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ファンデルヴァーの失われた鉱山  PCの活躍を伝える試み  第 十 二 夜  東奔西走、アガサ再び

緑竜ヴェノムファングを討伐し、サンダーツリーに巣くう脅威を打ち払ったアリス、ヴェイト、ムサシ、ウルリッヒの4人は、再びレイドスの元を訪れていた。
出発前にレイドスとの話から聞いていたエルフの遺品ではないかという品も持ち帰り、緑竜を倒した証の一部として鑑定してみると、エルフの隠れ蓑こと姿隠しの外套とブーツのセット、電撃の魔法と霧伝いの魔法、それと蜘蛛の糸の呪文の書かれた巻物がそれぞれ一本ずつ、そして、奇麗な装飾の施された手甲は弓の名手の造形も彫られ、弓の初心者でも弓術に熟達できる魔法が掛けられていた。
また、意匠や趣向は違えど、手甲と同じく煌びやかな装飾が施された繊細な脚甲は、軽やかな足さばきが出来るよう、こちらも魔力が込められていた逸品だった。
流石は緑竜の寝床に有っただけはあると、一同は金銀財宝に目を奪われながらも、レイドスの勧めで傷と体の疲れを癒しつつ、改めて次の日にレイドスに礼を言い残すと、早々にネヴァーウィンターに戻ることにした。
この翌日の夜にはネヴァーウィンターでの旅支度の買い物も済ませ、レイドスにも見せた竜の牙を討伐の証しとして酒場の肴に呑みながら、次の日からの長旅に備えた。
そして一路、ファンダリンへと馬を走らせ、グンドレンとの再会を果たすとヴェイトの帰還を聞きつけた村長のハーヴィンもストーンヒル亭に駆けつけ、酒場はどんちゃん騒ぎの酒宴場と化していった。
その最中、アリスはひっそりとエダーマスの元を訪れ、ネヴァーウィンターでガントレット騎士団と決別したことを彼に告げた。
己の修練と向かうべき正義の道は、いつでも君を歓迎する門戸を開いているとエダーマスが伝えるのを聞きながら、アリスは同じ轡を並べることはなさそうだが、これからも交友関係は変わらない旨を伝えると、長居はせずに元来た道へと戻っていった。
ムサシはレッドブランドの復興具合を確認しに眠れる巨人亭にいたドループやトレセンダー屋敷を補修中の面々と再会すると、ムサシの冒険譚を自らの誇りのように誇張するドループに苦笑いしつつ、自警団としての復活の手ごたえを感じ、その言葉を否定せずに言葉を濁した。
一時の享楽を終えた一行は、ファンダリン到着の翌朝、再びアガサの住まいへと旅立った。
「兄貴スゲエ! レッドドラゴンをたった一人で……」
ストーンヒル亭に見送りについて来たドループの言葉にアリスはニヤニヤとムサシを眺め、ムサシは居心地悪そうにそっぽを向いたが、羨望と称賛をせおいつつも一同が温かい送迎を受けたことは確かであった。
旅の道のりはサンダーツリーからずっと快適な調子ではあったが、トライボア街道まで張り出すように広がる森に入り、アガサのいる近くへと足を踏み入れると、やはり怖気が走るような不気味さに包まれる状態へとなっていった。
昼でも薄暗い森の奥で、前回同様にウルリッヒとムサシが木の洞に入っていくと、アガサは来るのを見越したような涼しい顔で二人と出迎えた。
まずはアリスの旅路の果てをを聞きたがったアガサに、声は震えはするが、以前とは違いヴァンシーへの恐怖を克服するかのように力強い調子でムサシが手早く事の顛末を伝えようとする。
しかし、アガサはその口先を手を挙げて一度静止すると、アリスは入ってこないのかと二人に問いただす。
意図が読めないウルリッヒとムサシは一瞬顔を見合わせるが、ムサシが俺が伝えるって話だったと思ったが?と問いただし、確かにそう、その通りだ、と曖昧な表情を見せるアガサに話の先を続けた。
ムサシとしては、とっととこの場を離れたい思いでいっぱいだったが、ウルリッヒは、そもそも何故アリスの行く末を気にしたのかが気になったところではあった。
ムサシの話が終わる頃には、コロコロと珍しく笑みを浮かべるヴァンシーの儚くも恐ろし気な横顔にかつての美貌の面影を見出すことができたが、ウルリッヒが問いかける前に、アガサは例によって一つ、たった一つだけ問いに答えると口にした。
それならばと、二人は息をそろえて波音の洞窟の場所を問いただし、アガサの紡ぐ魔法の地図とその場所の情景が映し出される幻術に、急いで羊皮紙と羽ペンを取り出さなくてはならなくなった。
ウルリッヒが必死に書き留める間、アガサは神妙な面持ちでムサシを見つめると朴訥と語り始めた。
「床に這いつくばり、塔の壁に叩きつけられてもなお不屈の闘志をもってドラゴンの眼前で対峙し、竜の首や翼を散々に切り刻み、大空から叩き落した男、その名は勇者ヴェイト、と民衆は讃える事だろう。勇者ヴェイトとその仲間、故郷を追われた幼気(いたいけ)な少女は勇者の窮地を救い、ヴェイトを嚙みちぎろうとしたドラゴンの喉元、急所にみごと矢を射止め、大地に墜落せしめたと讃えられるやもしれぬ。
ヴェイトへの狙いが定まらぬ様、目の前から側面、後背までありとあらゆる方位から竜を脅かし、その巨竜の雄々しき尻尾の攻撃を幾度も搔い潜り、脇腹を果敢に攻め立てた誉れ高き活劇剣士、ムサシの勇気と身軽さを褒めそやすやもしれぬ。上空から勢いをつけて襲い掛かろうとする竜を爆音の圧迫で押さえつけ、暗がりの中からでも動きを幾度となく止めた叡智と冥加の魔術師、ウルリッヒの敏腕と英知に人々は感嘆するやもしれぬ。
これがお前たちの未来。
分かるか?
