Science誌「Three-quarters attack rate of SARS-CoV-2 in the Brazilian Amazon during a largely unmitigated epidemic 」の論文の紹介1

 少し前に読んだのですが今回はScience誌の論文、ブラジルのマナウスでの血清有病率調査に関する論文を紹介したいと思います。マナウスは北ブラジルのアマゾナス州の州都で200万人ほどの人口で密度は158人/km2でブラジルでも新型コロナの感染が甚大だった地域です。2020/3/13に初感染者がみつかりついで爆発的な感染が起こり5月の初めに感染はピークに達し4.5倍もの超過死亡がみられたそうです。十分な緩和策(感染流行を遅らせピークをなだらかにする)が取られておらず、なにもしなければどうなるかのモデルになるのではと筆者達は考えたようです。あとでも書きますが感染率が推定で70%を越え集団免疫の観点からも興味深い地域だと思います。

Three-quarters attack rate of SARS-CoV-2 in the Brazilian Amazon during a largely unmitigated epidemic
2021 Jan 15;371(6526):288-292.
https://doi.org/10.1126/science.abe9728

なおこの論文はCC BY 4.0のもと利用可能です。以下ではこのライセンスのもと一部翻訳し、図を利用しています。

以下はAbstract(要約)の和訳(『』内)したものになります。
『新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)はブラジル北部アマゾナス州都マナウスで急速に感染が拡大した。そこでの発症率はほぼ緩和策のない状態でのエピデミックの最終規模(the final size)の推定である。献血ドナーのサンプルを活用した我々の研究から、エピデミックのピークから1月後の2020年6月までのマナウスではその人口の44%で(SARS2に対する)IgGが検出された。抗体が検出できないような症例な抗体や抗体反応が弱まった症例を補正すると6月の発症率は66%になり、10月では76%にのぼる。ブラジル南部のサンパウロの10月の推定発症率は29%とマナウスの発症率はより大きい。これらの結果から、対策が不十分な場合にはCOVID-19は人口の大部分が感染し結果高い死亡率になることがわかる。』

個人的には感染症モデル(SIR)は役立たないのではと考えていますが、この論文のモチベーションとしては、古典的な数理モデルでは基本再生産数R0によって感染の最大規模が決定されるそうです。例えばR0=2.5~3.0(アマゾナス州での基本再生産数とも推定されているそうです)なら89~94%の発症率になります。マナウスではほとんど対策(特にエピデミック初期)がなされてなかったそうでそういった地域での発症率を調べ古典モデルと比較することがひとつあります。もうひとつはR0から集団免疫に必要な集団免疫閾値、この場合ですと60~67%と推定されますが、この数値の妥当性を考察することのようです。

また、Scienceの同号のPERSPECTIVE(ニュースみたいなもの)でも取り上げられています。論文にしろこのPERSPECTIVEにしろ少し私の考え方とは違いますが感染が拡大した地域の疫学的なデータをみるのは有益だと考えます。

Herd immunity by infection is not an option
2021 Jan 15;371(6526):230-231.
https://doi.org/10.1126/science.abf7921

前半は抗体検査の検証みたいな話です。ここに立脚するので十分批判的に読まないとダメなのですが今回は省略します。抗体の検査法は今日公開された厚労省の調査法とおそらく同じでしょう。Abbott社とRoche社のものを使用しています(主にAbbott)。ともかく簡易検査ではありませんし、どちらも名の知れた信用にたる会社です。次回から中身をみていきます。 



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