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ファンデルヴァーの失われた鉱山  PCの活躍を伝える試み  第 十 夜  ネヴァーウィンター再訪!

 激戦を終え、ギザ牙族の王の間で小休憩を取ったヴェイト、ウルリッヒ、ムサシ、アリスの四人は、ゆったりした昼食を終える頃に目を覚ましたグンドレンから、今までの彼の身におきた話を聞くことができた。
救出したグンドレンはドワーフ持ち前の頑強さからか、しっかりとした口調でこれまでの顛末を語るが、だが実際に分かったことと言えば、3兄弟の弟二人とファンダリンの町で合流し、彼らが発見した恐らく波音の洞窟だと思われる洞窟を探窟しに行く手はずだったことと、今まで捕らわれていたのがブラックスパイダーの差し金だったという確認が取れたぐらいで、4人が知り得なかった詳細な何か、新しい発見などはこれといって得られなかった。
グンドレンと共に持ち去られたはずの地図も見つからず、その地図がなければ発見したという洞窟までたどり着くこともままならない状況で、兄弟たちを心配して居ても立っても居られない状態のグンドレンと、それに同調して、一刻も早く目ぼしい地点まで行って山の捜索に出かけに行こうとするヴェイト、それを見かねたアリスが落ち着くように言う状態で話が進まず、その横でムサシが早くこんなとこからファンダリンや町に帰りたいとこぼし始める。
いったい地図はどこに消えたのかと5人は思案するが、考え込む5人の耳に火鉢から爆ぜる薪の音が届き、興味のなかったムサシと気に留めるどころの心境ではないグンドレン以外の3人の視線が火鉢に集中する。
黒こげの煤と化した、恐らく大判の羊皮紙、火にくべられた紙の成れの果てであろうものを大慌てて火鉢から取り出すが、もはやそれは炭でしかない代物だった。
嘆き悲しむグンドレンとヴェイトの横で、冷静にウルリッヒが帽子をかぶり直すように何か思案すると、紡ぎ出された魔法の言霊がそれまで単なる煤であった代物を元の羊皮紙に再生させる。
魔法の素晴らしさを喜ぶドワーフ二人の横で、辛うじて復元された紙の切れ端をアリスは摘み上げるが、元の大きさからは到底叶わない小ささの紙切れは、肝心の部分までは戻らなかった。
自分の持っていた地図に間違いないと言う一方で、元通りになんとか直らないかと懇願するグンドレンに、ここまで戻ったのも奇跡なのだとウルリッヒは諭し、再び5人の間には困ったという空気が溢れかえった。
ファンダリンで4人が今まで見聞きした話から、グンドレンの弟、タルデンとヌンドロを見た人間は万事屋のバーセンがグンドレンと店の買い付けで一緒だった時くらいしか思い当たらず、店を出て離れ離れになった以降の目撃情報もない始末では、恐らく非常に悪い状態に陥って連絡が取れないか、それともとても運よく危険を察知してどこかに潜んでいるか、しか思い当たらない。
このままではらちが明かない状況ではあったが、必死になって対策を考えて話し合った結果、一旦ネヴァーウィンターでシルダーと合流し、追加の情報でもあれば好転もしよう、もし追加情報がなければミルナから聞いたドルイド、レイドスならばこの周辺の地理に詳しいという話だったので、サンダーツリーに足を延ばしてもいいのではないか、という方向で話がまとまる。
決まれば話は早いと、ムサシとアリスを先頭に、5人はギザ牙族の城を後にすることにした。
一行はグンドレンの話を聞きながら森と大街道を2日間かけて北上し、ネヴァーウィンターに足早にたどり着くと、早速シルダーと連絡を取った。
すぐにシルダー本人が酒場に現れて再開と救出を祝い、もろ手を挙げて祝いの言葉を寿いだ。
それと同時に、イアルノが行方不明で足取りが全くつかめていない事に加え、ブラックスパイダーの諜報がどのようにしてグンドレンと結びついたかも掴めていない事など、調査にはかなりの時間と労力がかかりそうなことが判明する。
だが一行はその話に落胆することなく、それではこの町の東にあるネヴァーウィンターフォレストの廃墟、サンダーツリーに行きドルイドと会ってこようと、シルダーに伝えながら彼の労をねぎらった。
