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『すずちゃんの のうみそ』

『すずちゃんの のうみそ』(岩崎書店)の著者で、すずちゃんのお母さんである竹山美奈子さんが、京都市での講演会の帰りに絵本のこたちにお立ち寄りくださいました。
『すずちゃんの のうみそ』は、すずちゃんが楽しく過ごした保育園のお友だちにあてて書かれたお手紙で、自閉症スペクトラム(ASD)のことがわかりやすく伝えられています。2019年の11月に絵本のこたちで原画展も開催し、私にとっても思い入れのある絵本のひとつです。

ーー『すずちゃんの のうみそ』は、すずちゃんが一緒に過ごした保育園のお友だちの様々な疑問に答えるお手紙として書かれたんですよね。

保育園のお友だちが、「なんで、すずちゃん喋れないの?」とか、靴をはかせてると「なんで靴がはけないの?」って聞いてくるんですけど、「どうしたら、はくかな?」ってこっちから聞くと「『クック』って言えば、わかるんじゃない?」とか言ってくれる(笑)
大人が聞けないことをサクサク聞いてくれて、それも、すずちゃんと仲良くしたいから聞いてくれるんですよね。「すずちゃん、家でどんな遊びしてるの?」とか、理解したいという気持ちで聞いてくれるから、これは、ちゃんと答えなきゃって思ったんですね。
「障害」っていって、お薬で治すとかじゃなくて、そういう特性があるから、靴をはくのも毎日訓練したり、みんなに助けてもらってるんだよって言うと「そうか、すずちゃんママも大変だね、頑張ってね」なんて言われたりして(笑)もう、清々しいというか、抵抗なくすーっと受け止めてくれるんです。
子どもは難しい話は、解んないからしなくていいじゃなくて、簡単な言葉に置き換えて伝えたら、解るまで「どういうこと?」って聞いてくれる。解んないことを知りたいという気持ちが大人より強いから、「そうか、だから、すずちゃん騒いじゃうんだ」「わたしたちより音が大きく聞こえてるんだね」って、ちゃんと解ってくれるんです。

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この小さな理解者、支援者さんたちには、卒園して地域の小学校と支援学校に分かれる前に、お礼とともに、すずちゃんがどうしてこんなことするのかなっていう、ほんとは、こんな小さな子に言わなくていいじゃんっていう医学的な話も伝えようと思って、書いてみました。
卒園式の三日前に紙芝居が出来たんですけど、本当にみんなが食い入るように聞いてくれて。年長のお友だちだけに聞いてもらおうと書いたお話なんですけど、2歳児クラスから年長さんまで全クラスと、その日出勤している先生全員で聞いてくれたんです。

ーーすずちゃんのことを理解してもらいたいと始まったのではなくて、周りの子どもたちの理解したい気持ちに答えた絵本なんですね。

はい。この絵本を読んでくれた何人かの方に「理解してよっていう圧を感じないというか、理解しなきゃいけないっていう気持ちの負担を感じない」っていう感想をもらって、それは嬉しいなって思いました。本を書いたのは、喋らないすずちゃんをジロジロ観察しながら上手いこと一緒に過ごす方法を、子どもたちが、日々、考えながらやってくれてたのをずっと見ていて、お礼も伝えたかったし、すずちゃんの謎っていうのをちゃんと伝えたいと思っていたからなんです。
大きくなって、すずちゃんと同じような人に出会った時、手をひらひらさせてる人とかね、「この人、すずちゃんと同じだな」って思ってくれたらいいなと思います。実際、街で見かけて、そう言ったお友だちがいるんですよ。

ーーすずちゃんは支援学校に行くんだよ、と絵本に書かれてますが、すずちゃんのその後が知りたい(笑)今は、どんな風に過ごされてますか?

毎日、楽しく通っています。「居住地校交流」には年に2回行ってるんですけど、今、支援学校ではこんなことしてますっていう自己紹介の時間は必ず設けてもらって、先生が授業の様子の写真をみせてくれて、その後、音楽か体育の授業を一緒に受けて、休み時間に遊ぶ。そんな感じで交流があります。

ーー地元の公立小学校ですか?

