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ファンデルヴァーの失われた鉱山  PCの活躍を伝える試み  第 六 夜 トライボア街道、コニーベリー周辺

 ファンダリンの町の一件から一晩たち、昨晩の内に二つのスクロールを書き写すのに忙しかったウルリッヒ以外は清々しい朝を迎えた。
ある意味で一番の充足感を覚えた朝を味わっていたのもウルリッヒだったが、四人は晴れ晴れとした顔を突き合わせて改めて今後の予定を確認し、一旬(10日)ほどで町の東側であるトライボア街道に転がっている案件を一巡りしつつ解決する旅支度を整えた。
ちょっとした通り雨が降り、平野とアイススパイク山に潤いを与えたこと以外、旅路は平穏そのもので、2日目の夜には無事にコニーベリーの廃墟での野営をとった。
ここでヴェイトが、グンドレンの捜索が思うように進展しないことに苛立ちを見せ、自分もウルリッヒも夜目が利くし、強行軍でもいち早くアガサの住まいの元へ向かった方が良いと歩を森へと進めようと進言する。
しかし、アリスが暖かいスープを差し出しつつこれを諫め、夜の森への警戒と頭をスッキリさせてから会いに行く方が無難だと重ねて諭した。
しぶしぶ承諾しつつもスープの旨味を味わって人心地ついたヴェイトは、飄々と先に寝るから先方宜しくと言うムサシに、任せておけと言わんばかりに油断なく辺りに睨みを利かすと見張りに付き、静けさと夜の森のさざめきに耳を傾け、心を落ち着けることにした。
その姿を見て安心したウルリッヒも、深夜からは自分が受け持とうと一声かけるとトランスへと身を委ねていった。
 翌朝早朝、昨晩のヴェイトの声掛け通り、朝一に飛び起きて移動を開始した一行は、午前中の早々におそらくアガサの住まいと思われる場所へとたどり着く。
 そこは、トライボア街道の見捨てられた町、コニーベリーから続く古い踏み分け道の奥底で、森が暗く影を落とし、苔むした大きな木々を縫うようにうねりながら続いていた先にあった。
またそこは、廃墟にいた夜よりもいっそう冷たさが身に染みる場所でもあった。
アリスがその大木の根元にある大きなうろを利用して拵えられたドーム状の家に近づきつつ声を掛けるが周囲からもうろの奥からも何も反応はなく、一歩、また一歩と近づくにつれて凍てつくように空気が冷たさを増す中、入り口から続く暗がりの中でもうろの奥が見えてしまったヴェイトの足が一瞬にして硬直する。
言い表せられぬ恐怖に身じろぎし、身構えようと手を伸ばした剣を取り落とすと、歴戦の戦士であるはずのヴェイトの膝に力が入らなくなり、視線がうろの中の暗がりに佇む、一人のエルフ女性らしき姿から目を離せなくなる。
異変に気付いたアリスがうろに背を向けつつヴェイトを落ち着かせようと傍へと駆けよるが、ヴェイトはただ言葉にできない何かを口にしようとするだけだった。
 周囲を警戒ししつつも、こちらもうろの中を見ようとは決してせず、ムサシは冷や汗まじりにウルリッヒに合図を送って外の警戒は任せろとあたりの様子を窺う。
そのムサシの様子にため息をつきつつも、意を決したウルリッヒがひとり、おずおずとうろの中へと姿を消していった。
東屋ではあるが住まいとしての最低限の体裁を整えられている円形の部屋、そう思う暇もなく、ウルリッヒは目の前の椅子に腰かけ、空中に青白い光を放ちながらこの世のものならぬ風に波打つ髪の隙間から睨みつけるような視線を放つヴァンシ―と対峙した。
その、かつて美しかったであろう白磁器のような肌と面影をみせる一方、憎しみに燃える幽鬼じみた恐ろしい顔とを明滅させるようにかわるがわる映し出す相手こそアガサであると悟り、気丈にも凛とした声で話しかける。
自らの入れ替わり立ち替わりかわる容貌にも物怖じしないウルリッヒの丁寧な立ち振る舞いに、アガサは心も凍るような旋律で、だが何やら楽し気な声で、一行が多くの探し求めるものの中からひとつだけ、たったひとつだけ問いに答えると持ち掛けた。
一旦、うろの外で待つ3人にその話を伝えに戻り、とっとと話を済ませて立ち去りたくなっているムサシとアリスに確認を取ると、未だ恐怖にたじろぐヴェイトを気遣って、ウルリッヒはまた、一人でアガサへの返答を示しに木のうろの中へと戻って行った。
シスターガラエルからの依頼を果たすべく、持参品と共にこの地に来たことのみを伝え、その返答に静かに耳を傾けるウルリッヒの姿勢に感心したのか、アガサは続いて、4人に助言をしてやろうと申し出る。
ウルリッヒには、知識を追い求める先に見る、未だ知り得ぬ未知の知識との邂逅を。