民衆とは、大いなる危険に、大いなる勇気をもって立ち向かう意思を見せた者ではなく、傷つき、大いなる脅威をはねのけ、より危険の近く共に有り、それに抗ったもの。
そして、屈服せずに立ち上がったものと、その象徴にこそ賛辞を贈るもの。
お前たちは、人を知らなければ、鬱屈した闇への道を辿るだろう。
健全な精神で人の噂を笑顔で許せる人格と、他人を思いやり許容できる心を持ち続けなければ行くつく先は、英雄ではなく、野望にかられた狂人や戦闘狂になるやもしれぬ。
大いなる偉業と共に仲間と助け合い、人々を導いた英雄ではなく、英雄だと言い張る狂人にな。
知り得た仲の話では為し得た真理が通ろうが、民衆は分かりやすい、そして象徴となるもの一つを讃えるのだ。
戦士と肩を並べた魔法使いの二人では、いつも勇者と讃えられるのは敵の攻撃を眼前で耐え、危険に果敢に剣をもって挑んだ戦士よ。
後ろでいかに強大な魔力を振るおうが、英知を振り絞ろおうが、魔法使いが一番の勇者となり語り継がれることは、ほぼないのじゃ。
知らずとよいと思うかもしれぬが、お前たちは、人を知らねばならぬかもしれぬな。
欲する前に与えよ、与える前に耳を傾けよ、というやつじゃ。
お前たちの将来がさらに楽しみにはなったが、ムサシよ、お前以外とは逢う機会はもはやあるまい。
愉悦の時を与えてくれて感謝しよう。
ファンダリンの英雄ムサシよ、その鎧はくれてやる。
餞別じゃ返さずとも良いぞ。
風の噂を楽しみにしているよ。
ふふふふふふふふ……」
アガサはムサシを英雄と呼び、笑い声と共に姿を消していった。
そしてウルリッヒが急いで書き留め終える頃には、すっかり静まり返った洞の中は幻術の光景も掻き消え、何の変哲もない古びた家具だけが取り残されている状態だった。
洞の中から出てきた二人を出迎えたアリスは、いまだ洞の中を絶対に見ようとはせず、背中を向けつつ森の中にじっと睨みを利かせているヴェイトを後ろ手に苦笑いすると、首尾が上々なのを喜び、臆病風は無用になったよとヴェイトを呼び寄せ、改めて波音の洞窟の位置を確認しあった。
よくよく見てみると、洞窟の位置はファンダリンからさほど遠くはなく、このまま向かってもファンダリンで一泊してからでも、ほとんど違いがない場所ではあった。
ただし、丘陵地帯から山岳地帯に入る、という点を除けば、である。
そして、ファンダリンの街に残したグンドレンとその護衛、シルダーを引き連れて訪れると言葉を交わしたこともあり、四人は一旦ファンダリンまで戻ることを選んだ。
約束通りに町に戻ると、グンドレンは首を長くして待っていたのか、ヴェイトに労いの言葉も言い終わらぬうちに洞窟の場所を問いただし、その首尾に歓喜の声をあげだ。
その勢いのまま兄弟の安否と救い出す熱意にほだされ、出立の準備も万端だと鼻息も荒く息巻くが、しっかり夕食と睡眠をとって生気を養い、翌朝早々にというシルダーやヴェイトをも含めた5人全員からの静止に、グンドレンはヴェイトも大人になったものだと笑い飛ばすと再会の喜びをエールで流し込むことに決めつつ、今回の親友の冒険譚に耳を傾けることにした。
他の面々もそれぞれに好きな料理を注文すると、決戦の地となるであろう洞窟へ思いを馳せながら晩餐と休養に身をゆだねていった。
ヴェイトは、ロックシーカー兄弟の安否を想いながら。
ウルリッヒは、神託にもあった魔法の秘宝、呪文の鍛冶場とはいったいどのようなものなのか、その叡智に夢馳せていた。
アリスは、ブラックスパイダーという謎めいた悪党は、どんな陰謀でロックシーカーを襲い、何を狙っているのか思索に耽った。
ムサシは、己のレッドブランドがこの事件解決で更なる軍資金と提携関係を望めることに大いなる展望を描いて、眠りへと落ちていった。

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