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論文Circuits between infected macrophages and T cells in SARS-CoV-2 pneumoniaの紹介

 Natureに興味深い論文が出ました。このところ新型コロナに関する研究論文(レビュー以外)は読んでませんでした。こちらは臨床研究でも基礎に近く少し読んだ感じですんなり読めそうでしたので読みました。研究結果以外にもいろいろと重要なメーッセージがありそうですので(少しイレギュラーな形式になりますが)紹介したいと思います。ただしほとんど論文の研究成果を紹介していませんので誤解なくお願いします。

Grant, R.A., Morales-Nebreda, L., Markov, N.S. et al. Circuits between infected macrophages and T cells in SARS-CoV-2 pneumonia. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-020-03148-w

1. 他の肺炎と異なり、SARS-CoV-2による肺炎はCOVID-19の症状が出てから呼吸不全に至るまでの期間が長く(6-12日)、長期の人口呼吸を必要とする(しつこい肺炎)

例えばインフルエンザAの感染では症状が出てから1~3日、あるいはもっと早くに呼吸不全になるようです。また新型コロナは長期の人工呼吸が必要なのでその結果他と比べて全身性の合併症が多いとも考えることができるとしています。シンプルな解釈ですけど十分ありえますね。また他の肺炎と比べて炎症性サイトカインの血中量が多いというわけではないそうです(彼らのコホートや他の研究でも)。重症性をサイトカインストームなどに求めてましたがそう単純ではなさそうです。

ここで6~12日と出てますがこのnoteでも何度も紹介しているBMJの論文の図とも合致します。具体的にどう対応すればいいのか書けないのがもどかしいところですが、感染し発症してから数日をいかにウィルスの増殖を抑えれるように過ごすかが大事なでしょう。ここが自宅療養の難しい点です。Yahooの記事に感染症専門医の忽那賢志さんって方が"新型コロナ 自宅療養中の過ごし方、注意したい異変、問い合わせした方が良い症状の目安"という記事を書かれておりよくまとまっているように思います。じっくりしっかり読んでみてください。必ず役に立つと思います。

インフルとの動態の違いですが、インフルの受容体であるシアル酸は肺胞の上皮細胞(のalveolar type2)でも多く発現しています。一方、SARS-CoV-2の受容体ACE2は多くは発現していません(さらに上・下気道で発現の非対称性もある)。つまり肺胞ではインフルエンザの方が感染しやすく(つまり増えやすい)、すぐに重症化(組織の損傷、細胞死や炎症性サイトカインの分泌)するのです(時間軸的に)。SARS-CoV-2はACE2受容体の発現が乏しいので肺の全体的にでなく局所的に感染するとしています。これは患者のCT像との所見とも合致するようですね。ここは結構重要な内容だと考えています。wikiの英語版のPharynxの図を拝借して少し説明したいと思います。

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上気道は下気道とくらべACE2の発現が多いです。以下はおよそはあってるのでしょうが一応あくまでもモデルです(論文中にも同じようなことが書かれています)。まず鼻腔の奥、咽頭鼻腔部(Nasopharnx、鼻咽頭)にウィルスが感染し増殖します。ウィルスを排出しては周囲に感染しだんだんと下に移動していくのでしょう(黄色の矢印)。またここで重要になるのはやはりウィルス排出量です。感染性のウィルスの量が多ければより感染が広がりやすい、ACE2の発現量の低さを補えます。あるいは鼻水など(としましたが論文ではNasopharnx contentsとされてます。咽頭由来の粘液なのでしょう)を吸い込んで一気に下まで移動するのかもしれません(緑色の矢印、誤嚥としました)。ともかく肺に至るまでも時間が掛かりますし肺に到達してもそこでの感染拡大に時間が掛かるのです。下に移動せず上に移動し嗅上皮で感染増殖すれば臭覚に障害がでるのだと思います。
 少し概念的な話になりますけど、たぶんウィルス量に関しては閾値(一線)があるんだと思うんです。それは体質や体調に依存しますけど体の免疫力を越える越えなない線が。一線越えれば感染し、また一線越えれば有症状になり、さらに一線越えれば肺炎になるのような。だから免疫力を高める必要があり、換気の悪いところに長居するのが危険なわけです。たくさんウィルスに暴露する可能性が高まります。一度にたくさんも、連続した結果たくさんも、断続的にも危ないわけです。

話をもどし、この肺での局所的な感染こそがじわじわ進行していくSARS-CoV-2の肺炎の特徴の理由だとしています(正確にはここでこの論文の発見であるマクロファージの感染とT細胞のリクルートメントにポシジティブフィードバックのが出てくるのですがここでは省きます)。

このあたりのことは論文のDiscussion(の最後から3つめのパラグラフから)に述べられています。

続く

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