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「箔標本と神村誠さん」

造形者のための箔標本 FOIL SELECTOR( フォイルセレクター )とコスモテックの歩みは、神村誠さんとの共同研究・共同作業の歩みです。

2011年5月 神村誠さんとの出会い

まずは、コスモテックの代表的な箔押し見本帳として知られる、造形者のための箔標本 FOIL SELECTOR( フォイルセレクター )が生まれる前の話。

神村誠さんとの出会いは2011年5月までさかのぼります。
その当時、神村さんはデザイン事務所(現 NSSG)に在籍しつつ、自身のタイポグラフィを主軸とするデザイン、その活動にも力を入れ始めていた頃だったと記憶しています。

そんな中、偶然にも 現 NSSGとコスモテックの間で 「 箔表現でどこまで細かい文字を表現出来るのか? 」 という加工実験を行う機会に恵まれました。その実験で使用した版をデザインしたのが神村誠さんであり、のちに造形者のための箔標本 FOIL SELECTOR( フォイルセレクター )が生まれる大きなきっかけとなりました。

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神村さんは当時、「 この作品は書体・罫線が、箔押しでどこまで再現可能かを可視化した見本紙 」 と語っておりました。

神村さんが組んでくれた版を用いて、多種多様な紙、さまざまな箔を組み合わせて、箔を押して、押して、押しまくるという…

今考えると凄まじい荒行のような加工実験を繰り返しました。
この頃は僕も、恐らく神村さんもそうであったと思うのですが、 「 探究心 」 のみで動いており、「( 箔押しで )どこまでの表現が出来るのか 」という可能性を探ることに没頭しました。

2012年3月 展覧会「TYP(タイプ)」

この実験から少しの月日が流れ、2012年3月。
タイポグラフィの在り方を探求する実験的なプロジェクト 「 TYP( タイプ ) 」 による初の展覧会が開催されることになり、参加した5名のデザイナーの中の一人が神村さんでした。

運良く、神村さんからお声がけ頂き、この栄えある展覧会に向けてのパートナーの一社として、神村さんとがっつり加工で組ませて頂けたことは今でも嬉しく思い出します。

2011年の実験で使用した版を用いて、スペシャルメタリックカラー箔12色を押した箔見本を「 TYP( タイプ ) 」 内で販売。多くの皆様が購入して下さり、大きな反響を呼びました。

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minimum typefaces reference | special metallic 12 pieces set
 ( 箔押し 書体サイズ見本 )

更に、黒箔・赤箔を意図的にかすれさせた、書体ポスターを製作。
A4サイズの版を2枚使って、合計8回の箔押し表現で構成しており、こちらも「 TYP( タイプ ) 」 内で限定販売しました。

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foil typefaces classification ( 箔押し 書体分類ポスター )
神村さん「 この作品は書体の分類と特徴・代表的な書体・使用見本を1枚にコンパクトにまとめたポスターです。 」

2011年の出会い~2012年のTYP( タイプ )を通して、ヒントを得た、手ごたえを掴んだ神村さんは、ある時僕に造形者のための箔標本 FOIL SELECTOR( フォイルセレクター )の設計のアイデア・全貌、閃きを打ち明けてくださいました。

今まで見たことのない箔の見本帳を

箔メーカー等による見本帳は無料・無償配布が主流だった当時、あえて販売するという手法にこだわり、加工所であるコスモテックが自社製造、そして販売も担うというものであり、そして設計を神村誠さん・発行人を僕とすることで、スムーズに且つスピーディーに取り掛かることが出来ました。

2013年3月 
造形者のための箔標本 FOIL SELECTOR 発売

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FOIL SELECTOR 1.0
発売日:2013年03月21日

2012年の「 TYP( タイプ ) 」からちょうど約1年後、こうして FOIL SELECTOR の初版は発売されました。初版は瞬く間に売れ、発売から約2時間で完売。購入者の大半は、造形者のための箔標本の噂を聞きつけたデザイナーの方々でした。

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FOIL SELECTOR 2.0
発売日:2013年07月03日

2.0 の箔標本に収録された箔は全て、ドイツにある世界最大の箔メーカー クルツのものでした。クルツジャパン株式会社からのアドバイスを参考に、膨大な種類のクルツの箔の中から 「 使い易い 」「 国内在庫を比較的満たしている 」「 今後使って欲しい 」 という3つの観点からセレクト。

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FOIL SELECTOR 2.5
発売日:2013年07月19日

2.5 の箔標本の表裏両面には、それぞれ使用頻度の高い金と銀の箔押しを施しており、箔押し加工に費やす時間も手間も今までの倍。更に、41色もの紙色を使用し、その一枚一枚に紙色の名入れの箔押しも施しております。

金箔×紙色41色・銀箔×紙色41色、合計82パターンという特大ボリュームの箔標本が収録されました。

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FOIL SELECTOR 3.0
発売日:2014年06月25日

