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風の記憶、時の雫

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note をはじめてみようと思う。 秋晴れの空を眺めていたら、風がやってきて、 そのときにふと思ったわけです。
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#ショートショート

一夜の夢

同じように厚い雲に覆われた夜空を見ていました。 龍が雲の切れ間から覗いていたあの空です。 月の光が漏れてくるのでわかりましたが、 また雲の切れ間が出来つつありました。 すべてが寝入っているように、周りは静かで ぼくだけが空を見上げているようでした。 やがて切れ間は広がり、月光が充ちてきます。 そこに何色もの色の層が見えるのです。 「虹だ!」頭の中はそう叫びました。 夜の月光に照らされた虹の一部が、 雲の切れ間から見えていることに気づきました。 それがゆっくりと回るように動いて

神々の実験 Ⅰ

神話と言われた時代。 地球上には数多の神々がいた。 人間はまだ他の生物とさほど変わりなく 進化の途上にいた。 神々は地上にも海にも天空にもいた。 やがて神々は地球の統治から 手を離そうと考えていた。 人間に智慧と道具を与え、言葉を与えた。 そして壮大な実験を始めた。 人間が地上の守り神たり得るのかどうか 失敗を繰り返しても我慢強く その進化を見守った。 やがて人間は文明を築き始め 世界各地へと活動範囲を広げるまでになった。 神々が次第に手放したおかげで 人間は好き勝手に

異世界の扉

タンスの扉を開けば その中は見たことも行ったこともない 異世界に続いている タンスの中に隠れて 気配を消そうしたけれど 異世界に引き込まれそうにな戦慄を感じた 扉は異世界との結界だった こちらとあちらを守っている 互いに身動きできない世界が音を潜めている これに気づく時間は短い 好奇心が五感を勝るこどもの時間だけ 恐れの誘惑が手招きする 闇夜のような光のない世界で 息をひそめて目を慣らし 覗き見しようにもいつも開くわけではない 異世界の結界は こどもとオトナを隔てて

虹の立つ丘

あの日は朝から不思議な天気だった。 長く降り続いた雨のせいで気温は下がり 秋の肌寒さが際立っていた。 そうかと思えば、いきなりさーっと晴れて 雲をどかし太陽が空を覆った。 まだ水蒸気が空気中にあふれていたので 傾いた太陽を背にして 虹が立ち上がった。 その虹はそこら中で見られたそうだ。 虹は幸福を運ぶ前兆だという。 半円を描いた虹はどこが端で どこに掛かっているかわからない。 そこが憧れを強くする。 分解された光が地に足をつけたように 立ち上がった端を見た。 虹の端が見

大勢のなかの星

星たちは いつもそこにいた ぼくたちは それに気づかないでいた 星たちは ぼくらを気にもとめず ぼくたちは 存在しているだけの星だった 悠久の宇宙のなかで 存在すら微かなものでしかない その惑星にすんでいるぼくたちは 宇宙にともだちをつくりたいと思っている それは本当にそうなのだけれど コンタクトをとろうとしている人たちは 果たしてそうは思っていないかもしれない それをどこかで見抜いている星の民は いっこうにコンタクトには応じない それをどこかで見抜いてしまった星の民

ふくふく話

「なぁ、なんでおれら両手挙げてるん?」 「おまえ、そんなこと知らんと両手挙げてるんか?  これな、右手がお金を招く、左手が人を招くというやろ。」 「ほな、両手を挙げるんはお金も人も招く、ということか。」 「そういうことやな。」 「贅沢な話やな。」 「いやいやそうでもないで。お金だけでは幸せになれん。」  人に恵まれているだけでも暮らしを良くするにはお金も  最低限必要や。つまりは幸せには両方必要ということやな」 「ふむふむ。なるほどな。わかるでそれ。」 「そういえば、おれら

教授

「考え事ですか?教授」 「ん…世知辛い世の中になったもんだなぁ、とね。」 「1年前もそんなこと言ってませんでした?」 「ん…1年前よりひどくなっているな  …と思うばかりだからね。」  ・・・・ 「レポート、ここに置いておきますね。」 「ああ…後でみておくよ。」 ※写真:Art & Design(2014.9.4)