そしてアリスは、サンダーツリーにいるというドラゴンを打ち倒し、見事ドラゴンスレイヤーになって帰ってくるとも息巻き、シルダーを驚かせた。
だがその旅路はあまりにも危険すぎるので、グンドレンを引き回していくことは躊躇われ、護衛としてファンダリンまで再びシルダーに送り届ける頼みを申し出た。
シルダーは快く、そして今度こそ必ず間違いなく送り届けて見せると胸を叩き、ヴェイトの二度目の失敗は許さんからなという脅しにも誇りにかけて誓うと返しつつ、ただし俺の言葉には今度こそキチンとグンドレン氏には従ってもらうと、くぎを刺すのも忘れなかった。
ばつが悪そうに頭をかくグンドレンに一同が微笑み包まれると、打ち解けた五人は、すでにジョッキを何杯か開けていたムサシに続くようにそのまま晩餐へとなだれ込んだ。
暫くして、腹も膨れた程よいところでウルリッヒが席を立とうとし、アリスもこれに続いた。
出口で振り返ったアリスがシルダーに声を掛け、実はドラゴン対策に対毒用のポーションを探していると打ち明けると、それならばとウルリッヒが寺院のツテを当たってくれることを約束してくれ、そのフォローをシルダーが買って出て、明日の結果を待つこととなった。
そして出て行った3人を見送ると、残ったヴェイトとムサシはグンドレンと3人で仲良く明け方まで大いに飲み明かし、これまでの旅の疲れを癒した。
一方、宿を出たウルリッヒは早々に寺院へと舞い戻ると自分の旅の結果を司祭に報告し、更なる天啓を授かり導かれたことも告げる。
オグマ神に仕える司祭にして、度重なる啓示は稀な話であり、興味深く旅を続け、更なる天啓には更なる知識が祝福された道であろうと説き、司祭はウルリッヒの旅へ祝福を祈祷した。
また、ウルリッヒの聖別した寺院と廃墟に関しても、早々に調査団を送りつつ、定期的に荒らされることのないように巡礼するのが可能かどうか見極めるように動くことも確約し、耐毒薬も今晩からでも早々に寺院を挙げてツテを回ってみようと心地よい返事をいただけた。
これにより気持ちよく久々に自分の寝具に包まれたウルリッヒは、明日の朝を楽しみにしつつぐっすりと眠りの途についた。
その頃アリスは、ファンダリンでエダーマスから受け取った称号のメダルをもって、とある酒場でガントレット騎士団の男と会っていた。
この戦士のように次なる称号を得てメダルをペンダントとして首から下げる気持ちはなく、アリスの心はドラゴン退治へと馳せていた。
その一助が見込めるのか、それとも名声の流布に仕えるのか、と。
だが、エダーマスから初めて話を聞いた時に逡巡したのと同じく、男との話は芳しくは進まなかった。
ドラゴン退治をしてくるが、ガントレット騎士団の名を掲げてもいいし宣伝にしてもいいというアリスに、騎士団の理念に忠実な彼は、騎士団は問答無用で攻撃を仕掛ける乱暴者の集団などではなく、厳格な名誉の規範は実際に悪がなされて初めて敵を打つことが許されるものであり、廃墟に住み始めただけの竜を悪と断定し打ち倒しに行くのは理念とは違うと返す。
そもそも対外的な宣伝など、それぞれが自分のの責任で活動し、己の内面から浄化するという騎士団の崇高な理念の範疇にはなかった。
また、ゴブリンの一団をやり込めたから、武器もある自分たちはドラゴンも同様に打ち倒せると言い張るアリスに、若気と言動の無謀さを感じたのか、騎士団の男は、他人の考えに直接干渉しようとはしないと騎士団の規範を貫きつつ、凱旋の暁には祝わさせてもらうと述べ、己の中に住まい、眠っている悪の影に影響され過ぎないようにと、無謀と勇気は違うことだけを諭すように伝えた。
これを聞いたアリスは、思い違いだったと述べ、悪を見たら率先して乗り込んで、根絶やしに行くのが騎士団だと思ったがどうやら自分の考える正義の集団ではなかったとこぼしてその場を立ち去ろうとする。
侮蔑の言葉を聞き流しつつ、その後ろ姿を呼び止めた男は、シェバルの称号を置いていってくれないかとだけいい、カウンターにすぐさま投げ出されたメダルを寂し気に見つめ返した。

―――
心せよ。悪とはかくのごときもの。
