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風の記憶、時の雫

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note をはじめてみようと思う。 秋晴れの空を眺めていたら、風がやってきて、 そのときにふと思ったわけです。
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#言葉

初秋のとき

秋がやってきて 夏の影を踏んだ 驚いた影の主は秋に振り向き 君はまだ早いと言うように 秋の目を見た 言葉にならない言葉で ぼくに悟られないように 夏風にさらっと言った風は ぼくの耳元でささやき やがて去って行った 居座った夏は容赦なく 日差しを投げ込んで 地上を燃やし肌を刺す 渇いた悲鳴も届かぬふりをして 残された夏時間を燃やす 秋はその傍らで 粛々と準備をはじめ 片時も自覚を忘れない 宣言するまでもなく 少しずつ季節を進めながら やがてくるその時まで 夏の影を踏まぬ

沈黙

沈黙はいつのときも深いものだが なぜか音は聴こえてくる ささやくような さえずるような 言葉のような 音楽のような 沁みるような音が聴こえてくる 沈黙は深刻なものではなかった 心地よい音に染まるには 沈黙は必要だった ひとりの沈黙が結ぶ声に 私がつぶやくのは愛の言葉だった

神々の実験 Ⅰ

神話と言われた時代。 地球上には数多の神々がいた。 人間はまだ他の生物とさほど変わりなく 進化の途上にいた。 神々は地上にも海にも天空にもいた。 やがて神々は地球の統治から 手を離そうと考えていた。 人間に智慧と道具を与え、言葉を与えた。 そして壮大な実験を始めた。 人間が地上の守り神たり得るのかどうか 失敗を繰り返しても我慢強く その進化を見守った。 やがて人間は文明を築き始め 世界各地へと活動範囲を広げるまでになった。 神々が次第に手放したおかげで 人間は好き勝手に

思考Ⅰ

何もなかった まだ何も生まれてなかった 脳が独自に思考を始める前に まず学ばなければならなかった この世界は何でできているのか なぜわたしは存在しているのか そしてわたしは何者なのか しかしわたしは思考の術を保ち得ていない だからまず学ばなければならなかった 目にするもの、聞こえてくるもの 触れるもの、体内に取り入れるもの すべてが学びの対象だ やがて言葉を覚え、思考の術を得た そして発することができるようになった 次に意思を疎通することが できるようになり、脳内に何か

あなたのそばで

激しくても 穏やかでも 日は昇り 日は暮れる 時は一定の速さで歩みを続ける それが地球のリズムだった 地上に生きとし生けるものは そのリズムの上で生きている 感情を持った人間だけが リズムの狂いに声を上げる 駆け抜けていく季節のそばで 追いつけない人間がいる 取り残されることを 表現できない言葉でくくる 季節を送ることも 迎えることも あなたの装いで知る あなたは目線の先の未来を見ている ぼくはかける言葉を探している 地球のリズムに乗った時の中で 夜空を見上げて もっ

叫ぶ

ぼくらは叫ぶ そして落胆する 発した声が届いているのか 反応は何もない 胸の内の底深く たまった思いをぶつけるため叫ぶ 距離がありすぎるのか 声が小さすぎるのか 胸の内の苦しさも切なさも 言葉に変えて 叫んでみている ありったけの力の限り 反応がないと知ったとき ぼくらは落胆する 諦めきれない思いは 何度でも叫ぶしかない 大切なことだから 叫ぶのをやめることはない 胸の内から湧き上がる 叫びはかけがえのない命だから

走る先に

一生懸命に走っていた 時間を追い越そうとするように 汗が目に入ろうと 息が上がりそうになろうと 走っていた日々はどこかにある 自分が思うより言葉は届かない もどかしさを残したまま 一生懸命に君を思うとしていた 走る先に 願いが叶えられそうな時間がある 届かない言葉に 変わる言葉を探して ぼくは走っていた 胸が締めつけられるように苦しくても それしか思いつかなかった 君が見ていてくれるか 走っているときには関係なかった ただぼくの思いを遂げたい それだけのために懸命に走っ

