見出し画像

梅雨の贈り物

食事処 奥田や

梅雨の時期にしかオープンしない、食事処奥田や
なぜ梅雨にしかオープンしないかって?

それはある俺たちの特殊な能力に関係してくる

いろは:お兄ちゃん!お客さん来たよ!

○○:わかった!席に案内しておいて

いろは:うん!



俺の妹のいろは
妹と言っているが、実は俺たちは血の繋がりがない
そして、共に両親がいない

まぁこの話はあとで...


いろは:こちらの席へどうぞ!

美空:ありがとうございます


○○:一ノ瀬様
本日はご予約いただきありがとうございます
店主の奥田○○と申します

本日、トマト料理と伺っておりますが...
お間違えないですか?

美空:はい...

○○:承知しました
では少々お待ちください

美空:あの!

○○:はい

美空:"故人と話せるご飯屋さん"ってホントなんですか?

○○:えぇ...ほんとですよ
料理をお持ちした後、一緒にお食事を楽しんでいただけます

美空:...わかりましたグスッ

○○:...では少々お待ちください

いろは、頼むな

いろは:うん!
ティッシュ、どうぞ!

美空:あっ...ありがとうございます

いろは:本日お食事を共にされたい方は...

美空:妹の彩です

いろは:妹さんだったんですね...

美空:えぇ...

いろは:少しお話をお聞きしてもいいですか?
答えたくないようであれば、答えていただかなくても構いません

美空:...コクッ

いろは:美空さんにとって妹の彩さんはどういった存在でしたか?

美空:...私は彩が大好きで...ずっとくっついていました
彩はずっと嫌がってましたけどね...
でも私が何か落ち込んでいると、すっと隣にきて一緒にいてくれるんです
優しい妹で...ずっと愛でていたかった、そんな存在です

いろは:そうですか...
お答えできる範囲で構いませんが...どういった最期を?

美空:あの日は、学校帰りに彩と一緒に帰っていたんです
そしたら...ブレーキとアクセルを踏み間違えた車が私に向かってきて...グスッ
彩が...私を庇って…

いろは:そうでしたか...
かっこいい妹さんだったんですね

美空:はい...グスッ
自慢の妹です

いろは:つらい話をお聞きしてしまい、すみません

美空:いえ...
あの...野暮なこと聞くようですが...

いろは:ん?いいですよ、なんでもおっしゃってください

美空:お二人はご兄妹なんですか?

いろは:えぇ…ある一件があって義理の兄妹になった
…そんな関係ですかね

美空:...なんかすみません...

いろは:いえいえ、気にしないでください
私たちが出会ったのは、もう15年前の梅雨...


~~~~~~~
いろは:お母さん!今日の映画楽しみだね!

いろは母:そうね!いろちゃんずっと楽しみにしてたもんね

いろは:うん!

執事:お母様、いろは様、出発の準備ができました

いろは母:わかりました
運転もよろしくね

執事:いえ、本日は私ではなくお父様が運転されると聞いております

いろは:お父さんが運転してくれるの!?やったー!

いろは母:珍しいわね笑

執事:では行ってらっしゃいませニヤッ



○母:今日の夕飯はカレーよ

○○:やったー!
ママのカレー大好き!

○父:○○はいっぱい食べて大きくなりなさい!

○○:うん!大きくなって、サッカー選手になるんだ!

○母:ふふっ
じゃあいっぱい食べなきゃね

○○:うん!



ドン! ガシャン! ゴロゴロ...


見慣れた町で、見通しのいい交差点...
雨が降っていたとはいえ、普段と何も変わらない情景
そんななか、なんの前触れもなく加わった衝撃...

○○:お母さん...?おか...あ...さん

○母:○○...だい...じょう..ぶ?

○○:頭が...痛い...

○母:○...○...
ごめん...お母さん...挟まって...動けないや
こっち...これる?

○○:ううん...痛いよ...いた...

○母:○○?...○○!
誰か!...


いろは:お母さん!お父さん!返事してよ!

いろは母:...うぅ...

いろは:お母さん!

いろは母:いろは...ごめんね...
うちの車...ブレーキが...こわ....

いろは:お母さん?お母さん!


~~~~~~~
いろは:○○の父親と私の父親は即死
○○の母親と私の母親は、車に挟まって動けず、救助活動が行われている時に息絶えてしまいました
でも○○は...意識不明の状態で病院に運ばれ、お医者さんの尽力もあり奇跡的な回復で生還しました

美空:そうでしたか...

いろは:事故の原因は、うちの執事が車のブレーキとアクセルの動線を意図的に組み替えたことでした
まぁ...遺産目当てだったと聞いています

美空:...

いろは:〇〇はいわゆる、交通事故孤児と呼ばれるものなんです
○○は親戚がおらず、引き取り手もいなかった
なので、私の祖父が兄弟として引き入れたんです

美空:そんなことが...

いろは:...〇〇はその事故で生死の間を彷徨ったことにより、今のような雨が多く降る梅雨の季節だけ故人とコミュニケーションが取れるようになったんです

美空:そうだったんですね...

いろは:すみません...
お食事前なのに、こんなに重いお話をしてしまって...

美空:いえ...でも私とほとんど歳も変わらなそうなのに...
ほんとにお二人は強いですね

いろは:いえ...決して強くはないですよ
向き合い続けて、何とかここまで...

美空:向き合う...か



○○:お待たせしました
こちら、カプレーゼになります

美空:うわっ!おいしそう

彩:ね!

