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PDエアロスペースの挑戦!下地島スペースポート建設の舞台裏

コスモ女子は、2021年9月15日にPDエアロスペース株式会社(以下、PDAS)代表の緒川修治(おがわしゅうじ)氏にインタビューをさせていただきました。 

 PDASは、誰もが宇宙へ行ける未来を実現するために、宇宙飛行機の開発や、沖縄県の下地島(しもじしま)でアジア初の有人・宇宙旅行の拠点となる「スペースポート」の建設に取り組むなど、宇宙輸送分野において最前線で活躍するベンチャー企業です。 

 PDASの代表である緒川氏は、2007年にたったひとりで起業し、宇宙飛行機と新型エンジンの開発をスタート。 

現在では約40名の社員と、数多くの企業や団体とプロジェクトを立ち上げ、宇宙分野の発展に貢献されています。また、プロボノ制度を取り入れて、専門知識や技能を生かしてプロジェクト参画したいという個人が活動できる「宇宙ハウス」も立ち上げられています。 

 今回のインタビューでは、第一線で宇宙開発に取り組まれている緒川氏から、宇宙飛行の基礎知識、宇宙開発をはじめたきっかけ、そして宇宙開発に対する想いについて、お話しいだきました。 

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スペースポートの建設を下地島空港ではじめられた理由はなんですか?(緯度が低い方がいいなどの条件があれば教えてください。) 

まずはベースとなる知識からお話したいと思います。 

◯スペースポートの種類 
 スペースポートは、ロケットのように垂直に打ち上げる「発射場型」と、航空機のように水平に離着陸する「滑走路型」の両方が定義されています。 

 国内においては、発射場型は、種子島宇宙センターや内之浦(鹿児島県)などがあり、滑走路型は、下地島空港(沖縄県)や大分空港(大分県)があります。大樹航空宇宙実験場(北海道)は、両方の機能を持つ計画です。 

◯宇宙飛行のタイプ 
 宇宙飛行のタイプには、大きく4つあります。
①地球の軌道から他の天体の軌道に移る「軌道間遷移飛行」、
②人工衛星のように地球の周りをぐるぐると廻って遠心力と重力のつり合いで飛行する「周回飛行(オービタル飛行)」、
③宇宙空間に達するものの周回軌道に入らず、地球の重力に引かれて落ちてくる「弾道飛行(サブオービタル飛行)」、
④弾道飛行の派生で宇宙空間を使い別の場所に到達する「二地点間飛行」があります。 

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ここで、もう一つ、重要な理解が必要です。 

 ②「周回飛行(オービタル)」には、A)赤道面と同じ面を飛ぶ"(地軸に対して)横方向の赤道軌道"と、B)北極と南極を通過する"縦方向の極軌道"があり、用途に拠って使い分けられます。気象衛星や国際宇宙ステーションは、赤道軌道で、GPS衛星やSAR衛星は極軌道で飛んでいます。 

 人工衛星を赤道軌道に飛ばす場合は、赤道に近いほど地球の自転速度を利用できるのでスペースポートは赤道に近いほど良いですが、極軌道に飛ばす場合は、スペースポートの場所はどこにあっても同じです。 

◯スペースポートの場所で考慮する条件 
 スペースポートの場所を決めるにあたっては、「海や砂漠など人が居ない領域に面していること」が望ましいです。 

 ロケットや人工衛星は、秒速7.8km(第一宇宙速度)に達しなければ、地球の引力に引っ張られて落ちてきます。 
第一宇宙速度まで加速させるのは容易ではなく、単段のロケットで加速させるのは今の技術では難しいため、多段式でロケットを分離(燃料タンクなどを切り離す)しながら速度をあげていきます。 

