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雪が降って嬉しいのは...


雨の降る夕方は悲しい気持ちになる


でも…雪の降る夕暮れ時は楽しい気持ちになる



『ねぇ!見て!雪だよ!!』


大雪警報が出るほどの降雪の中、そういって彼女は無邪気に話しかけてくる


「そうだね...」

俺は気だるそうに答える

これだけ湿り気を含んだ雪だ
10cmでも積もったら、雪かきがめんどいぞ...

そう考えながらしんしんと降り続ける雪を見上げる



奈央:もう!○○は嬉しくないの?

○○:いや..この雪、重いから積もってほしくないなぁって

奈央:アンチロマンチストかっ!

○○:いやいや...笑

奈央:つまんないのー


そうブウブウ言いながら前を歩く彼女は同い年の幼馴染


今日は午前中から雪が降り始めていた
関東は雪に非常に弱く、すぐに電車が止まってしまうからと学校も早上がりになった



奈央:えいっ!


ボフッ


○○:いたっ!

奈央:えへへ、当たった!当たった!

○○:...やったな


奈央が投げた雪玉が俺の腕にクリーンヒット


そこからはもう...
雪合戦の始まり




奈央:はぁ...はぁ...

○○:あぁ...疲れたぁ...

奈央:こんなにびしょびしょになっちゃった...

○○:俺もだよ...


二人で雪の積もった空き地に横たわる


奈央:ねぇ...この光景、上から撮ったらCMみたいじゃない!?

○○:確かにな...
奈央、なんかあのキャッチコピーでも言ってみなよ笑

奈央:えぇ~...じゃあ...
「答えは雪に聞け。」

○○:懐かし!奈央が好きなバンドがテーマソング歌ってた時のやつだよね?

奈央:そう!
あれを○○とスキー場で聞いた時に好きになったんだよね~

○○:そうだったっけ笑





高校生にもなって、ここまで仲のいい異性の幼馴染がいるなんてお前はいいよな...
なんて周りからめちゃくちゃ言われる

俺だって離れようとしたことあったよ?
周りから冷やかされるのもうざかったし、奈央に迷惑かけるのも嫌だったし...


でも...

彼女の特性なんだろうね...
あの人懐っこい猫みたいな性格と、聞き上手でなんでも相談に乗ってくれる優しい彼女は、
俺を遠ざけてくれなかったんだよね...


高校も別々にしようか、なんて彼女に話したら泣いて嫌がって...
結局、2人で同じ高校に進学

『腐れ縁だよ~』なんて笑いながら彼女は周りには言うけれど...
あいつは俺の事、どう思ってるのかな...




○○:なぁ...奈央

奈央:なぁに?○○

○○:...雪ってさ...
なんでこう、テンション上がるんだろうな...

奈央:確かに!
雨の帰り道はどんよりするのにね!

○○:だよなぁ...

奈央:でもそれは、雪だからじゃない?

○○:どういうこと?笑

奈央:○○は本当に想像力がないなぁ~笑

○○:え?

奈央:まっ!そういうことだよ~笑

○○:どういうことよ..っておい!

奈央:早くしないと置いてくよ~





私の幼馴染の黒見○○
小さいときからずっと一緒に居る私の大切な人

彼はほんとに鈍感で、私の気持ちなんて気がついてくれないけれど...


私は彼に恋してる


彼はほんとに優しくて、こんな私の近くにずっといてくれる

彼を意識し始めたのは保育園生の時

目が大きいことがコンプレックスで、周りに「出目金」だ「宇宙人」だ、言われていじめられていた

そんな時に、現れた小さなヒーロー


○○:ひとがいわれていやなことをいうなっ!


そういって守ってくれた

かっこよかったなぁ...
小さい時から一緒に遊んでたけど、そんな姿見たことなかったから...
幼心ながら、そこから彼を好きになってたんだろうな

それから事あるごとに私の事を気にしてくれて、守ってくれた


私は彼の庇護対象でしかないのかもしれないけれど、ずっと彼のことが好き



でも私に好意を伝える勇気はなかったから...
ずっとこの関係


この関係がずーっと続けばいい
そう自分の気持ちに嘘をついてきたけれど...


今日と同じような雪の降る帰り道
彼から高校を別にしようかと言われたときには、ショックでたまらなかった

もう彼と一緒にいることはできない
そう思ってしまったら、悲しくなってしまった


そしてついには...


奈央:やだっ!グスッ

○○:えっ?

奈央:○○と一緒に居れないなんてやだっ!

○○:奈央....