美空:!?

彩:お姉ちゃん、久しぶり

美空:彩ー!ギュ

彩:痛い痛いよ、お姉ちゃん笑

美空:ごめんね、彩グスッ
痛かったよね

彩:ううん!お姉ちゃんが無事ならよかった!

美空:うぅ...

彩:ほら、そんなに泣かないの!
トマトいっぱい食べるよ!

美空:グスッうん!
彩!誕生日おめでと!

彩:ありがと!くぅちゃん!

美空:!?

彩:えへへ
いつも呼んでって言ってたから、呼んでみた

美空:ポロポロポロポロ....

彩:ちょっと!何か言ってよ!
恥ずかしいじゃん///

美空:彩ー!ギュ

彩:だから!痛いって!


○○:いい姉妹だね

いろは:うん

○○:よし、次の料理持ってくぞ

いろは:うん!



○○:お待たせしました
トマトグラタンです

彩:やったー!

○○:ふふっ
楽しんでいただけていますか?

彩:はい!ほんとにおいしいです!

○○:ならよかったです
では、ごゆっくり


美空:彩!ほらあ~ん!

彩:くぅちゃん、それやめてっていつも言ってるよね?

美空:ほら!あ~ん

彩:だから~ウグッ

美空:おいしい?

彩:...ほっほまっへ(ちょっと待って)
ゴクン
うん、おいしい

美空:よかった!

彩:でもくぅちゃんが作ったものではないからね
○○さんの料理がおいしいんだから

美空:もう照れちゃって!

彩:んにゃ~




○○:お待たせしました
デザートのトマトジェラートでございます

美空:ありがとうございます!

彩:やったー!

美空:彩!

彩:ん?

美空:これ!トッピング!

彩:これって...

美空:彩が大事に育ててたミニトマトだよ

彩:えっ...

美空:あの後大事に育てたんだ~
今年の初物だよ?

彩:ウルウル
ありがと...くぅちゃん...

美空:ちょっと!泣かないでよ!
美空まで泣いちゃうじゃん...

彩:...もっと一緒に居たかった...

美空:っ!?

彩:でも...もう叶わないんだなぁって

美空:彩?

彩:今日、この食事が終わったら、私の御霊は天国へ行くの
そして...もう...この世界には降りてこれない

美空:...

彩:だからさ、くぅちゃん
私の分まで、楽しんで生きてよ

美空:...ポロポロ

彩:そして、最愛の人とこのご飯屋さんでお話したら、私のとこに来て、思い出話をたくさんしてね!

美空:...彩ー!ギュ
美空も...美空も彩のこと忘れたりしないから!

彩:...ゴシゴシ
ほら、ジェラート解け始めちゃってるよ!食べよ

美空:うん...
(このデザートを食べちゃったら...もう...彩は...)

彩:くぅちゃん?

美空:...食べたいけどさ...食べれないよ...
これ食べちゃったら...もう...彩と会えないんでしょ?

彩:何言ってるの!美空!
私とこうしてお話しできなくても、彩はずっと美空のことを見守ってるから!
美空からは見えなくても、私はちゃんと見てるから!

美空:彩...

彩:ほら!あ~ん!

美空:...パクッ

彩:どう?おいしい?

美空:グスッ...うん

彩:よかった!
あ~おいしいな...

美空:!?彩...体が...透けてきてる...

彩:あ~、もう時間かな...
○○さ~ん!


○○:はーい
あぁ...お時間ですか

彩:そのようです笑
すみません、あれをお願いします

○○:承知しました
こちらですね

彩:はい!ありがとうございます!
美空!ちょっと来て!

美空:...

彩:ギュ

美空:!?

彩:くぅちゃん...いや、美空お姉ちゃん!
私のお姉ちゃんでいてくれてありがと!
もし生まれ変われるなら、また美空の妹がいいな

美空:グスッグスッ

彩:ずっとずっと大好きだよ!

美空:...彩!私も大好き!

彩:ふふっ、じゃあ"またいつか"ね

美空:...うん!



○○:行ってしまいましたね

美空:えぇ...

○○:...あら、首もとに素敵なものつけてらしたんですね

美空:えっ!?
ほんとだ...でも私...

○○:ふふっ、可愛らしい姉想いの妹さんですね

美空:綺麗なピンク...

○○:それはチューライトという鉱石だそうですよ

美空:えっ...なんでそれを...

○○:彩さんからお話を聞いてましたからね
ご自身の誕生日の誕生石だそうです

美空:えっ...

○○:直接話したり触ったりはできないけど...

"私はちゃんと見守ってる"

そう思っているんじゃないですかね...

美空:グスッ...彩...彩!ありがと!!




美空:本日は本当にありがとうございました!

○○:いえいえ...よいお時間を過ごされたならよかったです

美空:今日、彩の誕生日だったんです...

ほんとはこの日を迎えるのが怖かったんです...
大好きな彩の誕生を祝いたいのに...本人はもういない....

でも、今日ここで直接お話しできて祝うこともできました
それがすごくうれしかったんです

○○:ふふっ...素晴らしい誕生日になったと思いますよ

美空:そうですね!ありがとうございます

○○:...誕生日はどんな人でも主役になる日ですからね
生きている人でも、亡くなった人でも
その人のことを想い、思いを伝える
そんな誰にでも必ずある、大切な記念日ですから
これからも誕生日は祝って思いを伝えてあげてくださいね!

美空:グスッ...はい!





...fin

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?