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ヒロイン

先生:じゃあ今年の文化祭の出し物は...

"自主制作の映画"に決まりました!

パチパチパチ

先生:じゃあ学級委員の弓木と田村、いろいろ任せて大丈夫か?

奈於:はい!

真佑:大丈夫です!


高校の文化祭
誰にとっても青春の1ページとなる瞬間だから皆気合が入る

ここ乃木坂高校でも文化祭の開催される
芸能科に当たる3年10組の出し物は、自主制作の映画


真佑:じゃあまず何やるか、案がある人~?

遥香:はーい!

真佑:おっ!かっきー!

遥香:ラブコメ的な感じな映画はどう?

真佑:おっ!いいね~!

奈於:ほかにある?
多分みんな思い描いているのはこれだと思うんだけど...

『賛成!』『いいよー!』『これしかないっしょ!』

真佑:よし...
じゃあ...配役決めようか


ここで皆の目の色が変わる
芸能科ということもあり、皆が狙うのは主役...ではなく、ヒロイン

なぜかって?
このクラスは男女比がおかしく...
男子1人、女子16人


しかもその男子1人は、最年少で日本アカデミー賞を受賞した中村○○
甘いマスクと優しい性格で皆から愛される俳優
主役はこの○○になるのは決定事項なのだ
ちなみに今日はドラマ撮影により欠席している

真佑:じゃあヒロイン...
は決めるのに時間かかりそうだから、先に脚本とかそっちやりたい人ー!

悠理:はーい

真佑:おっ!悠理ちゃん!
何やりたい?

悠理:私、脚本と監督やりたい!

真佑:ほんと!?

悠理:うん!
私、そっちの方に興味があったからやってみたい!

真佑:みんなもいいかな?

『いいよー!』『悠理ちゃんの書く世界楽しみ!』

真佑:じゃあ悠理ちゃんよろしくね!

悠理:うん!

真佑:ほかにいるかな?


『...』


真佑:...じゃあみんなヒロイン希望だね...

奈於:ヒロインは一人、後は悠理ちゃんの書いてくれた脚本に合わせて決める感じで

真佑:うん、そうだね!

奈於:じゃあ...あみだくじで決めよう!



真佑:よし...じゃあみんな書いたね

『うん』

真佑:じゃあ...たどっていくね?



遥香:(○○君と演技したい!)


さくら:(○○君のすごさを近くで感じたい...)


沙耶香:(ここで○○君と距離を詰めて...エヘヘヘ)


紗耶:(とにかくヒロインやって、目立つんだ!)


皆それぞれヒロインへの強い思いを念じて、くじの結果を待つ...



それはこの人も...


瑠奈:(絶対に...○○と作品を作りたい...)

林瑠奈、一世一代の大勝負
実は中村○○とは家が近くずっと一緒にいた、いわば幼馴染
そんな○○と距離を縮められず、クラスの女の子たちが○○を狙ってる
正直焦ってる...

○○が、この芸能の世界に誘ってくれて、作品を作る楽しみを知った
だからこそ...

瑠奈:○○と一緒に作品を作り上げたい...
だから...お願い...神様



真佑:さぁ...今回ヒロインを務めるのは....






悠理:カメラ回った?

瑠奈:うん

悠理:...じゃあ用意...

アクション!

カチン



神様は私には微笑んでくれなかった

脇役で○○と演技するのを悠理ちゃんは考えてくれたけど...
撮り手次第で、作品の良し悪しが変わるカメラマンに手を挙げた



○○:あっ!さくら!

さくら:あっ!○○君!

○○:今日早いじゃん笑

さくら:だって...彼女になって初めてのデートだもんボソボソ

○○:ふふっ
すごいおしゃれさんだね!

さくら:ほんと?ウルウル

○○:うん!
俺、そのセンスないから羨ましいなぁ

さくら:じゃ、じゃあさ///
今日一緒に服買いに行こ?

○○:うん!いいよ!

さくら:やった♪ピョンピョン

○○:ほんとさくらは可愛いな...
じゃあ行こうか!

さくら:うん!

遥香:...私のお兄ちゃんなのに


悠理:カット!
さくちゃん、かっきー、いいね~

さくら:ほんと!?よかった♪

○○:うん、あの表情はずるいよ笑
渾身の演技だったもん、引き込まれた

さくら:ほ、ほんと?///

○○:そんなところで噓つかないって笑

さくら:やった///

○○:ふふっナデナデ

さくら:ふぇ!?/////

○○:入学当初は演技指導ですごく怒られていたさくらがここまで成長してるの見れて嬉しいな

さくら:えへへ///
ありがと♪

遥香:ま、○○君...私は?

○○:遥香もすごかった
なんていうか...目で殺されそうな圧を感じたし

遥香:それっていいのかな

○○:それだけ映像で映える演技だったし、役をちゃんと理解していないとできないことだからすごいことだよ

遥香:ほ、ほんと?ウルウル

○○:だからそんなところで嘘つかないって!笑

遥香:ふふっ!やった♪

○○:みんなすごいなぁ...

遥香:○○君もすごかったよね、さくちゃん

さくら:う、うん///

○○:ほんと?なら嬉しい!

遥さ:(か、カッコイイ...)



悠理:...林はほんとにカメラマンでよかったの?

瑠奈:なんで?

悠理:ほんとはあそこに居たかったんじゃない?

瑠奈:...

悠理:...あの役なら少し○○君と演技できるところあったのに...

