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自慢の弟は一番最後 11話


オリックスとのウエスタンリーグ開幕戦
負けはしたけど4打数2安打1本塁打...
育成ルーキーにしては、上出来だろう


でも○○は...


○○:...んあぁ!ブン


試合後もバットを振っていた

あの試合...
自分が三振した球はすべて低めの変化球と高めの釣り玉...
今振り返ると完全にボール球なのに...
まだまだ自分の選球眼が良くないな...


そう考えながらバットを振ってると...


??:おい新人君
軸がずれてるぞ

○○:えっ?あっ...

??:考えてやろうとするのはいい
だけど考えることに重きを置きすぎるとケガするぞ

○○:はい..."髙田さん"


声をかけてきたのは、髙田知季選手
自分がお手本にしないといけないユーティリティプレーヤー
近年は守備固めとして出場されていることが多いが、今はリハビリ組にいる


髙田:今日初公式戦でプロ初ホームランでしょ?
おめでと

○○:ありがとうございます!

髙田:あれだけ活躍したのにまだ練習か

○○:はい!
あの感覚を忘れたくなくて...

髙田:すごいな...
あと何球で終わりそう?

○○:えぇっと...あと10球で終わります

髙田:そっか
じゃあ終わったら飯いこっか

○○:えっ!いいんですか!?

髙田:うん笑
ちなみに誠知も行きたがってたから

○○:ほんとっすか!?
ありがとうございます!

髙田:じゃあロビーで待ってるから

○○:はいっ!
練習終わったらすぐ行きます!


そこから納得のいく10球を打ち込み...
急いでシャワーを浴びて、先輩が待っているロビーへ急いだ


○○:すみません!お待たせしました

髙田:うぃっす
じゃあ行くか

上林:うっす


上林誠知選手
日本代表にも選出された経験を持つ、すごい選手
守備での方の強さや、天才的なバットコントロール
どれもが羨ましい限りで、尊敬している選手の一人
コロナの影響で今は2軍調整中


つれていってもらったのは、福岡で有名なもつ鍋屋さん

髙田:ほら、食え食え

○○:いただきます!パクッ
...うんまっ!

髙田:ふふっ、そうだろそうだろ!

上林:うん、おいしい

髙田:誠知、こんな時までクールぶんなくていいから笑

上林:いや、俺これ普通っすよ

髙田:わからんて笑

上林:それにしてもよく打ったな
あのホームラン

○○:あ、あざす!

上林:打った時どうだった?

○○:そうっすね...
打った瞬間は、行った!っていう感覚がありましたけど...
ベース回ってるときは、何も考えられなかったです

髙田:まぁそんなもんよな、なぁ...

上林:...まぁ

髙田:最初の打席で初ヒットで、次の打席でホームラン...
いいよな...
誠知はどうだったけ?

上林:自分は...ファーストフライです

髙田:え?そうだっけ?

上林:そうっすよ
ヤフオクでの1軍戦ですけどね

髙田:あれ?2軍戦は?

上林:それが覚えてないんすよね...
やっぱ1軍の方がインパクト強すぎて

○○:1軍戦と2軍戦はやっぱ違いますか

上林:そうだね、俺はかなり違うと思う

○○:どういったところが...

上林:やっぱりドームだったり、外野席まで人がいるってなると人の数が違うし...
メディアの注目度も違うし、ファンの人の熱量も違ったりするしね

○○:そうですか...

上林:このまま結果残して上がって来いよ
待ってるから

○○:はいっ!

髙田:そうね
俺もうかうかしてらんないしなぁ...

上林:そうっすよ
でも髙田さん超えるなら守備何とかしないとな笑

○○:うっ...

髙田:確かになぁ笑
今日何回かファンブルしてたもんな笑

○○:うぅ...

髙田:確かに学生の時とは打球スピード違うし、そこは慣れよ笑

○○:...頑張ります

髙田:ほら、じゃんじゃん食ってどんどん成長してくれよ

○○:はいっ!ありがとうございます!


上林:はいドンッ!

髙田:誠知...お前すごいな笑


自分の目の前に置かれたのは、アニメで見るような山盛りのご飯

○○:...いただきます!
ガツガツ

髙田:おぉ!いい食べっぷり!


そこからは腹いっぱいになるまで食べた...
初ヒット初ホームランのお祝いってことで上林さんと髙田さんに奢っていただいた


そんな幸せな気分で寮に帰るが...


○○:うわっ...和からいっぱい連絡が来てる...
先輩たちとのご飯で全然携帯見てなかった…

和から30件ぐらいの着信とメッセージ...
何かあったのか...それとも...



数時間前...

美空:にゃぎ~、帰ろ~

和:...うん

美空:...○○君に会いたいの?

和:...

美空:もう...
あそこの取材ゾーンの近くで上がってくる選手たち見れるよ

和:ほんと!?
行こ行こ!

美空:ほんとに...
(大好きなのね...)



でも…


和:...あがってこない...

美空:ほんとだね...

和:ムゥ...


美空:あっ...もう今日は終わりだって...

和:...帰ろっか

美空:うん...



筑後からの美空との帰り道
美空が気を遣ってくれたのか、いっぱい話しかけてくれたけど…
ごめん美空、内容頭に入ってこなかった…


美空:じゃあ...また大学でね

和:...うん
美空、今日はありがと

美空:ううん!こっちこそ!
早く大好きな弟君に連絡してあげな

和:うんっ!