分離したものは落下するため、安全を考慮して飛行ルートは人が居ない領域を選ぶことになります。結果、スペースポートは海や砂漠に面していることが良いとなります。 

 最近では、ロケットも使い捨てではなく、逆噴射してスペースポートに戻す技術や有翼の機体開発が進んでいるので(PDASも有翼式の機体を開発中)、変わっていく部分はあると思います。 

しかし、やはり現時点では、安全に研究開発を進めていくためには、人が居ない場所の方がスペースポートの設置に適していると考えています。スペースポートの在り様は、これから変わっていきます。この点はまた別の機会にお話ししたいと思います。 

◯スペースポート建設に下地島空港を選んだ理由 
 PDASは2007年の会社設立当初より、日本でスペースポートをつくるなら、北海道か、沖縄県が有力であると考えていました。特に、私たちの機体は有翼の航空機タイプなので、滑走路型が必要でした。 

 沖縄県の下地島空港は、パイロットの飛行訓練場であり、民間機の往来が少なく、燃料タンクや管制塔などの大型航空機の離発着や燃料補給が可能な設備が整っている点、周囲が海であり人が居ない点、南北に民間飛行空域が備わっている点など、好条件が整っていました。 

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機体開発だけでも膨大な労力と投資が必要かと思います。それでもスペースポートの開発を決断された理由は何ですか?

回答としては、「已む無く(涙)」です。 

 PDAS創業後、ほどなくして"リーマンショック"が起こりました。この影響で、パイロット訓練をしていたJALとANAが下地島空港から撤退。空港を管理する沖縄県は、維持する費用がかかることから、下地島空港の活用方法を模索することになりました。県は、下地島空港の利活用事業案の公募を開始しました。
(平たく言えば、滑走路長3,000mの空港が、空き物件として"売りに出される"ことになったのです。) 

 私も「使いたい」と思っていましたが、突然の出来事で慌てました。まだ飛ばす機体はできていないですし、会社を一人で切り盛りしていた時でしたので、とてもじゃないですが対応出来る状態ではありませんでした。
しかし、他者に渡っては国内での開発環境が無くなってしまうので、急いで下地島空港の獲得に向けて動き出しました。結果、初回(2014年時)では、最終選考で落選し、第2回募集(2017年)に再挑戦。そして、昨年(2020年)に採択頂けました。構想から10年、提案から7年かかりました。いやー、長かった。 

 視点を変えます。 

 PDASは、機体を開発するメーカーなので、機体を作って販売する=使ってもらうのが仕事です。
しかし、宇宙旅行を実現させるためには、機体を作るだけでは全く足りておらず、販売・運航・メディカル・法整備・スペースポートに至るまで、個々の"プレーヤー"が存在していない為、全部やらなければいけないのが現状です。もし、やりたい人がいたら、ぜひ代わりにやって欲しいというのが本音です。いつでもお渡しします。(笑) 


サブオービタル宇宙旅行では、無重量を体験する以外の差別化が必要だと思いますが、どのような差別化を考えていらっしゃいますか? 

 宇宙旅行において、宇宙へ行ことは自体は、どこから出発しても(飛んでも)結果は同じです。なので、宇宙に行って帰ってくる以外の「周辺パッケージ」で差別化を図ることが大事だと考えています。宇宙旅行はレジャーであり、宇宙に行くというエキサイティングな体験と、その周辺のラグジュアリーな体験ができるかというのがポイントだと考えています。 

 この点において、下地島や宮古島は海がとてもきれいで、マリンアクティビティも充実しています。家族や友人と島を訪れ、きれいな海を見ながら優雅なパーティーができる環境を提供出来ると思います。 

 しかし、残念ながら現時点では、宇宙旅行は、一般の方が手に届く価格帯ではないので、まずは富裕層のニーズを掴むパッケージを作ることが必要です。 

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宇宙旅行に民間の人が行くには、どのくらいの費用がかかりますか? 

