自慢の弟は一番最後 14話
支配下登録になって以降...
カキーーン
○○:しゃあ!!
2軍での試合が主戦場となっている○○は5試合連続マルチ安打と絶好調
守備もセカンドだけでなく、ライト、レフト、サードといろんなポジションをそつなくこなし、さらに評価を上げていた
そのアピールの甲斐あって...
ピロリン
○○L:次のロッテ戦、1軍登録になった!
和:....よしっ!!
ついにきたっ!
○○が火曜日から始まる千葉ロッテ戦の登録選手に選ばれた
和:...家に帰って来いって言われたし...
○○を応援がてら帰りますか
月曜日の午前中に○○からの連絡で知ったため慌てて準備して、午後一の新幹線を予約して...
アウェイのマリンまでの乗り換えを調べる
でも嬉しさしかなかった
その時間が幸せだった
これだけずっと応援している選手、ましてや身内がプロの1軍のグラウンドに立つんだから…
うっきうきで準備できた
幸いにも大学は夏休み中
平日に動けるなんて学生の特権だよね
和:よしっ!
じゃあ行ってきます!
家主のいなくなる空間に別れを告げ、博多駅へと急ぎ....
和:あっ!やばい!お母さんたちへのお土産おいてきた...
まっ!いっか!謝ればなんとかなる!
新幹線に乗っていると...
ピロリン
『8/26ソフトバンクの登録選手が変更されました』
和:ほんとに○○入ってるよね...
疑っていたわけじゃないけど、夢なのか現実なのか知りたかったから
通知が届くや否や、すぐに確認する
福岡ソフトバンクホークス
登録抹消: 外野手 31 栗原陵矢
選手登録: 内野手 69 井上○○
和:すごい...ほんとに入ってる...
この通知を受けて実感する
あぁ、夢じゃないんだと...
新幹線が駅に到着すると...
○○母:和~
母が迎えに来てくれていた
和:あっ!お母さん!
○○母:久しぶりね、元気にしてた?
和:うん!
○○母:そう、ならよかった!
帰ってきて早々ごめんなんだけど、和を連れていかなきゃいけない場所があるから...
和:私を連れていかないといけない場所?
○○母:...うん
ほら、荷物持ってあげるから貸して
和:うん...ありがと...
お母さんに漂う悲壮感を少しだけ感じながら病院に到着する
坂道総合病院
和:ここって...
○○母:そう...○○と和が生まれた場所よ
和:お母さん...なんでここに連れてきたの?
つれていかないといけない場所ってここ?
○○母:...ほら、行きましょ
私の言葉...聞こえてない?ってくらいスルーしていく私の母
受付のスタッフに手紙を見せて、会議室へと案内される
ガチャ
○○父:おっ...来たか
和:お父さんまで...
ねぇ、お父さんお母さん
ここで何が行われるの?
○○母:....
コンコン
病院長:すみません...お待たせしました
○○母:いえ...
病院長:...別室で待たれてますので連れてきますね
○○父:...そうでs
○○母:待ってください!
まだ...受け入れる心の準備ができてなくて...
ねぇ...なんなのよ、ほんとに
気持ちの準備って何よ...
お母さんもお父さんも深刻な顔しちゃって...
病院長:...では先に検査をしましょう
○○母:...グスッグスッ
○○父:わかりました
和、行ってきなさい
和:...はい
私は戸惑いながらも検査室へ連れていかれ、採血と口の粘膜を採取される
その間も母は泣き続け、父が一生懸命慰めている
私は何も聞かされていないから、事の重大さを知らない
だけど...ここまでの流れでなにも感じないわけじゃない
何かすごく嫌な予感がする
病院長:お待たせしました...
○○父:いえ...
病院長:こちら...検査結果です...
渡された紙に記載されていたのは...
血液型:B型
和:私ってB型だったんだ...
あれ?待って?お母さんもお父さんもA型だよね?
○○父:コクッ
高校の生物の授業で習った...
母のそのまた親も、父のそのまた親もA型の家族
だからA型の両親からB型の子供が生まれることは...
病院長:残念ながら理論上ありえないんです...
和:...
そして一番下に記載された文字を目にする
DNA鑑定:一致せず
病院長:...結果は...想定されたものでした...
○○父:そう...でしたか...
○○母:...うわぁぁぁんグスッ
『一致せず』
たった一文、だけどその一文は私の心にすごく突き刺さってしまった
私が家族だと思っていた人たちとは、血が繋がっていないんだと...
この家族の一員ではないんだと...
今まで一緒に過ごしてきた時間
父の優しさ、母の包容力
そして...
○○と本当の兄弟ではないと言われたこと
悲しかった...つらかった...
姉弟として過ごしてきたこれまでの大切な時間も、全部違ったんだと...
間違えが生んだ偶然で家族になった私たち...
もう私は井上家ではないんだ...
じゃあ私は○○の近くになんていれないじゃん...
もう...家族ではないただの別人なんだから...
和:はぁはぁはぁ...
○○父:和?和!
私の身体はその言葉に拒絶反応を起こし、過呼吸になっていた
病院長:おい、看護師を呼んできなさい
スタッフ:はいっ!
新生児の取り違え...
絶対に起きてはいけない事故が起こってしまっていたのだ
病院長:申し訳ない...そんな言葉では取り返しのつかない大変なことをしてしまったこと
心よりお詫び申し上げます
大変申し訳ありませんでした...
○○父:...