泣いてしまい○○を困らせてしまった
でもここで自分の気持ちを押し込んでいられるほど、私は強くなかった


○○は○○でやりたいことあったのかもしれない
こんな弱いやつと一緒に居ることに疲れてしまったのかもしれない




それでも!
私の気持ちを伝えないと、彼はどんどん離れていってしまう


何もしないで後悔するのだけは嫌だった


ダメもとで言ってみたら、○○は考えてくれて...
また一緒の高校に行けることになった
そしてクラスも一緒


嬉しかったけど、好意はまだ伝えられてない


言えなかった思いは、雪のように一瞬で消えちゃうのかな...
幼馴染...のその先の関係に進めたらいいのに...





○○:...お、奈央!

奈央:...ん?

○○:ん?じゃなくて...笑
ボーっとしてると危ないよ?笑

奈央:ごめんごめん笑

○○:ほら、帰ろ?

奈央:うんっ!




次の日...


ザァーッ ザァーッ


○○:ふぁ...なんの音?

聞き慣れないコンクリートとプラスチックが擦れる音で起きた朝

○○:...姉ちゃんおは...
あれ?姉ちゃん?

いつもなら早起きして、コーヒー飲んでる姉がいない

どこ行ったんだろうって思ってふと外を見ると...

○○:うわぁ...すげぇ...

外は一面白銀の世界


○○:雪かきか....えっ!?雪かき!?

そこで一気に目が覚め、着替えて外に出る



明香:おはよ、○○

○○:おはよ、すごい雪だね

明香:うん
○○も手伝って

○○:わかった!


雪は深夜も降り続け、20cmの積雪となった

関東では異例の大雪で、交通機関は全部マヒって使い物にならない

道路を見れば、普通タイヤの車はこぞってスタックして、いろんなところで事故っていた

北海道や東北・甲信越の豪雪地帯の人たちからは笑われるだろうね
こんなのまだ良い方だって

でも関東は雪が降ること自体珍しいんだ



○○:ふぅ...


南岸低気圧による大雪は、湿気を含みすごく重かった


○○:あぁ...腰いてぇ...

明香:ね!

○○:姉ちゃんは元気そうだけど笑

明香:まあね


通行の邪魔にならないところに雪を避け、家の前だけでも除雪する
それだけですごく疲れた
腕はパンパンだし、明日絶対筋肉痛...


明香:あんたの学校、今日やるの?

○○:えぇっと...今日は休校だって

明香:やっぱね

○○:姉ちゃんの大学は?

明香:オンライン授業だって

○○:そっか

明香:自分の部屋にこもってるから、入ってこないでね

○○:行かねえよ笑



そんな話をしていると..


ピンポーン


明香:○○~

○○:はいはい...
はーい

奈央:あっ!○○?

○○:おう、どうした?

奈央:今日休校でしょ?

○○:うん、さっき連絡網回ってたな

奈央:じゃあ今日は遊べるね!

○○:まぁ...

明香:なんでインターホン越しに会話してんのよ
玄関に入れてあげるとかしてあげなさいよ

○○:わかったよ...
奈央、ちょっと待っててな

奈央:う、うん...


ガチャ


○○:ごめんな、寒かっただろ

奈央:まぁ...でも大丈夫だよ!

○○:ならよかったけど...

明香:奈央ちゃん、おはよ

奈央:おはようございますっ!

明香:調子どう?

奈央:いい感じです!

明香:ならよかった
今日一日○○使い倒してくれていいから

奈央:えっ!いいんですか!?

○○:おい、勝手に決めんなよ

明香:休校なんだからいいでしょ

奈央:じゃあ明香さん!○○今日借りますね!

明香:どうぞ~



そういって奈央の家に連れていかれた


○○:で、何するよ

奈央:今日ね、お菓子作ってみようと思うの!
だから○○、一緒に作ろ?



そんな上目づかいでお願いしてくんなよ...
断れないじゃんか...


○○:わかったよ

奈央:やった♪


こいつ、こんなに可愛かったっけ...
一緒に居過ぎて忘れてただけか...


○○:何つくるの?

奈央:クッキー!

○○:クッキーか...

奈央:やればできる子、奈央ちゃん
昨日のうちに生地を作って冷蔵庫で寝かせてました~!

○○:おぉ...

奈央:もう...
できる男子なら女の子が頑張っていたら、恥ずかしがらずに誉めるんだよ!

○○:...ごめんごめん

奈央:じゃあもう一度!
やればできる子、奈央ちゃん
昨日のうちに生地を作って冷蔵庫で寝かせてました~!

