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『イタリア的考え方ー日本人のためのイタリア入門』を読む−第4章イタリア的思考−終章イタリアへの招待

ファビオ・ランベッリの著書2冊目のこちらもいよいよ最終盤。多様なイタリア人のことを考えることを通じて、自分の思考の背景にあるものはなにか、「日本人」とはそもそもなんなのか、と考えることが増えている。他者を客観的に見ることは、自分のことを客観的に見つめることに繋がるということを実感している。

■概要

近代は「滑らか」で均質の文化的空間を作ることが目的だったが、前近代はいくつかの異質で比較不可能な空間・知・習慣などの不安定なコンビネーションであり、イタリアにはそういったものが生き残っている。

西ヨーロッパでは近代イメージの基礎である北型と、南型の知=イタリア的思考の形態がある。北型を選んだ日本はバブルを経て日本文化や日本人のアイデンティティの見直しの中で、イタリアを再評価し始めた。

イタリア文化・社会の特性をダヴィッド・ビドゥッサは古代と現代が共存する「両棲類」というメタファーで表現した。

イタリア文化において個人を定義するのは家族や友人ネットワークであり、田舎では「家族型個人主義」(家族>個人)、都会では「交際型個人主義」(家族+友人>個人)となる。個人の利益がこのネットワークの利益になるが、それは政府や国に反する性格も持つ。政府や国が機能しない時はこのネットワークが相互扶助機能を持つ。先進国のイタリアでこのような昔ながらの社会構造が機能するのは両棲類の証明の一つである。
これらのネットワークは相互に重なりあるオープンなもので、ポジ:オープンで明るい社会の設立に貢献、ネガ:マフィアや汚職、政治的不安定などを導くといった両面を持つ。

またイタリア人は個人的自由を重視する文化の結果、時間拘束を嫌うが、好きな仕事をしている人はよく働き、生産性も高い。公務員の生産性は低いがそれは特権として生まれたこと、権威主義的システムの結果として、実務をやったことがない上層部が決めたことは変更できないため、能率的な仕事をやめてしまうからである。

イタリアの中小企業では近代的社会制度と個人的自由の「両棲類」バランスがうまくいっている。個人の創造性(=自由)・個人中心の社会ネットワークを生かし、会社の中でも自分の存在価値を確認できる。海外でも自分の街を自慢する「カンパリズモ」のように地域を大事にする。

一方で、このネットワーク外の存在を絶対他者とみなす閉鎖性や無関心さもある。これらの結果、利己主義・他者への無関心・冷淡な態度・社交性・好奇心・個人ネットワーク拡張のためのやさしさなどの特性が理解できる。国民国家やナショナリズムの恐ろしさが明らかになった現在では、イタリア的思考は興味深いモデルと思われる。

ファッション等も含めて、イタリア人は全て自分に好都合に仕向ける能力を持っているようにも見え、国家が問題を抱えていても個人は楽しい生活が送れると考える。

形作られた思想や統一された伝統的な考え方(思考の自由を制限する)や絶対的真理を前提して全体主義等の悲劇を生み出す強い理性を否定・克服し、柔軟な理性は、差異・複雑性・多様性を生きやすくする。

カンパリズモのイタリア人は方言・文化含めて多様かつ相関するネットワークの中で生きており、様々なものが交流・拡大し続ける。これからの社会を考える上で、参考になる部分が多い。

■分かったこと

イタリアと日本は双子という最後にかかれている言葉がとても染み入ってくる。明治の頃に欧州を見た日本からの派遣団は、植民地にされないようにするための「強さ」を求め、本来多様性あふれる場であった日本の地域を一つの国家として統制するための我田引水的な制度導入を「北型」の国々からまさにバロック的に入れていった。
時代環境が変化する中で、今、そしてこれからを考えていくときには、日本の「鏡」のような存在のイタリア、そしてイタリア人の思想を客観的に見ていくことで、共通するところ・違うところが自分の中にある「日本的思考」が見えてくる。20世紀の「北型」社会の仕組みの中で、押し込められてきた一人ひとりの中にある、その日本的思考を自覚できたとき、そこからがこれからの社会のあり方を考えていく第一歩なのだと思う。

■ランベッリ氏へ質問したいこと

・現在の「北型」の社会システムを加速する方向にあるGDP等に代わる、あるいは追加すべき指標はどのようなものが考えられるでしょうか。

・多様性が増せば増すほど、「外」の人に対する排他性が高まってヘイトクライムが発生するといった現実もある中、ネットワークを拡張していくことによる効果を高めていくには、どういったことが必要でしょうか。自分の中にある「◯◯人的思考」を自覚しつつ、他者との違いを寛容に楽しんでいくという姿勢やベースとなる地域でのコミュニティの豊かさが大事なのではと考えていますが・・・

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