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ファンデルヴァーの失われた鉱山  PCの活躍を伝える試み  第 五 夜 レッドブランドとムサシ

 レッドブランドのアジト、トレセンダー屋敷の廃墟で、4人は不穏な空気に包まれていた。
これまでの不信感をそのまま露わな言葉にしてムサシに詰め寄るアリス。
心配そうな表情で固唾を飲んで二人の様子を見守るヴェイトをよそに、さらに敵か味方か納得のいく答えを欲するアリスをみて、ムサシは両手を上げて降参の意を表すと、吶々と自分の過去を語り始めた。
 過去、レッドブランドに組していた事。
半年以上前、当時は町に見合った内容で発起した、それはある意味でありふれた自警団の集まりだった事。
ならず者の集まりに近かったとはいえ、貧困層や盗賊からなるレッドブランドも山賊と同様に一種の関所的な働きを担っており、黙認する近隣の村や隊商護衛をもつ氏族などは、通行する商人や旅人などから警護料を徴収し、モンスターへの対応と均衡を両者がともに保っていた状態だった。
近隣の村や隊商護衛のミカジメを取り仕切るギルドとの通商からあぶれた、ガラの悪い旅人を捕まえてギルドなどを通じて他所に売りつける位は、どこの自警団もしている、ある意味ではありふれた光景だったといえる。
 だが、ムサシが用心棒として高い腕を振るう中、初期のメンバーから組織拡大の折に、後から加入してきたガラス杖が初期メンバーを一掃し始める。
これにより、今までのファンダリンの情勢が一変した。
ムサシも、あわやという状態に陥るが、その時は辛くもネヴァーウィンターに逃げ延びることができた。
 その後、本当にならず者の集まりと化したレッドブランドは、今まで行っていなかった町に対しての恐喝や放火など、大いなる恐怖を植え付け始めたのだ。
 その結果が4人が到着したファンダリンの現状。
それを何とか変えたい。できるなら元の状態へと戻してあげたい。
そう真摯に訴えるムサシに、ヴェイトは繁々とうなづき、同情の念と協力の意志を示す。
これまで興味深げに二人を見比べていたウルリッヒも肩をなでおろすと、波風が収まったかのような面持ちをムサシに向けた。
アリスはひとり、まだ半信半疑で、更にこの後の船頭をムサシにするよう促す。
後ろから裏切られずに済むよう、前で裏切られてもいいように、と。
苦笑いをしつつ素直に許諾するムサシの肩を、ヴェイトは俺が後ろで見守っていると言わんばかりに叩きながら安心を促し、ウルリッヒもその後に同じように続いた。
最後にいまだ警戒を解かないアリスが殿を務め、ムサシが明かした、この先に待ち受けるレッドブランドのアジトの間取りをもう一度4人で、確認し直すこととした。
 階段を降りると左手のドアからは休憩所、その奥は仮眠室だったはず、らしい。
右手のドアの先は、元幹部の居場所だったはずのガラス杖の私物化されただろう部屋がひとつ、その先にある一番奥の部屋は、かつてレッドブランドを取り仕切っていたボスの部屋だったはずだが、今はガラス杖の部屋になっているだろうとの事だった。
 この話から、4人は右手のドアから一直線にガラス杖の部屋を目指した。
先頭を進むムサシは、ドアから漏れ出す談笑が聞こえる左の部屋から人がすぐに来れないように、左手のドアについている鍵に細工をして扉を開かない様にした後、何も聞こえない静かな部屋にへと入るべく鍵のかかっていないドアをあけ放った。
するとそれと同時に、けたたましく魔法のアラームが鳴り響いた。
その音に慌てた声が左手のドアの奥から響くが、ムサシの細工に戸惑ってドアはびくとも動かない。
その隙に右手の部屋へと全員が入ると、そこは魔術師の実験室と化した空間だった。