美空と別れて一人暮らしの家までの帰り道
○○の今日の活躍が頭の中に再生される

プロ初ヒット...
そしてプロ初ホームラン...

あの時の○○かっこよかったなぁ...


でも...

和:あの時、○○こっち見てなかった...
いつもなら打った後、必ずこっちにガッツポーズしてくれるのに...


高校時代、マネージャーをしていたときに○○としていた約束
○○がヒットを打った後塁上で、又はホームランを打った後、必ず私に向かってガッツポーズをしてくれた

私はそれが何よりもうれしかったし、私だけっていうのが嬉しかった...

プロに入ってもそれが見れる、そう思っていた
だけど...今日のホームラン打った後、してくれなかった


単に私を見つけられなかっただけなのかなとかも思った

でも...
心に残った少しだけ寂しい感じと、○○がどこか遠くに行ってしまうような感覚は、胸から消えてくれなかった



和:はぁ...ただいま...


帰宅の言葉が虚しく響く空間
高校までは○○がいたのに...


和:ブンブン
私はいつまで過去にしがみついてんだろ...
もう○○は次の一歩を踏み出してるんだから!

私は自分へそう説教をして、残った家事を片づけることにした


でも段々と寂しくなってきて...

和:もうさすがに○○に連絡してもいいよね...

ピリリリリリ ピリリリリリ...


和:...出ない
5分後にまたかけるか...



ただ、何回かけてもかけても繋がらない

もう私の心は限界が近かった

大好きな弟に嫌われたのかもしれない
もうつきまとわないでって...
そう思われてるのかも...


そんなネガティブな自分が心に顔を出し始めたその時


ピリリリリリ

和:!?
○○からだ...

ピッ

和:...もしもし

○○:ごめん、和
何回も連絡くれてたのに出れなかった

和:...ううん
私も何回もしつこくてごめんね...

○○:...和、泣いてる?

和:...

○○:どうしたの?

和:...○○に...嫌われたっておもって

○○:俺が!?なんで...

和:...いつものやつやってくれなかったし...
連絡も繋がんなかったし...

○○:あれはごめん...
初めてホームラン打ったのに、自分自身びっくりしちゃって完全に忘れてた...
連絡もさっきまで先輩と飯行ってて出れなかっただけで...

和:でも...寂しかった...

○○:ごめんって

和:今度いつオフ?

○○:えぇっと...
ごめん...休みないかも

和:ムゥ…

○○:ほんとごめんって
和の事、そんな簡単に嫌いになったりしないって

和:...じゃあ約束
試合の日、毎回最後に取材エリアの近くに行くから、そこで少しだけでも私と会って

○○:...わかった

和:約束ね!

○○:うん、約束ね

和:じゃあ...またね

○○:うん

和:初ホームランと初ヒット、ほんとにおめでとう
凄くうれしかったよ!またね!

ピロン



和からの最後の言葉...
すごく胸に響いた

今日の試合で得た課題の方にばっかフォーカスしてたけど...
自分の活躍に喜んでくれる人たちに向けて、自分は何もできていなかったな
プロになったのに...


和との通話が終わった携帯をもう一度見ると...

敦L:もうホームランとヒットかよ
ほんとにすごいやつと野球をしてたもんだ
おめでとうな

あやめL:和にいいとこみせてあげれてるようで良かったよ
ほんとにおめでとう


○○:...グスッ

ずっとお世話になってた敦と、自分も乃木坂で芸能活動が大変なのに気にかけてくれるあやめ
あと高校の野球部の連中と、同級生からも連絡が来ていた


どのメッセージもおめでとうとか、誇りだとかすごく嬉しい言葉が書かれている
それを見てこみ上げてくるものがあった


ずっと自分はまだまだとかこれじゃだめだ...
そう自分に厳しく、周りの言葉には謙遜もしてきた


でも心のどこかでそれに疲れてたんだな
謙遜ばかりで自分が壊れてしまいそうだった

プロという厳しい世界に入ったから、今まで以上に自分を追い込まないといけない、満足したら終わりという意識が自分の中で強かった

でも...

活躍したことで嬉しい反応をくれる人たちに自分は何かできただろうか
ストイックであることが全ていいことじゃない

自分に向けられた嬉しい言葉を受け入れて、今度はその人たちのために活躍しないと...

そう気付かされた開幕戦となった


~~~~~~~
コーチ:小久保さん!

小久保:どうした?

コーチ:藤本1軍監督から、2名あげてくれと...

小久保:そうか...

今日活躍したのは、井上○○と川村の二人だけ...
どちらも育成選手
まだ1試合だけっていうのもあるが他がパッとしない中であげるのは...

小久保:ポジション的には?

コーチ:野手で2名と...

小久保:...

コーチ:小久保さん?

小久保:...あげれそうなやつは...いない
そう回答しておいてもらえるか?

コーチ:えっ?

小久保:今の2軍の選手たちはこのまま1軍に送っても足手まといになってしまう
そう感じたと伝えてくれ

コーチ:...わかりました


1軍で経験させることももちろん大事
でも...そこにはいろんな人の生活も関わってくる
そこに無責任に誰でも送り込むなんてことはできない

明日、上の人と選手たちに話をしてみるか...








To Be continued...

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