そうです。そうです。絵本のゆりぐみのお友だちがたくさん通っている、近所の小学校です。自治体によっては、週に1回のところもあるとか。

ーー週に1回? 結構、頻繁なんですね。

それでペースが出来てくると、自閉の子にとっては、たまにいくよりはいいこともあるんです。○曜日はこっちの学校って感じでルーチンができて。でも、大体は1学期間に1回とか、年に1回とかですね。

ーーペースの話で思い出しました。原画展の時に質問されたんですが、絵本になると、「あ、絵本のすずちゃんだ」と知らない人に声かけられたりとか、注目されることで、すずちゃん自身はストレスを感じることにはなりませんでしたか? 

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すずちゃんは、人が大好きなんですよ。絵本化も、注目をそんなに負担に感じない子だってわかった上でした経緯があります。寄って来てくれると嬉しいっていうか、あんまりベタベタ触られるとイヤなんですけど、初めて交流に行った時も囲まれてにこにこしてましたよ。その中から同じ保育園出身の子を見つけて、すぐピューッと行って。解ったみたいです。よく一緒にいた子や絵本で三輪車に一緒に乗ってた子。
あと、うちの子は自分が絵本になってるということが、知的障害が最重度なので、ちゃんとは解っていないんです。ただ、絵は紙芝居の時から葉苗さん(絵担当の三木葉苗さん)とやりとりしたり、絵本になって部屋に飾ってあったり、本屋さんに並んでるのを見ているので、自分だっていうことは解っているみたいで、嬉しそうに絵をトントンって触るんです。葉苗さんが、原画展の時に、すずちゃんが三輪車の絵の自分の顔のところを指さして、わたしだって仕草をしてくれたのが、すごい嬉しかったって言ってくださったんですね。
特別支援学校に行ってると住んでいる地域でそんなに人目に触れる機会もないじゃないですか。すずちゃん、近所であんまり見かけないねって言われます。ここに住んでるのに。だから、地域交流に行ったり絵本で知ってくれた子が、「あ、すずちゃんだ」って気づいてくれて、逆に顔見知りが増えていくのは嬉しいですね。
この頃は、Instagramなどでも家庭で頑張ってる自閉っ子の様子をアップする若いママが増えてきたと思うんですけど、こういう行動をするのはこういう理由だからというのを知って欲しいからだと思うんですね。
幼稚園で「なんで喋れないの?」って障害のある子どものことを聞かれて、お母さんがつらくて連れて行きたくなくなっちゃった、という話も聞くので、知られたくない人もまだまだいるとは思うんですけど、そういう人も絵本を読んで、理解したいから聞いてくれてるんだ、仲良くしたいからなんだって気づいて、幼稚園も楽しく行けるようになった、公園に積極的に行くようになりましたって言ってくださる方もいました。そういう人が段々増えてきたのは、いいことだと思うんです。

ーー関心を持たれることをポジティブに受け止められるようになった人が増えてきたということですね。すずちゃんの人が好きな性格は、お母さんから受け継がれてるような気がしますね(笑)

あ〜、みなさんに言われるんですけどね〜(笑)
私は大阪の堺で、障害のあるお友だちと一緒に育ってるんで、ちっちゃい時から知ってると、あんまり抵抗感がないっていうか、障害のあるなしにかかわらず、自分と違いがある人に対してそんなに「えっ!」って思わない大人になったんじゃないかなって思うんですね。

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ーー小学校の行事を見に行くと、子どもたちは障害のある子の突拍子もない行動にも全く動じないですよね。それを見て大人の方が、ああ、こういう感じでいいのかって、子どもたちに学んでます。