黄金の頂

黄金の頂に巡り会えし者よ 足をそこに停めよ 選ばれし者として郷に戻れよ さすれば 望みを叶えし力を授けん されど、決して頂に登ろうとするなかれ そこは選ばれし者とて 踏み入れてはならぬ 許されざる頂と知るがよい 選ばれ、許されし者だけが 踏み入れることが叶う頂ぞ だが、忘れるではない 踏み入れても郷に帰れるとは限らぬ 人間には侵してはならない 踏み入れてはならない領域がある 畏敬の念を抱かず振る舞うならば 黄金の頂の怒りを蒙るであろう ※写真はBEAUTIFUL PL

独り占め

「おい、何か見えるか?」「うん」 「俺にも見せろよ」「俺も…」 「う〜ん、見ないほうがいいよ。」「なんでや」 「人生の闇が見えるから…」 写真:ArtPics - Photography © Laura Pashkevich

一つの地球、何度目かの人類

星は降らない ただそこにある 人類が生まれるずっと前から 長い歳月のそのまた遥か遠く 恒星の宿命を負い 輝き続けて その一部が地球に 何光年もの旅の果てに 届いているにすぎない 人類が知性を獲得したのち その事実に意味づけをした そして神話が生まれ 時間の概念が生まれ 暦ができた 暦を司る者は 大きな力を得て 一族の支配者になっていった やがて人類は進化をし 文明が花ひらき 固有の文化が生まれた 何万年もの間に 自然から畏敬を持って学び 人間の暮らしに役立ててきた知恵

妙にカラダが軽いと思ったら 胸にぽっかり大きな穴が空いていた しまっておいた大切なものや あふれるばかりの感情が 勝手にもれだしては困るので あわてて両手でふさごうとした 一箇所をふさいだら 別の場所にまた穴が空いて 風が勝手に通り抜けて行った おいおい大丈夫か どうすれば穴がふさげるのか 次々と開いていく穴と ふさごうとする手の追っかけあい 手でふさぐのをやめたら 穴は一箇所でどんどん大きくなる 何かでふさがないと 何かで充たさないと 焦るぼくは 見つけられない

催涙雨

今日は新暦の七夕、星まつりの日です。 織姫と彦星が天の川を渡り、 1年に1度会うことを天帝に許された日です。 あいにく、今日の天気は午後から夜にかけ 雨予報。待ち望んでいた星合いは地上からは 見えそうにありません。 今年も催涙雨になりそうです。 催涙雨とは、7月7日に降る雨のことをいいます。 七夕の年に1度しかない機会に会うことが叶わない ふたりの流す涙ともいわれています。 また、会った後に再び別れなければならない 惜別の涙とも言われます。 一方で、その涙で天の川が氾濫

オルゴールはタイムマシン

今日6月10日は時の記念日。 この日によく思い出す話がある。 それはオルゴールと時の話。 オルゴールって不思議な魅力がある。 魔力と言ってもいいかもしれない。 小学生の低学年の頃だったと思うが、 僕は一つのオルゴールを持っていた。 きれいな箱のオルゴールではなく、 機械むき出しのオルゴールだったけれど、 ひとりで鳴らしてはシンプルな その音色の美しさに虜になっていた。 どこにでも持って行っていた。 田園風景の広がる田舎だったので、 田んぼの畦道を散歩しながら、 小さな小

浴室

今日も疲れた… 声にならないため息で女はつぶやいた。 女の眼は腫れぼったくはなく むしろとろんとした趣きで 視線を床に落としている。 あれからどうしたろう。 よく覚えてない。 2日前の夜のことを思い出そうとしても 途切れたフィルムのように 記憶が空回りして先を辿れない。 そのもどかしさから いまも抜け出せないでいる。 浴室に入る視線の先で 剥げかけたペディキュアの赤が 少し痛々しく映った。…あ… そのとき心の中を見ているように 切りとったフィルムの一片を見つけた。 つな