○○:おぉー!!パチパチ
偉いぞ、奈央ナデナデ

奈央:///
や、やればできるじゃないかっ!

○○:どうも!


奈央:じゃあ、この棒使って生地を伸ばしといて
奈央、型抜き取ってくるから!

○○:はいよー


そういって台所に逃げてきちゃった
型抜きはもう机にあるんだけどね
恥ずかしくなって、嘘ついちゃった

昨日のうちに天気予報見て、大雪で休校になるだろう…
って思っていろいろ考えて準備していた私を褒めてあげたい


それにしても…○○からのナデナデ
さ、最高....!






恥ずかし...
勢いあまって奈央の頭撫でちゃったけど...
嫌がってなかったからよかったか...




奈央:お、おまたせ///

○○:お、おう...
あれ?奈央、熱あるのか

奈央:え?

○○:顔真っ赤だから…
大丈夫か?

奈央:だ、大丈夫!
○○こそ顔真っ赤だけど!

○○:えっ!うそ!


2人とも変に意識し出して、会話がぎこちなくなる



奈央:と、とりあえず続きやろ?

○○:お、おう...



それから奈央が用意してくれたいろんな型抜きで、クッキーの形を形成しオーブンにいれ...


チーン


奈央:できたっ!

○○:おー!うまそうだな

奈央:ねっ!
あっ!私、最後の仕上げやっておくから、ポポちゃんと遊んでて

○○:お、おう...




冨里奈央、一世一代の大勝負…
○○は気がついていないけど、今日は2月14日
バレンタインデーなんだよ?

そんな日を休校にしてくれて、しかも好きな人とお菓子を一緒に作れた
こんなチャンスはもう二度とない

いつもは「義理だよ」なんて誤魔化してきたけれど…
あれはずっと本命のつもりで作ってた

でも私に勇気がなかったから、義理って言って逃げてたけどね...


この好機、逃すわけにはいかない

心臓はずっとドキドキしてるし、手は震える…
でも、もう逃げたくない!!

そう決心して、昨日のうちに綺麗にラッピングしておいた袋にクッキーを詰める




台所を追い出された俺
奈央が飼っているハムスターのポポちゃんのゲージへ向かう

って言ってもハムスターは夜行性だから、ポポちゃん寝てるんだけどね...

○○:それにしても...
ペットは飼い主に似るっていうけど…
奈央の場合、飼い主がペットに似るって感じだよな...


あいつの小動物的な可愛さ
小さい時から一緒だから全部知ってると思ってたけど、全然そんなことない

おれ...あいつのこと...




奈央:○○ー!いいよー!


呼ばれて行ってみると...


○○:あれ?クッキーは?



一緒に作ったはずのクッキーが無くなっていた
奈央のことだから一人で全部食べることはしないと思うし...

そう思っていると...


奈央:○○....これ...


そういって、渡されたのは可愛くラッピングされた小さな小袋


○○:これって...

奈央:...バレンタイン

○○:えっ?


奈央:あのね、○○...
私....○○の事が好きなの

○○:うそ...


奈央:好きで好きで...たまらないの!!
だから...



私を...彼女にしてください!!





そうか...今日はバレンタインデーか
俺には縁がないと思ってたから忘れてた


...初めての本命のバレンタイン
今までも奈央にはもらっていたけど、『義理だからね~』って言われてたから
正直びっくりした


でも...すごく嬉しかった




だから...俺の答えはもう決まってる...


○○:...もちろん
奈央、僕の彼女になってください

奈央:ウルウル
○○ー!


ギュ

○○:ふふっヨシヨシ


奈央:怖かった....
○○に振られるんじゃないかって...

○○:なんでよ笑

奈央:だって...○○全然私の気持ちに気がついてくれないんだもん...

○○:...そんなに鈍感だった?俺

奈央:うん、鈍感すぎ!


そういってぷく顔してくる
こんなに喜怒哀楽が分かりやすく、可愛い人間がいるだろうか


○○:ありがとな...
すごい嬉しかった

奈央:よかった...喜んでくれて

○○:クッキー、食べていい?

奈央:もちろん!
一緒に食べよ!


二人で作ったハート形のクッキー
今まで食べたどの食べ物よりも、暖かく幸せな気持ちになれた


小さい頃からの幼馴染
そこからまた一つ先の関係になった俺たち



外はまた雪が降りはじめた...


そうか...雪が降って嬉しいのは...

奈央が、一緒にいてくれて隣で笑ってくれているからだ…



これからも俺の隣で笑っててね



僕の大好きな彼女さん





...fin

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