論文Circuits between infected macrophages and T cells in SARS-CoV-2 pneumoniaの紹介その2

論文紹介の続きになります。ふつうに全訳する方が簡単なのですが著作権的なこともありしておりません。また論文通りに筋だって内容を紹介するものでもありませんのでその点を踏まえてお読みください。またなるべくわかりやすく書いたつもりですがデータの解釈に関して実験手法を通じていないと理解しにくい点もあります。

紹介論文
Grant, R.A., Morales-Nebreda, L., Markov, N.S. et al. Circuits between infected macrophages and T cells in SARS-CoV-2 pneumonia. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-020-03148-w

2. 呼吸不全(人工呼吸を必要とする)を起こすのはSARS-CoV-2の重症肺炎のごく一部の(原文で、a minority of)患者。ただまさにこの患者群こそが、新型コロナに関連した合併症、死亡、社会経済学的コストのほぼ全てを占めている

 結構ドライな見方ですけど大事なのかなぁと思います。原文は強調文でそれを意識して訳しています(Discussionの第1パラグラフを訳しましたが、イントロ最初にもほぼ同じメッセージが書かれています)。この論文の研究はアメリカのイリノイのノースウェスタン大学の医学部で行われたものです。不勉強で知りませんでしたが結構有名な大学のようですね。アメリカも新型コロナの被害が甚大な地域なのですが、アメリカでも人工呼吸(mechanical ventilation)を要する患者は割合で言えば少ないのでしょう。この医学部には”Pulmonary and Critical Care Medicine”部門がありそこで患者さんがこの研究の対象者で、合わせてコロナ流行以前の他の肺炎サンプルも加えて比較研究を行っています(こういう将来の臨床研究を目的としたサンプル保存は大学病院ではままあることです)。特徴的なのはBronchoalveolar lavage (BAL) 、気管支肺胞洗浄液、を用いて解析していることです。簡単に書けば肺の洗浄液の成分(そこに含まれる免疫細胞の種類や状態、サイトカインなどの値)を新型コロナと他の肺炎で比較研究したわけです。まずサンプルの内訳ですが、

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となります。年齢、性別、人種はおよそ揃っています(比較研究では重要)。ただしBMI(Fig.1f、こちらは引用しました)と自己申告の民族でヒスパニックとラテン系と有意高かったそうです(raceとethnicityって微妙に違うんですね、難しい)。サンプル数が少ないもののBMIが有意に高いことは私が予々指摘していることと合致しています。

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新型コロナ(COVID-19)の人工呼吸を要した重症肺炎患者(88名)の中央値は30強程度、肥満の分類になります。年齢は21~86歳ですけどBMIとの散布図がみたいところですね。Extended Data Fig. 1d-iに1回目の(挿管から48h以内に実施)の気管支肺胞洗浄液のバイオマーカーを調べたグラフがありますがこちらは今回は触れません。
 Fig. 2では気管支肺胞洗浄液中の(挿管から48h以内に実施ており挿管時の状態としています)の免疫細胞を調べています。

3. 呼吸不全に陥った新型コロナ重症肺炎者の肺胞にはT細胞や単球の集積がみられ、遺伝子(RNA)発現解析から肺胞マクロファージはインターフェロン応答をしており、さらにSARS-CoV-2のRNAが検出された。

Fig.2bをみてもらえれば箱ヒゲ図で好中球、単球、T細胞(CD4、CD8陽性)の割合を示しています(FACSによる解析です)。

脱線- 上で黒字で書いてますけど箱ヒゲ図をみてどうでしょうか?確かにenrichはしてはいます。ただ文書だけと図と合わせては印象は異なると思います。字面だけなりレビューだけなりでの論文解釈の難しいところですね。これは脱線です。-終了

遺伝子発現解析は分離した細胞s(Cell Sorter)のBulk(sngle cellでないってこと)のRNA-seqです(細かいことは説明しません、検索してみてください)。肺胞マクロファージ(alveolar macrophage)ですが簡単に説明すると肺(厳密には肺胞)に常駐する免疫細胞の1種で侵入異物(空気を吸っても入ってくるのはガスだけとは限りませんよね)を取り除く重要な役目を担ってます。リンクした英語版のwikiの方が解説が豊富です。肺胞マクロファージの遺伝子発現解析では変動した遺伝子の解析もしていますがここでは説明を省きます。面白いのはSARS-CoV-2由来のRNAも調べているところで、センスとアンチセンス鎖も調べています。SARS-CoV-2は一本鎖プラス鎖RNAウイルスですので複製しているならアンチセンス鎖も検出されるはずだからです。新型コロナ重症肺炎患者サンプルでPCRで新型コロナ陽性のもの(おそらく新型コロナ重症肺炎でもウィルスの排出ピークの関連で陰性のものもあるのでしょう、その意図や、どの採取場所、 a nasopharyngeal swab or BAL fluid での検査かはぱっと読んだところわかりませんでした)のうち67%でSARS-CoV-2由来の転写産物を検出しており、さらにそのうち38%でプラス、マイナス両鎖の産物を検出しています(Extended Data Fig. 3b,c)。なおインフルエンザAウィルス(3例のPCR陽性者、うち1例は他のコロナウィルも検出)でも同じような解析をしているのですがうち1例でインフルエンザAウィルスが検出されています。もう少し数がないとわかりませんけど気になるところではあります。また他のコロナウィルスは2例(うち1例はインフルエンザAも検出)含まれており、SARS-CoV-2の配列ににヒットするリードはほとんど検出されていません(Extended Data Fig. 3b)。誤解がないように書いておきます。生のリード配列の総数を確認していませんがExtended Data Fig. 3bのヒートマップからSARS-CoV-2にヒットするリードで多いものは10^5程度あります。コロナウィルスは1例はほぼヒートマップの色が黒でリードがないことを意味していますが、もう1例はアンチセンスのところが暗い紫色になっています。よく見るとSARS-CoV-2PCR陽性以外のサンプルでもSARS-CoV-2配列にヒットするサンプルがあります。これらも暗い紫色です。リード数で言うと10以下です。ヒットしたリードの配列を精査すべきですがまぁノイズとみなす方が常識的でしょう。SARS-CoV-2に関してはリードのカバレージも見ているので興味がある方は見てみてください(Extended Data Fig. 3c)。
 


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