子どもって本当によくわかってて、保育園の参観でお祭りのお店やさんをした時もね、先生は、店員役はすずちゃんには難しいかなってことで、親と一緒にお客さん役にしてくれたんです。先生の配慮を親も違和感なく受け入れてたら、いざやろうとすると、すずちゃんがガンとして動かなくて。それを見たお友だちが「すずちゃんはいつもあそこに座ってるから、そこでお店番の役でいいよ」って、子どもたちで役割を分担してくれたんです。ほかにも、先生が靴をはかせようとしてくれるんだけど、「先生、待って。もうちょっと待ったら自分ではけるよ」って言ってくれたり。観察力とか、これは無理でもこれなら出来るんじゃない? っていう想像力がすごいですよね、子どもって。
大人になってから障害のある人に初めて出会ったら、恐怖心とか差別とか持ってしまうと思うんですけど、そういう隔たりが出来てしまうと、その人自身がストレスを感じるじゃないですか。知ってたら何でもないことなのに。
私はちっちゃい子にも真実を、やさしい言葉で、ちっちゃいうちに伝えたいなって思ってて。
30代くらいの人がこれを読んでくれた時に、「自分が小学校の時に困った君がいて、今、理解できました。子どもの時に知りたかった」ってお話ししてくださったことがあって嬉しかったんですよね。ファンタジーとか夢のある素敵な絵本がいっぱいある中で、私の絵本はクドクドした(笑)幼児が読む最初の説明文みたいなね(笑)かたい絵本ですけど、こんなに多くの方に読んでもらえるとは思ってなかったです。

ーーお客様で、「子どもが小学校に上がる時に先生に理解してもらえるかどうか、すごく心配だったけど、一緒に過ごすのは子どもたちですもんね。こうやって伝えたらいいのかと安心しました。」という方がいらっしゃいました。

子どもたちって大人が思ってるより、いろいろ考えてたり見て知ってたりしますよね。こんなことまで説明する必要ある? 脳みその絵まで要る? って言われることもあるんですけど、あいまいに答えても、解るまでずっと興味を持ってるんですよね。大人の方が「理解力」はあるけど、子どもの方が「理解欲」はあると思うんです。

ーーお会い出来たら、どうしても、お聞きしたいことがあって、この絵本を読み聞かせする時に、このページの 「しょうがい」っていうよ。 っていう文がありますけど、読みながらちょっと苦しい気持ちになってしまうんです。「障害」という言葉をどう捉えられてますか?

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私、すごく軽く読むらしいんです(笑) 「障害」っていう名称は、私も素敵だとは思ってないんですけど、福祉サービスを受ける上で名称は必要じゃないですか。「障害者雇用」だし、「障害者用駐車場」だし、「障害者手帳」だし、市民が受けられる福祉サービスのための名称でしかないから、あんまり素敵じゃないんだけど、一応、「病気」とは違う。病気って、薬で治さなきゃとかうつるとか、そんなイメージが子どもにはどうしてもあるみたいなんですけど、治すんじゃなくて携えて生きてくもんだから、それは「障害」っていうよ、ってサラッと言うんです。
やっても出来ないことはあって、それはその子の特性だから、病気と違って、治すんじゃないのっていう感じで。

ーーサラッと言うんですね。

結構、軽く明るく言っちゃう。

ーー携えて生きてくのか。なるほど、サラッといきたいですね。

「病気」って言うと、子どもは風邪のイメージでしょ。うつると思うんですよ。近づかないようにしなきゃって思ってしまう。だから、ちゃんと病気と障害の概念は難しくても伝えていこうと思って。治さなくてもいいんです。手助けしてもらったり訓練することはあっても、治す、治るものではないんだよってことをね。

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竹山美奈子さんの語り言葉で書かれた『すずちゃんの のうみそ』を何度も読み聞かせしたからか、初めてお会いしたような気がしませんでした。まだまだお話ししたかったのですが、あっという間の1時間が過ぎてしまいました。
『すずちゃんの のうみそ』は、台湾や韓国でも翻訳出版されています。けれど、地元の書店ではあまり見かけないそうで意外でした(地方は配本数が少ないそう)。子どもたちの持ってる理解力や柔軟性、工夫の仕方は本当に素晴らしいものがあって、学校という限られた場所だけでなく、社会全体に広がっていけば誰にとっても暮らしやすくなると思います。子どもだから解らないではなく、これからもお薦めしていきたい絵本です。

竹山美奈子|著 三木葉苗|絵『すずちゃんの のうみそ』(岩崎書店)​

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