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真夜中の自転車日記


数年ぶりに自転車に乗った。
しばらく徒歩や電車、車での移動が多く、自転車に乗る機会がなかったのだ。

久しぶりの運転は、近所の公園までだった。

その日の夜、弟が公園に行きたいと言ったので、私もついていくことにした。
弟が自転車を引っ張りだしてくるのを見て童心に返った私は、思わず”私も乗りたい”と言っていた。
弟は小さい子というわけでもなく、自転車も普通のママチャリなのだけれど、その日はなぜか自転車が輝いて見えた。きっとテンションが高かったんだ。

自転車に乗らない私は、残念ながら自分の自転車を持っていない。
そこで行き道だけ弟の自転車を貸してもらうことにした。

今でも乗れるかな、と少し緊張しながら足を乗せる。
不思議なもので、数年乗っていなかったのにも関わらず自然に身体が動いた。

数年ぶりなのに乗れたよ、という当たり前のことを自慢げに弟に話す。
ちょっとしたアトラクションのようで楽しかった。
上機嫌で自転車を漕ぐ。

自転車に乗ると、頬に触れる風がいつにも増して心地良い。

以前乗っていた時は気づいていなかったのか、はたまたしばらく乗っていないせいで忘れてしまったのか。
自転車って、こんなに気持ち良いものだったっけ…。

そこで、これは夜だからだ、と気づく。
前に自転車に乗っていた頃は、真夜中に保護者無しで出歩いてよい年齢ではなかった。

少し大人になったんだなあと思う。
冷たさと、湿気のあたたかさが混じった夜風は、日の出ている時間とは違った感触や匂いを運んでくれる。
そんな特別感のある夜風と、久しぶりの自転車が相乗効果を発揮する。

初めて自転車を漕いだ子どものような声のトーンで、”青春だー”と言いながら進んだ。
弟は横で笑っている。

帰り道は弟が自転車を漕いで、私は歩く。
自転車の隣を歩くというのも、趣があるなあと思う。
夜は人をわくわくさせる能力でも持っているのだろうか。

夜の外出は安全とは言い切れないけれど、たまにはこんな日があってもいい。
隣にいる弟を見て、このささやかで大きな幸せをずっと感じ続けていきたいと思った。

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