『隣のお姉さん』



 中学校に行く時、大学生らしきお姉さんに声をかけられた。

 「歌、うまいのね」

 「ん?」純情少年だった僕は頬を赤らめ、
その日ずっと妄想に耽ってた訳だが…。

 当時、僕は吉田拓郎に凝っていた。
サッカー部のない日は、ギターに夢中になっていた。
しかし、フォークというのは、歌ってこそである。
だから晴れの日は、裏の崖から夕日に向かって歌ってた。信じられないが、その頃の僕はまだ歌が少しはうまかった。

 と、ある日。窓を開ける音がした。

 三軒隣の家だった。そこから、あのお姉さんが覗いてた。
(あ、あそこのお姉さんだったのか…)。
 急に恥ずかしくなった僕は、
ギターを背負うとコチコチに意識して家に戻った。
 
 それから、裏の崖で歌う時は、髪の毛を整え、
それなりの服装で歌った。もちろん、何時、窓が開いて、お姉さんが出てくるか、そのことで頭はいっぱい。

 


 と。

「…おまえ、なんでこんな所で歌ってんだ?近所迷惑だろ」 
 突然、声をかけられた。大声で笑う母親。

 それから、もう僕は崖で歌うのはよした。
でも「隣のお姉さん」。今でもこの言葉を聞くを、
僕は薄笑いを浮かべ妄想に耽ってしまう。

『祭りの後』か。

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