冒頭に述べた「宇宙飛行のタイプ」に拠って、それぞれで金額が変わってきます。 

(1)軌道間遷移飛行:月の周りに行って帰ってくる 100億円 
(2)オービタル飛行:国際宇宙ステーションに滞在する 25億円 
(3)サブオービタル飛行:宇宙に達して直ぐに落下 3,000〜5,000万円 
(4)番外編:気球を使って高度40〜50kmに浮遊 650〜700万円 

 PDASが提供するサブオービタル宇宙旅行の費用も、当面は、3,000〜5,000万円程度になります。(すいません、、、)現時点では高額となりますが、利用者が増えていく事で、価格を下げる事が出来ると考えています。 


 「宇宙ハウス」の取り組みについて、プロボノを募集された経緯や、実際の活動について教えてください。 

2007年の会社立ち上げ当時は、お金がなくて、社員を雇うことが出来ず、ひとりでやるしかありませんでした。
しかし、当社の活動が新聞に出ると、大学や企業から「何か手伝えることはないですか?」との問い合わせをいただいて、プロジェクトに参画いただく形をとりました。 

 同様に、個人の方からも、自身の専門知識や技能を生かして「何かしら手伝いたい」という問い合わせを頂いていたのですが、受け入れ体制が整っておらず断っていました。
しかし、「宇宙に携わる敷居を下げるための活動場所を作くろう」という想いから、皆が集まる活動拠点「宇宙ハウス」を作りました。 

 当初の思想は、プロボノメンバーが各自テーマを持ち込み、自身がやりたい事を行う事を目指して発足させましたが、スタートさせてみると「宇宙のことはやりたいけど、宇宙の何をやりたいか、自分は何が出来るのかがわからない」という状況でした。
そこで、PDASの事業を手伝ってもらうスタイルに変えました。それが今の宇宙ハウスの活動の基本になっています。
もちろん、設立趣旨は今も残っているので、宇宙ハウスで学んで、独立していくのは大歓迎です。


もともと緒川さんは飛行機のパイロット志望だったそうですが、たったひとりで民間宇宙機を開発するに至った当時の思いや、継続してこられた原動力を教えてください。 

ははは。(笑)
お恥ずかしながら、問題を先送りにしてきた結果の何物でもありません。 

子供の頃から志望していた戦闘機パイロットになれず、次の民間パイロットもダメで、その次に宇宙飛行士を目指すも叶わず、でも航空宇宙分野に携わっていたいとの思いで、先へ先へと問題を先送りにしてきた産物が今の私です。(笑) 

 そんな中で、アメリカでたった50名規模の会社が、自分たちでロケットを作って宇宙に行ったのを目の当たりにしました。「パイロットも宇宙飛行士も選んで貰うのを待つもの。
しかし、これからは、自分達でロケットを作って、自身の意思で宇宙に行く時代なんだ」と思いに至りました。結局これも、問題を先送りしているだけなんですけどね。"極度に諦めが悪い"ということです。 

 こうした考えの背景には、父が町の発明家みたいなことをやっていたこともあります。家には実験室があり、工作機械やジェットエンジンがあり、「ない物は自分で作る」という発想が培われていたことも大きな要素になっていると思います。 

 研究開発の世界は、「千三つ(センミツ)」と言われています。1,000個のアイディアを出しても、世に出るのは、その内の僅か3つ程度です。997個、99.7%は上手くいかないという意味です。それでも、やり続けるには、強靭な意志が必要です。 

 幸か不幸か、私は「それが普通。当たり前」の環境で育ちました。ヒト・モノ・カネのいずれも無い私が唯一誇れる力だと思っているのは、この強靭な意思/心であり、「失敗に対する切り替えの早さ」です。 

どんな局面においても「失敗は当然!」「やってみて出来なかったら、別の方法でやってみよう!」「出来る、出来ないではなく、やるかやらないかだ!」という気持ちが「普通に」あるから、開発を続けてこられたと考えています。(人に言われるまで、気づいていなかったです。笑) 

