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「三方よし」から「五方よし」へ

近江商人の経営哲学として「三方よし」はとても良く知られた言葉だ。「売り手によし、買い手によし、世間によし」ということで、「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方だ。近江商人にルーツを持つ企業が多い京都でも、「三方よし」は経営者のモットーとして語られることが多い。

一方で、地場産業のモノづくり関係の方々のサポートなどに取り組んでいるときに、色々な違和感を持つようになった。小売価格に対して、作り手の方々の取り分が少ないという事実だ。これは業界によって異なるので一概には言えないが、場合によっては作り手の販売価格の10倍くらいの価格が最終小売価格に設定されていることもある。結果、作り手の利益は低く抑えられ、自己資金での人材の採用・育成、技術の研究・開発、そして新たなチャレンジなどができないという状況に置かれている。このあたりの根本的な仕組みが変わらない限りは、色々な小手先の取り組みをしたところで改善しない。

ちなみに商人が職人に対する態度として、もう一つしばしば語られる言葉がある。それは「職人は生かさず殺さず」だ。
「ものづくりをする人間は、お金持ちになってはいけないし、おカネを貯め込んでもいけない。かといって貧乏になるような振る舞いをしてもいけない」という考え方だ。これが一定程度上手くいった時代もあったからだろう。この考え方の底には「いくらでも作り手が存在する」という前提がありはしなかっただろうか。国内の人件費が高くなったからアジアの安い人件費のところに移る、といったことも含めて。

一方で、文化は地域の様々な人々の日々の活動を通じて育まれる精神的な行為の積み重ねであり、その要素を構成する存在が欠けると衰退・喪失していってしまう。

だからこそ、ビジネスの仕組み等のアップデートはもちろんのこと、上記のような考え方のアップデートが重要となる。
そこで考えられるのが「作り手」「伝え手」「使い手」「社会」「未来」の5つが満たされる「五方よし」だ。

・作り手:職人、作家、クリエイター等、作ることに関わる人々
・伝え手:卸・小売等の流通を始め、メディア、マーケッター等、価値を使い手に伝えることに関わる人々
・使い手:作り手が作ったものを使う人々
・社会 :地域社会はもちろん、現在の時代環境的に地球社会に貢献しているか、少なくとも害していないかを前提として各存在が活動する
・未来 :現代を生きる一人ひとりが自分たちの孫世代にとって少しでもよいことに繋がるかを考えて活動する

これらのことを一人ひとりが考えて、5つの存在が「チーム」として取り組んでいけば少しでも良い社会になるのではないだろうか。もちろんそのためには目先の個人の「欲望」は抑えることはあるだろう。20世紀的な価値観での「発展」もないだろう。しかし、今変わらないと未来は存在しなくなる。

「吾唯知足」という老子の言葉がある。「足るを知る者は富む」、つまり「何事に対しても、『満足する』意識を持つことで、精神的に豊かになり、幸せな気持ちで生きていける」ということである。

そろそろ、本当の「幸福」を考えて、行動と仕組みを変える時が来ているのではないだろうか。

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