短歌
ベーコンとナスのパスタのベーコンとナスが多くてパスタ見えない
明るいと明るいなりに大変であすこのハイボール濃いよ、行こ
あの夜に選んでしまった一音めだから勝手に生き延びてるよ
好きなのがつらいときある 行ってないライブのフォトのみんないい顔
適切な水分量の顔文字を選んでるのでなぐさめないで
靴下を 怒られそうなこと思い出す 花柄を無地のに変える
ツアーTがもうオレンジしかなくて似合わない夏だったなほんと
方形に光がもれてきてここが扉を閉じた部屋だとわかる
明け方のバイクにも人が乗っててもう帰りたいとか思ってて
今回のグッズださいね うれしいね 地元に来てくれてありがとね
大切なほど忘れてくのはそれが心の肉と血になったから
(音楽)
べつにおれ自分のために生きるけど趣味と呼ぶにはありがたすぎる
自由への遠い道のり空中の新幹線のホームをゆけば
指先が震えているような気がして凝視してたら止まった気がする
金木犀のにおいをさせている人がいるから夏が延びんだろうが
もったいないからって理由でサービスのミルク使うのもうやめようか
ロシア人にも孫がいてだから何?だから何って だから何だよ
歩きながら本を読んでた中学生のMizunoが名前だったらいいな
好きな人だから信じるでもよくねエブリシングスゴナビーオーライ
あっち側の山にだけ日光がある 素手で勝てない鳥が飛んどる
あの岩からここまでの影はあの橋でわたしを抜けた影はあの人
狙ってるとんびにパンを見せつけて飛ぼうとしたら隠して遊ぶ
永遠に食いものが出てくる家できっぱり断るのが上手くなる
ばあちゃんが着てたパジャマをいま着てるわたしも明日死ぬかもしれん
道端のどぶからあふれてた水が澄んでたとかを焼きつけている
帰りのバスのことを聞かれて音量を下げる日曜昼のジュマンジ
「店出せるくらいうまい」の「店出せ」を言わない「うまい」だけ何回も
だれもこない車道のどまんなかに立つ 胸をひらくと背中がちぢむ
量産が唯一無二になりえると知らないころに買っていたパン
この家をいつか山から押し流すものを沸かしてお茶にして飲む
うまいもの食っていっぱい寝て遊ぼ体は資本なんかではない
あなたとの間のいくつもの罅にやがて流れる川の名前は
そのスマホわたしのですね「日曜」と打つと予測で出勤します
きみにしか見えない面でその道を照らす宝石だったんだよね
職場から夜ごと抜け出す輪ゴムらの方舟となるあまたの手くび
あったかいやさしいやわらかいそれはわたしの血でできていたけどいい?
激しさと弱さが隣りあいひとはクッキー缶を購いにゆく
かなしみはまっすぐな坂をおりてゆく人それぞれに誠実な背だ
どのズボンのポケットにもライターがありおれはいつでも歌い出せるさ
誰ひとり川と呼ぶのをやめなくて石は渇きを認められない
無造作にちらばる石のどれもみな埋められている偉大さのこと
食べる前から飽きているそうめんにトマトをのせて飽くまでも夏
下ネタで笑うと思われてるらしいシマウマを考えて過ごした
自分の機嫌は自分で取るが今のそれシマウマの前でも言えんのか
梶井基次郎模倣犯対策に丸善がシマウマを導入
いっときは乗れない乗り物としても一躍名を馳せました めでたし
すまなんだシマウマの脚きれいさを褒めたつもりが不快にさせた
さようなら真の主役はシマウマだおれの死体をサバンナに置け
ビール開けて神奈川は会えない距離じゃぜんぜんなくて日本酒にする
行ったことないのにあったような気のふたり深夜のマクドナルドへ
あくまでも幸福をさす矢印に立つ焼きたてのパンを抱くとき
ずっと前から知っていたのねここにあるどの心臓のかたちも音は
どことなく怖い映画の前みたいBGMがやむ瞬間は
マーシャル1960Aそれは名ですか?かっこいい使い魔の
音なんてたかが空気の振動でだからあなたが吹かせた風だ
飽きるほど聴いたコードがああまたも知らない雲を切り開くから
エレキギター発明した人ありがとう明日には羽になる勲章を
いい人間になるんだおれは一度でもあんな拍手ができた体で
もう眠らなければならぬ日光に深夜ラジオは色褪せやすく
草の葉でばったをつつく二人組いて集落めく名古屋大学
傷口がいつか羽ばたきだすときはダーリンきっとそばで見ててよ
店員に「さん」をつけずにいられないあなたの嘘を強さと思う
そんなことはたぶんしないんでしょうけど 「右脳開発小・中等部」
ときどきは自分をすこし好きになるたばこのあとの指いいにおい
炭酸で飲みたかった梅シロップの賞味期限切れを水で割る
自己肯定感の本だけいつ来ても貸し出し中の県立図書館
言いにくいことは言うべきことだから爪ことごとく真っ黒に塗る
風のたびきちんと揺れる髪があり冬の真昼のまぶしい脆さ
水中で息するために浮くことを力と呼んだ学問がある
あまりたくさんつくれなかったが、要所要所でたよりにした。
虐殺が続いている。できることをするしかない。