ヴェイトには、数多の困難と、それを乗り越えることができた時の代えがたい達成感を。
アリスには、友や人との信頼の先に見える未来と、不信の先にある終焉を。
アガサはそれぞれ3人の行く先に待ち受けるものを語るが、ムサシには、直接伝えたいと言う。
ウルリッヒの話を聞き、ムサシは渋々というよりは何故俺だけという顔で嫌々入り口に立つが、その瞬間にヴェイトと同じく恐怖に立ちすくんでしまう。
アガサは、小刻みに首を振って拒絶するムサシの手を取って中へと招き寄せると、ムサシが事が成せた暁にある未来を伝えようとするが、恐怖に取りつかれたムサシにはまるで伝わらなかった。
その様子に、アガサは足し加えるようにムサシにひとつの頼みという名の命題を出した。
アリスがこの後、いったいどういった変遷を遂げるのか、見届けて直接自分の元へ伝えに来いというものだ。
震えつつも何でもするという答えに満足したのか、ついでにひとつ、その備えとして授けようと櫃から皮鎧を差し出す。
カチャカチャと震えが収まらぬ手でその鋲打ち鎧、ドラゴンガードをムサシが急いで身に着けるころには、アガサの姿は掻き消えていた。
 アガサの気配が消え、恐怖も収まるようになると、一行は、無事にシスターガラエルの依頼を果たせた事を安堵した。
その一方で、思っていたほど情報が得られなかった事に消沈し、特にヴェイトはグンドレンについて何も聞けなかった事に憤慨した。
 そして、森から取って返して先を急ぎ、早々に次の目的地へと向かうことにする。
オールド・アウル・ウェル、大昔にほろんだ魔法帝国によって数千年前もの太古に建設されたとされる見張塔の廃墟がその場所だ。
吟遊詩人にも歌われるその遺跡は、トライボア街道を横切り、アイスパイクがそびえる山脈から連なる荒々しい岩だらけの丘陵地帯にあり、この近辺を通る山師たちがアンデッドに襲われる被害が出ていたのだ。
そもそも山師の話ではあるのだが、低い岩棚を幾度か昇り降りしていざその場所へとたどり着いてみると、謳われるままに岩だらけの丘の上に立つ、古い見張り塔のがれきと化した廃墟が姿を現す。
その姿は、あまりにも古く、塔の基部とその下の台座である巨大な城壁以外は朽ち落ち、当時の面影など跡形もない瓦礫というありさまだった。
歌の中にあったはずの、前庭にあるという今も清らかな水を滾々と湧き出している古井戸は見当たらず、微かな死臭が漂うばかりで、一行は用心しつつも城壁の外周を回るより最上部の頂から廃墟の反対側を見下ろしてみることにした。
三段構えの階段を登りきった直後、先頭を行くムサシが行く手に3体のゾンビを発見する。
塔の反対側で、階下の階段の両脇に立つゾンビどもは微動だにせず周囲を警戒するようにこちら側を見ているようだが、ムサシにはまだ反応していなかった。
そこで4人は、ムサシが右手の階段から迂回する一方、上段から真っすぐ降りて吶喊するヴェイトと挟み撃ちにする作戦に出る。
迂回して先手を打ったムサシが隙をついて素早く近づき切りつけるとともに、背後に潜むゾンビを発見して警告の声を発する。
「敵は4匹、いや5,6……いっぱいだ畜生っ!」
「しっかり数えろ阿呆が!」
ムサシに向き直りながら叫びだすゾンビを大上段から切り伏せるヴェイトも叫ぶが、ゾンビは二人の同時攻撃でようやく1体が動きを止めた状態で、眼下に見える、二桁にも及ぶゾンビの群れの多さに二人の顔に一瞬の迷いが奔った。
冷静に城壁の頂から見下ろすアリスとウルリッヒがゾンビの動向を見定めると、半数は叫び声に呼応してこちらに向かってくる様子だが、残る半数は無関心なのか今まで行っていた動作をやめようとはしない。
アリスが穴を掘り続けるゾンビに矢を射かけても、ふらつきながらもまた、スコップを手に穴を掘り始める。
ウルリッヒがやはりと、このゾンビたちは命令を実行し続けるだけであり、命令を出している元凶がいるはずで、その者がいるはずだと教えるが、その姿はどこにもない。
しかし、アリスが1体のゾンビが穴の近くに張ってあるテントに入るのを見て、ウルリッヒと頷きあって狙いを定めた。
2体から3体、4体と階段付近に集結するゾンビのしぶとさにヴェイトとムサシが手を焼いていると、すぐにテントから出てきたゾンビの後から、赤いローブに身を包む、がっしりとしたヒューマンの男が姿を現す。
何事かと息せき切って出てくるその出鼻をくじくように、アリスの正確な射撃が右肩を貫き、男は手にしていたワンドを取り落とす。
フードも吹き飛ばされるように外れ、土気色した肌に黒々と光る頭にある刺青が見て取れた。
その剃り上げた頭にある刺青文様をみてウルリッヒがつぶやく。
サーイのネクロマンサーだと?
