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その職業の行方

今日も病院のスタッフの皆さんはキラキラと働いている。

大きな病院というのは、科によって会社が違うかというくらい働く人のキャラが違う。私の入院するフロアは合コンに連れて行ったら文学部卒辺りの男子がハァハァ言いそうなノーメイク風可憐女子が多く、ヘルパーさんは声枯れしたサバサバ系情に厚い女子、男子ヘルパーはその筋肉を車椅子を押すだけに使うのは惜しすぎるガチムチおじさん等がいる。

麻酔科の看護師さんはとにかく派手。私が目にしただけで三人の看護師さんが、ゴリゴリのつけまつ毛をつけていた。そして麻酔をかける直前「おぬきさんのそれはエクステですか?」と聞かれた。あなたはつけまだね、と言い返したかったけどバタバタしてたので「はい」とだけ答えた。たぶん麻酔中、目にテープを貼るので気を使ってくれたのだと思う。

ちなみに私の担当医は何かをぎっしりと詰めたような四角い男で、声が大きく、その声の本質はデフォルトふざけてるみたいな先生だ。しかしそれは患者と気を楽にしたコミュニケーションを取るための仮初の姿で、本当は仕事に厳しい人なのではないかと私は勝手にイメージしている。

リハビリセンターにはたくさんの理学療法士さんがいる。今日のXでも呟いたが、そこには浜野謙太似の理学療法士さんがいてリアルに「デュフ、デュフフ」と笑うので、私はうつむいて肩を震わせている。

私の担当の理学療法士さんは小さな元気玉みたいな女性で、南国の顔立ちをした美人さんだ。頬に魅力的なそばかすがあり、スキューバダイビングかサーフィン等を趣味にしていそうだ。彼女はドクターのオーダーと患者のカルテをしっかり頭に入れているので、今後の回復度合いやするべき動きなどに対するアドバイスがとても的確で優秀だ。

そんな彼女は私の仕事がハイヒールを履くものだということを事前に理解をしていた。リハビリを続けている最中、ふいにステージでの動きについて話題に上がる。

「ステージではどんな動きをするのですか。激しく踊るのですか」

激しく踊る…? 例えば、プッチモニみたいな? え、それともEXILEのような…?

「急に動いたりとか…高速に回転したりとか…」

ん? 私が高速で回るニーズがどこに…?

「あの…ステージはどんな内容のものなんでしょうか」

ああ、歌です。歌を歌ってます。

すると彼女は大きな目を更に見開いて

「カルテには “女優” って書いてありましたよ!」

なんでやねん。
女優ちゃうねん。歌手やねん。
っていうか女優は高速スピンすんのけ?

あの四角い男はどこをどう間違えて私を女優としたのだろう? 仕事ではハイヒールで階段上り下りするって言ったから? え? 舞台女優? 宝塚? つけまつ毛? あ、そういえば「傷跡が残らないようにきれいに処置します!」とか宣言してたな。グラビアもやると思ったか? やらないよ。需要ないよ。私言ってなかった? 歌うって言ってなかった??

普段、私は自分の職業を「人前に出る仕事」としか言わないので、たぶん今回も詳しいことは言わなかったのだと思う。

まぁ地域柄、芸能人も多く暮らすところなので勘違いしてしまったのだろう。

先生、女優じゃなくてごめんね。
化粧でオスカルみたいになるやつじゃなくてごめん。わりとこのまんまで出てるただの歌手です…。


#勘弁してください



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