おびただしい量の器具や液体が微かな音を立てて、何かを蒸留している。
アラームにビックリした鼠がウロチョロとしながら扉から駆け出て行ったが、他には誰もいないようで、一行は部屋を一瞥して脅威がなさそうだとすると判断するや、足早に最後の部屋へ続くドアを開け放った。
 果たして、そこには赤いフードの魔法使い然とした男が机から立ち上がって何かをしようとしているところだった。
その男は部屋に入ってきたムサシを見るや、驚愕の表情を浮かべ、ぼそりと「生きていたのか、ムサシ……」と吐き出した。
ムサシは、なぜ俺を手に掛けようとしたのかと、その真意を尋ねるが、ガラス杖は初期メンバーの中でも慕われていたムサシへの情景に対する眩しさを吐露するとともに、ムサシとの邂逅、問答から、ガラス杖はムサシを仲間に迎え入れようとする。
しかし、仲間と一緒に元鞘に収まる気はないかという割には、他の初期レッドブランドの面々のその後や、ムサシへの返答にうやむやな態度を示すガラス杖に、ムサシはガラス杖の申し出をキッパリとはねのけ、宣戦布告のダガーを投げつけた。
それを合図にアリスが先制の一撃を叩きこもうとするが、ヴェイトの肩越しに放った矢は惜しくも外れてしまう。
だが、部屋の外で話の行方を見守っていたヴェイトが続いて部屋へと飛び込み、スパイクト・アーマーのタックルと長剣による渾身の一撃を見舞う。
凄まじい連撃に深手を負い、よろよろと壁に手をついたガラス杖は、壁にある棚に触れ、隠し扉を開くと、杖を振って呪文を紡ぐ。
瞬く間にガラス杖の姿が掻き消えるが、今度は隠し扉に勢いよくウルリッヒが飛び込み、足音が聞こえる方向、扉の先へと繋がる洞窟の空間めがけてスリープの呪文を叩きこんだ。
 一拍の後、昏倒して倒れる音も聞こえず、静けさに微かに響く足音も耳を澄まして探ろうとするが、ガラス杖の行方は、ウルリッヒの聴力や暗視の力だけではとらえることは出来なかった。
 仕方なく、ガラス杖の部屋と実験室を捜索すると、ガラス杖の部屋からは巻物や魔法使いの帽子以外に一通の手紙が見つかる。
その手紙は、シルダーから受けた捜索対象者、イアルノ・アルブレック卿がガラス杖であることを示す文面であると同時に、レッドブランドがブラックスパイダーというものと手を組んだ証しであった。
実験室からはウルモンという名の冒険者であった大昔のドワーフの日記が見つかり、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」こと「波音の洞窟」には、「魔法の鍜治場」なるものがあるという事が判明する。
「波音の洞窟」の場所は不明だが、「魔法の鍜治場」は、どうやら製錬したアイテムに魔力をまとわせ、マジックアイテム化する装置らしい。
他に目ぼしい情報や物品は見つからないが、ムサシは、念のため実験で使用されていた小瓶をひっつかんで、この場の証拠品として懐にしまっておいた。
 その後、休憩室のドアを開け放ち、ガラス杖を打ち倒し、ガラス杖は逃げ去ったことを高らかに叫ぶと、それとは別にムサシの顔を見て、部屋の中でテーブルに向き合っていたレッドブランドの4人の内2人が驚きながら「ムサシ!」と歓声にも似た喜びの声を上げる。
 ムサシのカッコよさに憧れてレッドブランドに入った男、ドループが泣き笑い状態で顔をぐしゃぐしゃにしながら再会を喜び、4人の質問に喜んで答える。
奥にいた今の幹部であり以前のムサシの後輩も、昔への郷愁の念に駆られながらムサシと共にレッドブランド再建の道を探りたいと申し出る。
だがその一方で、ムサシがいなくなった後、本当にならず者の集まりと化したレッドブランドは、始めは行っていなかった町に対しての恐喝や放火などを行ない、大いなる恐怖を植え付けてしまったのも事実であり、町民との和解には無理を感じてもいる事も吐露する。