その言葉とほぼ同時にウルリッヒの解放った呪文が激しい爆音を轟かせて魔導士とその周囲を薙ぎ払う。
肉片飛び散らせながらもなおも平然と動くゾンビたちに命令を下しつつ、傷つきながらも突然の強襲に怒りをもってレッドウィザードの一員である魔導士が呪詛を紡ぐ。
 突如、苦しそうな声を上げるヴェイトの額に錆鉄色の額冠がうっすらと仄めき、捻じれるように伸びたギザギザの棘が頭を刺そうとする。
瞳に鈍い赤い狂気が宿りかけるが、吠えるように叫ぶヴェイトが頭を激しく振り払うと、その額冠は光となって消えていった。
ゾンビを切り倒しながら呪文を掛けた男を敢然と睨みつけるヴェイトを、悔しそうに眺める魔導士だが、呪文を放った自分に近づけない間にと取り落とした杖を拾おうとするが、その行動の先を読むように再びアリスの矢が彼の腕を貫く。
痛みに悶えながら倒れる男をみて、ウルリッヒの援護で降りかかる火の粉を払うように4体のゾンビを打ち倒したムサシとヴェイトの二人が目の前まで一気に迫り、再び目を覚まさぬうちに男を縛り上げた。
 そして、なおも動きが止まらないゾンビ共は、淡々と穴を掘り、掘られた土塊を外へと虚しく運ぶ作業を繰り返すだけだった。
 あらためて目を覚ました男から話を聞いてみると、彼は一人でこの廃墟を探掘しに来たらしく、塔に残る秘術の知識を得るべく奮闘中であることは発言の端々から読み取ることができた。
しかし、死霊術使いである彼と一行の会話は肝心なところでかみ合わない。
ネクロマンサーの魔導士である彼には倫理観が欠如していたのだ。
それでも、アリスの説得で彼は早々にゾンビを連れてこの場所を立ち去り、二度とこの地に戻らないことを誓い、その証として、自分が見つけた品々のひとつを譲り渡すと応じてきた。
この提案に、テントの中を一通り流し見たウルリッヒが、男が語るアイテムの説明だの見つかる過程だのを興味なさげに聞き流すと、1枚の盾を手に取る。
これでいいのではないかと一同に話すウルリッヒに、ここにきてハムンと名乗ったネクロマンサーはそんなのでいいのかという顔を示す。
彼曰く、最大の発見であったと自ら示す指輪、リング・オヴ・プロテクションに興味も示さず盾を取ったウルリッヒが信じられなかったのだ。
しかし、ウルリッヒの提案に一同は、彼が言うならと、二の句も無く盾をもらい受ける。
この盾、センティネル・シールドは、見張り塔の衛兵が使っていた盾のひとつだと思われたが、ウルリッヒの目に間違いはなく、ヴェイトにおあつらえ向きのように手になじんだ。
ウルリッヒは、手に持つと同時に周囲への洞察が鋭くなる感覚をヴェイトが味わうのを見届けると、ではこれで成立ですねと、にこやかに話がまとまったことを喜び、テントをゾンビに畳ませ、傷ついた足でこの場を去っていく男を見送った。
 脅威の去った廃墟で野営しながら、一度ここでファンダリンに戻るか、それとも当初の予定通り、さらに南下してオーク共の住処を探してから町に戻るかと4人は話し合ったが、時間と距離を考え、手早くオークを探し出して東方の厄介事を一回で帰結させる道を選び、これからの険しくなる丘陵地帯への旅路に備えることにした。

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