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『イタリア的考え方ー日本人のためのイタリア入門』を読む−第3章「極楽」イタリアの日常生活

【概要】
国民の生活は公式の制度や構造に規定される。現在の制度等は、昔からの民俗的・社会的・文化的事物が根底にある。そういった国民生活を規定する機関や制度は、時期・目的が色々であるために今では矛盾していることが多いが、新たな理念を作れる思考は整っていない。イタリアはそれが顕著で近代国家のイデオロギー等が危機に陥ると地域共同体の中にアイデンティティを捜すようになった。近代国家の負の面を徹底的に避難しない限り、古い国家の概念は神話化されて危険になる可能性がある。

■イタリア人の一般的な生活
・教育制度
教育制度からは知識体系、時間割、共同体の相互作用などが見えてくる。大学には高校を卒業していれば入学試験はないが試験が最後にある。カトリックの教理・理念「生を受けたときは原罪(無学)によって特徴づけられ、神の恩寵に浴するが善悪行為はその人の自由意思により、終局は最後の審判で裁かれる」の影響が大きい。人は変化することを受容するので学部も変わりやすい。

地理的な分布も興味深い。高校は町の中心部にあり、職業学校は郊外にある。支配階級の子弟教育は町の中心=文化の中心にあり、一般人は周縁というのダイナミズムを表している。歴史的にイタリアでは文化・教育は上流階級のもので、一般人は教育・文化を支配の仕掛けと受け取り、不信があった。王国成立後も同様で、ファシズム政権も教育が批判力を生み出すこともあり、大衆教育に力を入れなかった。だからこそ共和国政府では社会主義・共産主義運動の影響もあって批判力を育成し、ファシズム再発を防ぐために知識・情報よりも個人の考え方を伸ばすことが教育目的となった。
 一般的にイタリア人は制度を大切にしない傾向があるため、組織的に根本から変えずに内から段階的に内容・規則を変え、新しい制度を取り入れていく。結果、異質な仕組みが共存して優柔不断になったり、根本的な変更がしにくい。前近代の伝統とのバランスを保ちながら近代の制度等を持つ「両棲類国家」とも言われる。

・徴兵制度
イタリアは平和憲法だが自国防衛のための徴兵があり、18歳男性は1年間軍隊で訓練を受ける。一人ひとりが国家の構成部分であるという意識付けと理念の浸透が目的である。イタリア統一後から制度ができたことは「イタリア人を作ること」が目的だった。男性の通過儀礼・変身儀礼の役割も果たした。女性は家庭の要としての役割が期待された。

・職業
学業と仕事は両立しないという考えなので、学生は夏休み以外働かない。学歴によって大きく仕事に差がある。経営と現場では様々な隔たりがあり、階級意識が再生されている。そのため中下級従業員にとっての仕事は、トップを豊かにするためのものであるため、十分な休みを求め、家族を大切にして自由な生活をするための手段である。

・家庭
家族を重く見る考え方がはカトリックの影響が大きい。年寄りも時代背景に応じて役割を変えながら大事にされるし、家族は経済的理由もあって同居が多い。つまり「家族」の制度を国家・社会・文化が時代に合わせて再生し続けているとも言える。

【分かったこと】
日本人には「極楽」に見えるイタリア人大衆の人生の背景には、時代や歴史を経て形成されてきた、表面的あるいは部分的に変化したとしても根本的には変化しない様々な「制度」「不信」の中で暮らしていくための知恵があった。どうせ生をこの世に受けたのなら精一杯人生を謳歌するために、信頼できる身内を重視する、そのために雇用者(上流階級)に資するだけの苦役であり、生きる手段に過ぎない仕事を極力減らして、自由時間を効率的に確保する、といったことに集中していった長年の努力(?)の蓄積の結果といえる。
ここまで読んできて、一方で、「上流階級」とされる人々の人生に対する姿勢はどうなのだろうか。ポジティブに捉えれば教育・文化を育み、社会を引っ張っていくというnoblesse oblige的な感覚を持っているのかもしれないが・・・

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