 そこで、ムサシを含めた4人は、町民と向き合う事と、新生した自警団として再出発するお膳立てを考え、彼らを納得させた。
これにより、いずれムサシが、この町にその真紅の御旗を掲げてくれるまで、調和を取り戻す努力を弛まず続けていくと、レッドブランドの幹部は誓った。
そして幹部の男は、付け足すように最後の懸念を口にした。
仮眠室だった部屋に、ブラックスパイダーとの協定後に派遣されたバグベアが4匹巣くっている状態なのだと。
4人はグンドレンの行方を聞けるかもしれないと、快く対処を引き受けると、バグベアのいる仮眠室へと足を向ける。
 ドアを開けて交渉を試みようとするが、バグベアは話を聞こうともせず襲い掛かってきたため、即座に応戦してあっとゆう間に3匹を打ち倒す。
残る最後の1匹は命乞いの元に降伏するが、その一方で情報収集には何も知らないと言い張るだけで要を得ず、ムサシがとどめを刺すのを黙ってみる以外は何もできなかった。

 レッドブランドの幹部の命令により、彼らの手で無事に町まで返されたデンドラー一家3人の安否も気にしつつ、アジトを後にして町に戻ると、眠れる巨人亭の前では店主のグリスタが4人の帰還に相貌を緩ませ、報告を受けた町長は流石はヴェイトだ、と胸を撫でおろしながら、アリスの提示した、トレセンダー家の金品を受け取るとともに、宝石を含め、お金以外の拾得物は報酬代わりに持って行って欲しいと品々を差し渡した。
唯一、トレセンダー家の印章指輪は、町長がこの町の長の証しとして1つ貰い受け、残る4つは4英雄の証しとして夫々4人の手に付与するという形をとった。
 その後、ストーンヒル亭では店主とシルダーが笑顔で出迎えるとともに、町の英雄を湛える晩餐会が盛大に催された。

 翌日、ダラン・エダーマスが4人の元を一人あたり10日分の保存食を持参して訪れ、アリスと交わした仮契約を改めて正式に依頼すると、結果を楽しみにしていると残して出て行った。
続いてミルナ・デンドラーが現れ、重ねて昨日のお礼をしつつ、アリスと話したことで思いだした事があると語りだした。
彼女が幼い頃に住んでいたサンダーツリーに、置いてきた遺産がまだ残っているかもしれないというのだ。
彼女は、今は何もしてあげれない代わりに、自分たちを救ってくれたお礼に、もし現地に赴いた時は、遠慮なくその品を用立てていって欲しい言い残すと、何度もお礼の言葉を述べながら席を立った。
 その後、前日にドループからムサシの再訪を聞いたケリン・オールダーリーフが現れ、何かあったら顔を出せとムサシの元気な顔を見に来た。
彼女との話で、この近隣に詳しいドルイド、「レイドス」なる人物が地理的なことならなんでも答えられるだろうという事を知る。
レイドスは今、サンダーツリーにいるらしいが、会えたならば、ケリンの名前を出せば話は聞いてくれるだろうと教えてもらい、4人は今後の計画を練ることにした。
 結果、シルダーがネヴァーウィンターにイアルノの反逆を報告しに行く間、「トライボア街道」でゴブリンの気配を追いながら「アガサの住まい」を訪ね、「オールド・アウル・ウェルの怪」を調査し、「ワイバーンの止まり岩」に巣くうオーク共を打ち倒しつつ、ファンダリンの東方を一巡してみることにした。
もしもこれで「ギザ牙の城」への情報や「グンドレン」の情報が得られなかった場合、ファンダリンにシルダーが戻っていない時は、ファンダリンの西側からハイロード大街道で継続してゴブリン共を追うか、ネヴァーウィンターでシルダーからの追加情報を確認しつつサンダーツリーも考慮に入れてみるかどうか、再検討する方向で話がまとまり、一同は新たな旅支度を始めた。

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