○○母:...グスッグスッ
病院長が経緯を説明してくれた
井上家に双子の赤ちゃんが誕生した日の同時刻
2部屋ある分娩室で同時に赤ちゃんが生まれ、病院では1日に3人の新生児が誕生した
当時病院の近くで大きな交通事故も発生し急患も多かったらしく...
病院スタッフが足らず、管理が疎かになってしまい取り違えが発生してしまったと...
そして取り違えが発生していることが発覚した経緯についても教えてくれた
相手方の女の子が献血の為、血液検査を受けA型であると判明する
だけど、両親はどちらもB型であるため優性遺伝の法則上、起こりえない
そのためDNA判定をしたところ....という流れらしい
コンコン
??:失礼します...
病院のスタッフさんが呼びに行ったのだろう
看護師さんとともに、私の"本当の両親"と○○の"本当の姉"が入って来た
だけど過呼吸になっていた私は、"本当の家族"をしっかり見れなかった
??:あの...すみませんでした
そういって○○の"本当の姉"が頭を下げる
○○父:頭をあげて?あなたのせいじゃないんだから
??:それでも....私が血液検査なんてしなければ....DNA診断なんか行かなければ...
井上家のみなさんを巻き込むことなんかなかったのに....
○○父:そんなに自分を責めないで、ね?
"咲月ちゃん"
咲月と呼ばれたその子は、"○○と血の繋がった本当の姉"
感情も呼吸もぐちゃぐちゃのまま、その後の話し合いを何とか聞けたけど...
もうそこには感情がなかった
○○父:遅かれ早かれ、こういった事実にぶち当たってしまうから
だから咲月ちゃん、あなたが謝ることじゃないんだよ
咲月:...グスッ
菅原父:私たちも事実を受け入れるのに相当時間を要しました
おそらく、井上家の皆さんもそうだと思いますので...
病院長:...そうですね
今後の話し合い等に関してはまた設定させていただきます
菅原父:...
病院がそれぞれ2つの家族の絆を壊したこと、私たちは許すつもりはありません
ただ、この事実を受け入れざるを得なかった子供たちへの支援をどうか、お願いします
私は...この言葉以降の記憶がない
気がついた時には....
和:どこ...ここ...
○○父:あぁ..良かった
母さん、和が起きたよ
○○母:うん...うん!
おはよ、和
○○父:ここは病室だよ
あの後過呼吸が酷くなってで倒れちゃったからね
和:そっ...か
色々なことが起こりすぎた今日
整理しようとしても心がついてこない
ガラガラ
○○:和!
和:○○...なんで...
○○:父さんから和が倒れたって連絡来てたから...
チームに外出許可取って出てきた
和:そっか...
○○:どうした!なんで泣いてるの?
私は知らず知らずのうちに涙が流れていた
○○は今日起きたことを知らないから困惑するよね...
和:...○○、2人で少しお話しよ?
○○:ん、いいよ
和:お父さんお母さん
ごめん、2人にしてもらってもいい?
○○父:わかった
母さんの体調もあるし、今日はもう遅いから2人で帰るよ
和:わかった
○○父:○○はいつ戻る?
○○:一応明日の試合はナイターだから、それまでに間に合えばOKかな
今日はもう調整してきたから大丈夫だし
○○父:そっか...
和、ごめんな
こんなつらい目に合わせて
和:...ううん、いずれは向き合わなきゃいけないものだったから
○○父:そうか...強くなったな、和
和:...
○○父:あなたは何を言われようとも私たちの大事な自慢の娘
そこは変わらないから
和:うん...ありがと...
○○父:今日はゆっくり休みな
じゃあ○○、和のこと頼んだよ
○○:話が全然見えてこないけど...わかった
一方...
咲月:こ...ここは?
菅原母:病室よ
咲月:そっか....よいしょ...
菅原母:ちょっと!どこ行くつもり?
咲月:あの子とお話がしたい
菅原母:でも今行っても...
菅原父:大丈夫、行ってきなさい
咲月:お父さん...
菅原父:何か感じたんだろ?
それがあの子にとってもお前にとっても心の助けとなるなら行ってきなさい
咲月:...うん
和:グスッ...
○○:いいよ、落ち着いてからで
和:...ごめん
○○の顔を見ると泣いてしまう
受け入れたくない事実と向き合う覚悟が...私にはまだ持てない...
コンコン
○○:はい
咲月:し、失礼します...
○○:えぇっと...すみません、どちら様でしょうか?
咲月:そ、そうですよね...
私、菅原咲月と言います...
○○:はぁ...
和:...○○、あなたと血の繋がった本当の姉よ
○○:はっ?何言ってんの?
姉は和だろ?
和:...フリフリ
○○:...は?意味わかんない...
咲月:...無理もないです...
私から詳細ご説明してもいいですか
○○:...はい
それから咲月ちゃんが起きたことをすべて話してくれた
○○:なんだよそれ...
咲月:...
○○:...でもそれが真実、なんですよね
咲月:はい
○○:...
和:...○○...ごめんね...
試合の前日にこんな...
○○:...ごめん...俺帰るね...
和:...うん
明日、頑張って...
○○:...おう
ガラガラ ピシャン
咲月:弟さん、何かスポーツやられてるんですか?
和:野球をやってるんです...
初めての1軍の試合なのに...
咲月:大学生ですもんね...
和:いや、プロ野球選手です
咲月:へっ?
和:...そうなんです
ソフトバンクホークスの選手で...
咲月:す、すごい...
和:彼の姉であることが誇りでした...
私の自慢の弟だったから...グスッ
咲月:...そのことでお話が...
...................
和:えっ!?
ついに始まるロッテ戦
困惑の中、○○は初の1軍での試合を経験する...
To Be continued...
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