 今になって気づいたことが、もう1つあります。 

10年間ひとりで宇宙開発を続けてきて、それまでは単に「宇宙開発がしたい」「宇宙にいきたい」という自分の理由で開発や事業を行ってきました。 

 しかし、「今、自分はどうして、こんな大変なことをやっているんだろう?」(先送りの結果、どんどんハードルが上がっているのに、、、)と考えた時、これまでに接してきた多くの人の殆どが「宇宙へ行ってみたい」「地球を見てみたい」と言っていて、その気持ちが、自分に取り込まれていて、いつの間にか「自分が宇宙へ行きたい」から、「みんなに宇宙からの景色をみせてあげたい」に変わっていました。
その為には、安くなければならない、安全でなければならない、その為には、新しいテクノロジーが必要で、自分の得意な技術開発の分野で、これを進めて行きたいという思いに変わっていました。今はその思いが、開発、事業を進める大きな原動力となっています。 

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今後、女性が宇宙業界で活躍するために、宇宙業界にとって必要なことや、活躍したい女性にとって必要なことは何ですか? 

私は男性なので、女性の社会進出の課題が見えていない部分があると思いますので、的外れな意見かもしれませんが、必要なことの1つは「何でも、やってみなよ!」です。 

 勝手に自分で諦めたり、壁と感じて尻込みしたりするのではなく、もし壁があるなら壁をつついてみることから始めてみてください。私も壁だらけの中で、文字通り手探りで、正しい答えが分からないまま、この開発・事業を進めています。
押し返されることも多々です。それでも、やらないよりはやった方がいいし、やれば何かが変わる可能性があります。千三つです。なので、とにかく、「Do!」です。 

 そして、もう1つは、何がやりたいのかを「明確な意思を持つこと」だと思います。 

 ニュースペース(ベンチャー企業や民間宇宙団体等によって進められる宇宙開発)では、女性の比率も高く、男性女性といったことに関係なく動いているように感じます。私も社員採用時を含め普段も意識したことないです。

年齢、学歴、バックグラウンドも、ある意味、関係ないと思っています。もちろん、スキルが高い方が良いですが、足らなければ埋めればいい。それよりも、何をやりたいかを明確に持って、必要なスキルを猛勉強して身につけていくことが大切だと思います。
本当にやりたいなら、どんな努力も出来るハズです。(よね。笑) 


さいごに 

今回、緒川氏へのインタビューでは、宇宙飛行の基礎知識から今後の展望、そして緒川氏の宇宙開発に対する想いを伺うことができました。 

 宇宙旅行を私たちの身近なものにするためには、開発だけでなく、環境整備も必須であり、それらを実現させるために、国や自治体、多くの企業や関係団体を巻き込みながら、プロボノメンバーとも協力し、挑戦されている緒川氏のお話がとても印象的でした。 

 また、今後私たちが宇宙分野で活躍していくうえで、「自分が何をやりたいのか」を明確に持ち、実現に向けて「本気で努力すること」が大切だと激励のメッセージもいただきました。 

 コスモ女子は、2022年度に世界初の女性中心のチームで人工衛星を打ち上げるプロジェクトを進行中です。今後とも宇宙に関するイベントの開催や、宇宙分野で活躍されている方へのインタビューなど、情報発信しながら宇宙分野を盛り上げて行きたいと思います。 

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〈コスモ女子について〉 

「宇宙を身近な存在に」をテーマに発足した女性コミュニティ。 

宇宙に関する専門的な勉強会から、宇宙がちょっぴり気になる初心者でも楽しめるイベントなどを定期的に開催しております。 

宇宙に興味のある女性のキャリア形成、ビジョン実現を応援し、たくさんの女性が宇宙業界で活躍できる場を増やすことを目指しています。 

世界初の女性中心のチームで人工衛星を打ち上げるプロジェクトも進行中です。 

※2022年度打ち上げ予定 

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