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揺れて歩く ある夫婦の一六六日|清水哲男

自然科学絵本の「鳥の一年シリーズ」や、大人にも人気の美しい絵本『ものがたり白鳥の湖』は当店、絵本のこたちでも人気のタイトルです。版元のエディション・エフはこうした絵本のほかに写真集、文芸書、学術書とさまざまなジャンルの書籍を刊行している京都の出版社。次はどんな本が刊行されるのだろう?と興味が尽きません。代表の岡本千津さんにお話を聞きました。
 
この4月に刊行された『揺れて歩く ある夫婦の一六六日』(以下、『揺れて歩く』と表記)は、高齢夫婦の支え合う姿を写真と文章で捉えた記録。著者はこの高齢夫婦のひとり息子で京都市出身、鹿児島市在住の著述家・清水哲男。『揺れて歩く』は著者にとって初の写真集。
 
 
――『揺れて歩く』出版の経緯をお聞かせください。著者の清水哲男さんのことはどのようにお知りになったのですか?
 
一年半くらい前、木屋町四条(京都の繁華街)にあるバー、八文字屋で会ったのが最初です。私は当時、写真集『京都ほんやら洞の猫』の制作にかかっていたのですが、八文字屋は『京都ほんやら洞の猫』の著者、写真家・甲斐扶佐義さんの経営するバーなんです。2018年12月、清水さんはこの八文字屋の壁面を借りて自身の写真展を開催されまして、写真展の一環として行われたライヴイベントの日に初めて会いました。
清水哲男さんが写真家というよりは著述家であり、すでに何冊も著作があることも、その時八文字屋に清水さんの本や販促チラシが置いてあったのを見て知ったのです。
 
――その写真展では『揺れて歩く』の収録写真が展示されていたのですか?
 
いいえ、違います。別のテーマの写真群でした。八文字屋のスタッフを中心に、常連客たちの飲む様子など楽しげな写真で店中が埋めつくされていたと記憶しています。
弊社はその後、2019年3月に『京都ほんやら洞の猫』を刊行したのですが、それを経て、清水さんはエディション・エフに関心をもってくださったのかなと思います、自分の本を託せる出版社に値するかどうかという意味で。ある時、相談したい企画があるからと連絡を受けました。
私は私で、知り合って以来、著述家としての清水さんの活動の内容を、Facebookなどを通してですけれど見ていました。著作のひとつ『月がとっても青いから』(中央アート出版社、2012)を読んだのもその頃です。ライターあるいは作家としての清水さんの多くの仕事が形になっているのを知りました。
現在進行形のものだと、あるALS患者さんとの往復書簡をもとに新聞にコラムを連載していたり、伝統産業の工房や職人さんの仕事を取材して特集記事や冊子にしたり。間接的に見ても、清水さんの仕事には人の病や生死、あるいは失われてゆく再生不可能なものたちに対する断ちがたいこだわりがあるように感じられます。
そんな著作家の出版企画ですから、たぶんそれは、何やら避け難い問いであるとか、生きるうえで意味のあることだとか、人間として考えなくてはならない何かではないかと、私は身構えつつも期待に胸を躍らせていました。
会いますと、清水さんはごく手短に、本の内容は自分の両親について書いた文章と彼らを撮った写真であり、だからこそ京都の出版社でつくりたいということをおっしゃいました。京都の出版社なんて大小新旧いっぱいあるのになんでまたウチなんだろうと思いましたが、白羽の矢を立ててもらったのは素直に嬉しくて、前向きに検討したいとお返事したんです。その後、鹿児島に戻られた清水さんからテキストと写真のデータが送られてきました。

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――原稿を受け取ってどのように思われましたか? 『揺れて歩く』はとても個人的な内容ですよね。清水さんのご両親が被写体で、しかも生活の様子がありのまま撮影されています。
 
お母さんの表情がとてもいい。すごくいい。写真を見ての第一印象はそれに尽きます。その表情は、笑顔もあればしかめっ面もありますがどれも生き生きしていて、ああこのお母さんの表情をしっかり伝える本にしたい、と強く思いました。いっぽう、テキストは、頑固な親父と父に負けず劣らず頑固な息子とのかみ合わない愛情が、それぞれあっち向いたりこっち向いたりしているという感じでしょうか。初めて通読した時は、たしかにちょっとしんどい内容だと思ったんです。読み手はきっと既視感を覚え、自分の親の葬送を思い出す。それは容易に想像がつきます。でも、繰り返し読むうちに、これは夫婦と親子それぞれの相思相愛物語だと思うようになりました。読みながら顔がつい緩むんですよ、温かい気持ちになって。
 
――たしかに、読み終えるとお母さんの表情にほっとしている自分を発見します。
 
そうでしょう? 多くの読み手がそのように感じると思います。自分と親、自分と子の関係性に照らしやすいから、辛い部分もあるけれど、読み進めていくほどに、けっきょくお母さんの様子に救われるんです。
当初、私の周囲には、企画内容を話すと「それは手に取りづらい本になるのでは」と言う人が少なからずいました。また清水さん自身も、内容がごく個人的で、愉快なテーマではないことから出版化には逡巡があったそうです。
『揺れて歩く』の収録写真は、何年か前に鹿児島市内で個展を開き、一度披露されてるんです。その際の反響が大きくて、いずれ写真集にしてほしいという声がたくさん届いたといいます。そのことが清水さんの背中を押したんですね。それを聞いて、私もまた背中を押されました。
 
(第一回終わり)


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絵本のこたちです。京都伏見で絵本屋をしています。絵本を通して、考えたこと感じたことを記していこうと思います。
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