ヒロシマ

何もかも失った 1945年8月6日 残ったものは瓦礫と屍と 焼けただれた体を晒すだけの命 積み上げた歴史を 一瞬にして書き換えた それでも失わなかった 言葉だけが焦土の街に残った 生きている言葉は生々しい 使い古された言葉は冷めている 冷めた言葉が再生するとき 新たな文脈を獲得したとき 失くしたものを見つけ出したとき 祈りは鎮魂の空を超える

アンダーグランド

今の世の中は諦めの中にある 希望に満ちた世の中でも 信じられる未来もない ひとりでは生きていくには辛すぎる 世の中を動かしている世相は 再び混迷の中にある 良心はアンダーグランドに生きて 嘘まみれの表の世界には出てこない 諦めの思いに良心は押され 苦しさの淵に閉じ込められる 息継ぎができない空気の中で もがくことさえ諦めようとしている 空虚な言葉が垂れ流されても 心一つ動かない 封印したシュプレヒコールが 身体の中でこだまして飛び出せない 生きていくために良心を捨て

頭の中の辞書

頭の中にある言葉 心の内からわきあがる感情 どう結びつけたらいいのだろう いつももどかしい いつも何かが違う 自分の中から生まれるものなのに どこか自分のものになっていない そのズレが悲喜交々な話をする 笑い話になるなら許そう 笑ってすませるなら許そう 悔いが残るほどつらいなら 口を閉ざしたくもなる 思うほどに頭の中の辞書は 自慢できるものではないらしい どこで編纂をさぼったのだろう 用例採集を続けてないだろう これが人間の成長過程なら わたしもまだ途中なのだ

生きている言葉、死んでいる言葉

梅雨の最中だけど、 夏日が2日も続けばもう梅雨明けしたのかと 勘違いするのもわかる。 梅雨の晴れ間といえばそうなんだけど、 この日差しは容赦ない。 買い物などクルマで出かけて、 駐車場が炎天下だと ほんの小一時間でも クルマの中はめっぽう暑くなっている。 よくちいさい子どもを車中に残し、 遊びに行く親が毎年のように問題になるが、 大人でも耐えられない暑さの中で 泣くことしかできない子どもの苦しみや いかほどか。 ちょっとの想像力もあれば 容易にわかりそうなものだけど。

五月雨

梅雨に入ったと思ったらもう蛙が鳴き始めた。 四国の梅雨入りは平年より21日早く 統計開始以来最も早いらしい。 梅雨明け予想が7月17日ごろというから これから2ヶ月は梅雨ということになる。 あ〜ぁ、うっとうしい。 だけど、言葉とは不思議なもので、 五月雨といえばうっとうしさはかなり消え、 趣さえ感じるものだ。 五月雨は梅雨どきの雨のことを指し、 早苗を育む慈雨ともいう。 ちょうど田植えの時期だし、 夏野菜を育てる恵みの雨としてはしっくりくる。 それに「五月雨」は詩歌によく

ありがとうの花束を

ありがとうの花束を贈ろう 広い世界でいつも味方でいてくれるあなたに ありがとうの花束をつくろう たくさんの贈り物をくれたあなたに向けて ありがとうの花束を贈ろう 心やさしい存在で居てくれたあなたへ わたしはあなたの愛情で生きてきました ささやかな気持ちを花束に込めて わたしが遠くにいても手紙をくれたあなたに ありがとうの花束を贈ろう わたしの心が苦しくて、悲しくて、寂しくても あなたがいることが支えでした 幸せのかたちをあなたの生き方で学んできた わたしだから、あ

創作する者

創作する者の苦しみと喜びは 創作する者にしかわからないと言います。それは、 読者の苦しみと喜びとは質的に違うからです。 だから、創作する者は孤独なのです。 でも、それが、 読者の癒しや共感として結びついたとき、 著された言葉は使命を果たすのだと思います。 その時には、創作する者の孤独は もう居なくなっているのではないでしょうか。