3.0 の箔標本は二部構成。
前半は、ホログラム箔20銘柄と白色の紙の組み合わせ。後半は、前半で用いたホログラム箔20銘柄とファンタス・エスプリVエンボスなどのカラーキャスト紙、表面に特有のテクスチャーがついたエンボス紙とを組み合わせた実験的な標本です。

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FOIL SELECTOR 4.0
発売日:2015年03月06日

4.0 の箔標本の設計は、再販希望の多かった初版の設計に一番近い箔選びを展開しました。しかし、全く同じというわけではなく、よりスタンダードに、より実用性を考えたスマートな設計。使用している箔は、全て国内での圧倒的なシェアを誇る箔メーカーの箔材です。


こうして、2013年3月発売から、現在までの販売冊数は延べ1,000冊を超えます。初版時はデザイナーが購入者の大半を占めていましたが、4.0時にはデザイナーをはじめ、同人作家、更には一般の方々までもが購入する箔標本へと変貌を遂げました。

新作を発表するごとに海外からの購入希望者も増えていき、コスモテックの通信販売が海外発送にも対応するきっかけにもなりました。

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神村さんは初版発売当時、このように語ってます。

「 少し便利なものを作ってしまいました。便利なものは創造性を与える一方で, 創造性を無くす危険性もあります。リテラシーをもって, あくまでも, 創造するためのものとして使ってほしい。そういう意味で “造形者のための” とつけました。 」 と。

人気の代償

現在、多くの箔のサンプル帳・見本帳が市場で見受けられるようになってきました。今まで無償・無料で配布されていた見本帳を有料で販売することで、各社の見本帳のクオリティもぐっと高くなったと感じます。

各社工夫を凝らして見本帳を作ってはいるものの、中には安易に模倣したと思われるものもあり、とても残念な気持ちになったり、動揺し、悔しい思いをすることもありました。

そんな時、あるお客様から言われた一言が僕を救ってくれたのです。

『 FOIL SELECTOR は、箔見本帳の先駆けである 』
『 購入者はあなた方( 神村さんとコスモテック )の熱意も買っているのだ 』
『 似たようなものが並んでいても、本物か偽者かは分かるものだ 』

きちんと伝わっている。僕達の思いは、きちんと届いているんだ。
僕達は、僕達が信じる良いものを作り、世の中に送り出すことに集中しよう、と決意した瞬間でした。

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Clearly print is not always beautiful. 神村誠 × コスモテック
『 デザインのひきだし 19 』 付録( 2013年 )

神村誠という生き方

FOIL SELECTOR の前身である加工実験をし、神村さんと出会った2011年。
僕等が偶然にも出会わなければ、造形者のための箔標本 FOIL SELECTOR はこの世に産声をあげることはなかったはずです。2011年、2012年は、恐らく神村さんと僕はお互いの熱量を確認し合い、パートナーシップをもってものづくりが出来るかどうかの手探りの時期でもあったのではないかと今は思います。 

2011年~箔標本4.0を発売した2015年までの5年間は、加工実験・FOIL SELECTOR というプロダクトを通して、神村誠さんのストイックさ、実直さ、内に秘めた情熱を目の当たりにした時期でした。それらを間近で感じることが出来たことが、僕とコスモテックにとっての大きな収穫であり、素晴らしい経験となって今の数々の仕事の中に生きております。

今も誰かの手の中に

箔見本帳としての機能性、実用性、美しさに魅了され、僕等と熱狂を共有し、製品を購入して下さった皆様。ありがとうございました。

今も時折、僕のところへ 「 あの箔標本を参考にして、こんなものを作りました 」 というお便りを頂きます。国内外で1,000冊以上、この地球上の誰かがこの箔標本を大切にしてくれていて、今この瞬間も箔押しの世界に思いを巡らせているかもしれないと想像するだけで胸が熱くなります。


造形者のための箔標本 『 FOIL SELECTOR 』 は更新され続ける、終わりのないプロダクトです。素材( 紙、または印刷 )と箔の種類の掛け算は、作り手と箔押し加工現場との無限のケーススタディ。

また皆さんのお目にかかれる日を夢見て、今も次回作の構想を練っています。コスモテックにとって、大切なプロダクトであるこの箔標本を、ぜひまたお手に取っていただければと願っております。

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【 神村設計株式会社 | 神村誠 】

1989年生まれ。2009年から17年まで都内デザイン事務所2社にてデザイナー、アートディレクターとして従事。

コンサルティングからアウトプットまでを一貫して担当。衣料、消費財、小売、建築、テクノロジー等幅広い分野に渡り、ロゴ、VI、タイプフェイス、ウェブ、アプリ、店頭ディスプレイ、パッケージ、書籍、各種広告物等のデザイン多数。同時期より個人でのデザイン活動も行い、ベンチャー企業のCIリニューアルやフォント開発などを手がける。

Web : https://kamimuraandcompany.jp/

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