悪は闇であり、影であり、汝の盲点に潜むものである。
気が緩んだ一時を狙って、悪は誰の中にも忍び込む。
悪は変装の達人であり、中でも最悪の変装は、そう、君自身である。
悪は君自身の考えや感情になりすまし、君を怒らせ、欲望と嫉妬を植え付け、己を他人の上に置かせようとする。
生まれつきの悪人はいない。悪の声を己の声と思い込まされるまでには時間がかかるからだ。
真の自分を知ることを恐れるな。
勇気とは、目の前の竜と戦うことではなく、己の内なる竜と戦うことだ。
我らの祈りはそのためのものである。
己の内なる竜を滅ぼせたなら、己の内に潜む闇に打ち勝ったことになる。
闇に打ち勝ち、その時初めて、真の善を理解できる。
そして真の善を理解して初めて、剣を佩き騎士団の徽章を帯びる準備が整うのだ
心せよ。悪とはかくのごときものなり。善とは己の内に潜む闇に打ち勝つことなり。
―――

いつもの祈りの言葉をメダルに投げかけると、男はメダルを懐にしまい、アリスの旅からの生還と、彼女の心の内なる悪への退治の成功もタイモーラ神へと祈った。
 翌朝、意気揚々と酒場に現れたウルリッヒはいつも通りに朝食を取るアリスに微笑みかけると、3つの小瓶を誇らしげに懐から取り出した。
オグマ神殿と領主同盟のネットワークにより、朝一番で無事にポーションの獲得に成功したのだ。
しかも天啓のおかげか占いの効果か、運のいいことに3本ものポーションが格安で入手できたという。
これぞオグマ神の導きか、と頬を紅潮させて興奮しているウルリッヒに、アリスはいよいよドラゴン退治が現実味を帯びてきた実感と、これからの自分の英雄譚へと夢を馳せ、足元でいまだ高いびきを書いて大の字で床に寝そべっているドワーフ2人を蹴り起こした。
ムサシの姿が見えなかったが、彼も朝食が終わるころには酒臭い息を気にもせず酒場に舞い戻ってきて、やぼようだ気にするな、と一言述べただけで買い足してきたポーション・オヴ・ヒーリングをちらりと見せた。
食後の果物をかじるアリス以外は、寝ぼけ眼で椅子にずるずると這い上がる仲の良いドワーフ達を囲んで、早速運ばれてきた食欲をそそる匂いを振りまく朝食をガツガツと平らげると、再び4人になった一行は、軽い足取りで川の上流にして森の中ある廃墟、サンダーツリーへと旅立っていった。
サンダーツリーへの道すがら、サンダーツリーに関して知っていること、覚えている限りのことをアリスは3人に伝えるが、その話の中でホートナウ火山の噴火や村そのものが守られなかった事に、神も大して役に立たないし自分は無神論者だと不平交じりに世界の異端者であることをこともなげに吐露する。
様々な神の恩寵を体験し、見聞きし、そして自らも侍祭であるウルリッヒには看過できない話ではあったが、グンドレンを救い、ネヴァーウィンターへ向かう道中でも同じような発言があった事を思い返す。
そして、もしかしてこの少女を導くこともオグマ神の計らいの範疇にあるのではないかと思案し、世にもまれな無神論者を如何にして神への信仰の境地へと高まらせることができるのだろうかと思い巡らせた。
まずは若さの発露なのか、イスガルドの呼び声のような英雄への憧憬の仕業か、知らぬ間にカルケリに住まうネルル神の策略にでもうなされているのかと、色々と思案していると、過去に救った経験から、野心や勇気から闇の王ベインの黒き手に肩をつかまれる者を救うには己と向き合うのが一番だったことを思い出し、結局は心を捕らわれているサンダーツリーでの転機が必要なのかもしれないという考えに至る。
一緒に旅を続ける一同を手駒のように彼女が発言する事が端々に垣間見える度、本人も知らず知らずのうちに、信頼や仲間というよりは自らの目的を果たすための道具と見ているかもしれず、這いよる混沌の気配を感じずにはいられない。
良い方向への転機となればよいが、そしてまた、その一助となるべく自分たちがともに旅をしているのかもしれないとも考え、ウルリッヒはサンダーツリーへの決意を新たにして静かに森を眺めた。

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