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3人会

大学時代「彼女のいない男3人」で結成した3人会という集まりがあった。
会というほど大層なものではない。その年のクリスマスに予定がなかった男3人が集まっただけである。チキンと酒とケーキを下宿に持ち寄って歌番組か何かを見ながら飲み食いして解散、実にあっさりとした会だった。

正月の初詣も3人で出かけ、バレンタインデーには適当に買ったチョコレートを贈り合った。3人は同じサークルのメンバーだったが友人はそれぞれにいたので普段から仲良く遊んだという記憶はない。いわゆる「恋人と過ごす季節イベントをやり過ごす」ためだけの関係であった。
それはある種のアリバイ工作としても用いられ、家族や友人などから「寂しいヤツ」と思われずに済む秘策にもなっていた。

変化があったのは結成した翌年の夏だった。
サークルのメンバーで地元の花火大会を見に行った帰りにいつもの居酒屋へとなだれ込む。気づいたらいつも遅くまでいる3人会のうちの1人がいなくなっていた。当時のサークル内ではよくあった話だ。花火大会に焦点を絞って水面下で動いていたのが功を奏したということだろう。
3人会に規則や縛りはないし報告の義務もない。
ひぐらしのなく頃になると3人会は2人になっていた。

3人会が2人になったことである問題が発生した。
やはり3人と2人では絶対的に何かが違う。
他に誰かが知っている関係ではないので「恋人と過ごす季節イベント」を2人でやり過ごしているところを人に見られたくはないし、そもそも1人が抜けたというショックが少なからずあり尾を引いていた。
「今年のクリスマスまでには」という思いが各々に芽生え始めていた。

それから2ヶ月ほどしてもう1人が抜けて3人会には私だけが残った。何をどうしたら2ヶ月でどうにかなるのか不思議だったが「誰でも良かった」訳ではなかったようだ。どんだけ純粋なのかと思うような2人は在学中ずっと恋人を大切にし続け、2人とも卒業後しばらくしてから結婚した。
どちらの結婚式にも招待はされなかった。2人とも3人会のことをよく分かっていたからだと思う。
(そうだよね?)

1人になってから10年近く遅れに遅れて私も3人会を抜けた。もはやアリバイ工作の用を成さず、イベントをやり過ごすこともできないままずっと1人で戦い続けていたがそれも終わったのだ。
そして誰もいなくなった3人会は記憶の片隅で眠りについた。
もうここには誰も戻ってこない。



1年半前、錆び付いたドアを開けて14年ぶりに中に入った。埃は積もっていたが室内は荒れることもなく昔のままだ。
ここはかつての3人会。
懐かしい下宿の部屋、テレビからは歌番組が流れ……

私は外に出た。
もうここは私が帰るところではなくなっている。
帰るところを探さなきゃ…だな。

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