瑠奈:...ううん、大丈夫

悠理:そっか...
じゃあもう何も言わないね


ほんとはあそこに居たかったに決まってる
ヒロインを決めたあの日ほど、自分の運の無さを恨んだ日はない
悔しくて悔しくて...
だから脇役になることを拒んでカメラマンという裏方に回った


瑠奈:はぁ...

悠理ちゃんの事だから、脇役に回った子もちゃんと映る時間を作ってくれていた



それからも...

紗耶:○○君、私の演技どうかな...

○○:もう少し顔上げるタイミングゆっくりにするといいかも
ちょっと早いから、せっかくの紗耶のうまい演技が霞んで見えちゃうかな

紗耶:そっか!気を付けてみる!
ありがと!



沙耶香:○~○君♪

○○:ビクッ
あぁ...沙耶香か

沙耶香:ふふっ

○○:沙耶香、役にぴったりだな

沙耶香:やった♪

○○:ほんとはまり役だよ笑
ちょっとメンヘラ気質の女友達…笑

沙耶香:えへへ///


みんな○○と演技をして、ちゃんと会話をしている...
あの時に時間の少ない役でもやらせてもらえていたら...
そんな後悔も頭をよぎる...



美緒:林、なんかあった?

瑠奈:えっ?


美緒:なんか思い詰めた顔してるけど...

瑠奈:...ううん!大丈夫!
ちょっと悠理ちゃんに次のシーン確認してくるね!

美緒:...うん



美緒:...うそつき




あ~!みんなが○○と距離を縮めているのを見ていたくない!
私は誰もいない教室へ逃げ込んだ


だけど変なところで神様は意地悪してきた...

ガラガラ

○○:どうした?瑠奈

瑠奈:えっ!?ちょ...

○○:危ない!

瑠奈:えっ?

ギュ

○○:ふぅ...
大丈夫?

瑠奈:う、うん///

○○:カメラ持ってふらふらするのは危ないよ?笑

瑠奈:ごめん...

○○:もう...そんなに落ち込むなって

瑠奈:...

○○:どうしたの?
俺なら話聞くよ?

瑠奈:...だい...ぶ

○○:えっ?
ごめん聞こえない笑

瑠奈:大丈夫!!私の事は放っておいて大丈夫だから!!

○○:あっ!おい!


いたたまれなくなった私は、○○を置いてみんなのいるところまで戻ろうと廊下に出た


さくら:あれ?るるる、どうしたの?

瑠奈:えっ?…大丈夫なんでもないよ

さくら:そっか…
○○君ってどこにいるかわかる?

瑠奈:…○○ならあそこの教室にいると思うよ

さくら:そっか!ありがと!


なんだろ…役の相談かな…
気になった私は、さくちゃんと○○に申し訳ないと思いつつ廊下から聞き耳を立てた


○○:おう!どうした?さくら

さくら:あ、あのね…○○君に言いたいことがあって…

○○:おっ?なになに?

さくら:あの…その…

○○:ゆっくりで大丈夫よ笑


さくら:さくね...○○君の事が好きなの!
私と付き合ってください!!


もう告白シーンは最初に撮ったはずだ...
それに私もカメラを回していない



○○:...ふふっ
こちらこそよろしく、さくら


ってことは...





その後も撮影は続き...


悠理:うんOK!
じゃあ後はこっちで編集しておくね!

真佑:ありがと!悠理ちゃん!

悠理:こちらこそだよ!
みんなもお疲れ様!クランクアップです!


『わぁーーー!!』パチパチパチ


奈於:じゃあ悠理ちゃんと瑠奈に編集任せちゃうから、それが終わったらみんなでお疲れ様会しよ!


『やったー!!』


撮影が全て終了し、私と悠理ちゃんで学校のパソコン室にこもって編集していた

悠理:林...
見てるの辛ければ、私一人でやるよ?


さくちゃんと○○がくっついたのはすぐに広まった
まぁそれもそのはず…
皆が○○を狙っていたし、一番消極的だと思われていたさくちゃんが射止めたのだから


瑠奈:えっ?...
...大丈夫だよ!

悠理:...ずっと自分を押し殺してると自分が死んじゃうよ?
ここには私しかいないんだし、素直になりな

瑠奈:ほんとに...ポロポロ
大丈夫だって...ポロポロ

悠理:ふふっ


ギュ

悠理:よく頑張った!林!

瑠奈:...うわぁーーん!!

泣いた...人には見せられないほどに
悔しさ、自分の運の無さ、○○にとってしまった態度、ずっと逃げ続けてきた自分の行動...
全てが負の感情となって自分の心を追い詰めていく
もう泣くことでしか自分の感情を消化することができなかった

悠理ちゃんはそんな私を何も言わずに抱きしめていてくれた


作品は何とか二人で完成させた




あれから○○とは会話もしていないし、目すら合わせていない

お疲れ様会でも、常に○○から離れた位置をキープし続けた
○○からは変に思われていただろうけど...


出来上がった作品は、ほかのクラスに圧倒的な差をつけて最優秀賞を取った

もちろん脚本もエキストラもよかった

ただそれ以上に…



ベストカップル賞を取った主人公とヒロインには、誰も勝てない



高校を卒業後、○○は早々と身を固めた

優しい人ほど浮気をする
世間的にはそんな風に言われている


だけど…

○○は一途だからな…
さくちゃんも素直でまっすぐで一途な子...

な~んだ…
幼いころからの想いを成就させることを躊躇しまくった私なんかが、入り込める隙なんてないじゃん…




二人から披露宴の招待状も受け取った

それでも私は出席に〇をすることができなかった


私は、君の物語のヒロインにはなれなかった、ただのエキストラのだから...




...fin

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