく生産性を大切にするので、作業と作業の間の無駄を徹底的に排除するんですよね。それを遂行するのが僕の仕事だったんですが…職人さんにとってもこのやり方はしんどいだろうなと思うようになりました。
ちょうどその頃、父から家業へ戻ってきてくれと話があって。このまま続けるのか自分の家業なのかを考えた末、家業を継ぐ決心をしました。


水門メーカーの職人が作るキャンプ用品?!

乘冨さん:最初は職人さんと一緒に現場に入っていたんですけど、そこで思ったのは「うちの職人さんいろいろなことができる」ってことでした。
もう本当に、昔ながらの職人さんなんですよね。
水門って受注生産だからライン化に向かないんです。ライン化するためにはある程度計画生産ができないといけないんですけど、水門って1個が大きいので分業ができない環境だったんです。できないからこそ、一人でいろいろなことができる職人さんが残っていたんです。
その頃、職人さんと一緒に1~2ヶ月ほど熊本の震災復旧工事に行きました。タイトな工程で資材もあまりない状態で、でもどうしても必要な道具が手元になくて。そうしたら職人さんがその辺の鉄の棒を組み合わせて何とかしちゃったのをすごく覚えています。本当はちゃんとした道具があるんだけどと言いながら、70歳を超えた職人さんがそういうことをするんですよ。

ーーかっこいいですね。

乘冨さん:なんでそんなことができちゃうんだろうって。そこで「クリエイティブ」っていうワードが自分の中で浮上しました。

ーーそもそも手元にないから道具から作る職人さん。おじい様がずっといろいろな挑戦をしていったのもつながりそうですね。

乘冨さん:本当に職人さんってすごいなと思いました。うちの工場にある台車って、全部形が違うんですよ。聞いたら、余った材料で作ったよって。職人さんそれぞれ微妙に好みも違っているからそれに合わせて作ってるんです。よく見たら椅子もテーブルも台車も全部手作りでした。

ーーすごい!

乘冨さん:水門は夏ごろに暇になる時期があるんですが、毎年その時期になると工場にモノが増えるんですね。何か作るんだったら、その時期に製品を作って販売したらいいのでは?というのが、僕の新規事業の始まりでした。
最初は何をやっていいかわからなくて、地元のノリ漁師さんのお困りごとを聞いて必要なものを作ったりしていました。でも、その人の課題を解決しても、それはその人の課題であって、他に同じ商品を欲しい人がいなかったり。

ーー難しいですね。

乘冨さん:それで、3年前ほどから外部のデザイナーさんや大学の先生とコラボするようになりました。職人技を軸にしていろいろな事業を生み出していこうとして始めたのが「ノリノリプロジェクト」です。
その第1弾がキャンプ用品でした。最近は、ベンチャー企業と組んで水門の自動遠隔化事業など先進的な取り組みもスタートしています。

働いていて楽しい会社にしたい

乘冨さん:ノリノリプロジェクトでキャンプ用品や家具を制作し始めてから3年ぐらいですが、そのぐらいのタイミングから、普通は鉄工所に入ってこないような人たちがどんどん入ってくるようになりました。
大学の先生とコラボを始めたときにマーケティングとか必要だよねって、大学生が2人でInstagramのアカウントを立ち上げてくれたんですよ。2年ほどメインになってやってくれていたその女性2人がそのまま入社してくれたんです。これもすごく嬉しかったですね。

ーーめっちゃいいですね。

乘冨さん:月に1回、地元で2年前から焚き火部っていう活動もしています。地域のまち作り文脈の人たちも一緒になって、街の人たちと焚火を囲む会なんです。
焚き火部をきっかけに知り合った人が友人を紹介してくれてその人が入社してくれたり、そこでつながった社長さんと本当に一緒にお仕事したり。焚き火でいろいろな人が集まってきて何かが生まれていく状況になっています。

※2024年4月から、イベント名を「焚き火部」から「TOMARIGI」に変更しました。詳細はこちら

ーー楽しいからできてしまうんでしょうね。

乘冨さん:そうですね、もう楽しいからやっています。
とにかく僕は「クリエイティブ」っていうワードをすごく大事にしています。創業者のマインドでもあったのかなとも思っていて、ホームページにも「日本のものづくりに もう一度 夢を見よう。」って掲げました。
職人さんのすごさを伝えていきたいし憧れる存在であってほしいんですよね。楽しい働き方ができる会社にと思って制度とかも変えていっています。小規模でも理想的なモデルになりたいなと思っているんです。

ーー法人COTEN CREWになったきっかけがあれば教えてください。

乘冨さん:COTEN RADIOを聞きはじめたのは、知り合いの経営者の方に勧められたからです。僕は理系なのもあって歴史とかにはあまり興味がなくて。でも、実際に聞いてみたら、世の中はなんでこうなってるんだろうって考えるようになりました。もともと哲学には興味もあったので、そこからいろいろな本を読むようになったんです、哲学とか人文学とか。そうなると、さらにいろいろと考えるようになって。
僕が今「働くことの楽しさ」を大切にしようとしているのも、COTEN RADIOを聞いたことで、自分の中で人文的な裏付けができているからなんですよね。
そういう意味では、ノリノプロジェクトって僕がCOTEN RADIOを聞いてなかったらちょっと方向性が違っていたかもしれないです。

ーーものすごい影響力ですね。

乘冨さん:ノリノリプロジェクトの商品はとてもいいけど高いよねって言われます。同じような思いがある知り合いの町工場さんに細部までこだわって高品質なものを作ってもらっているので、海外の工場で大量生産したものと比べるとどうしても割高になってしまうんです。それでも買ってくれる人は一定数います。
やはりそういう思想みたいなところは影響をうけてるんですよね。法人COTEN CREWになったのは、恩返しみたいな思いが強いかもしれないです。

ーー産業革命から続く労働の仕組みや資本主義の仕組みって、いろいろなものがどんどん安くなっていったり顔が見えなくなっていったりする構造じゃないですか。そこをちょっと変えにいこうという感じですよね、ノリノリプロジェクトって。

乘冨さん:そうですね、COTENさんはそういう活動のきっかけをくれたと思ってます。

(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:森まゆみ


ここまでお読みいただきありがとうございました!

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