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令和時代の漫画家たちはどう生きるか

5月7日、漫画家のおおひなたごう先生よりご依頼を受けて、京都精華大学の新世代マンガコース3年生に向けて「デジタル時代の漫画家たちはどう生きるか」というテーマの授業を行ってきた。

大学で学んだことはほとんどきっちり大学に青春と共に置いてきた側の人間だったので、そんな僕が大学の教壇に立つなんて世も末…と言いながらも、心中穏やかでなく、とても興奮していた。話したいことならいっぱいある。

東村アキコ先生、山科ティナ先生、トーチ編集部など、錚々たる方々がゲスト講師として登壇しているところに肩を並べるかたちとなった。ナンバーナインの看板を背負った上で「デジタル時代の〜」なんて風呂敷を広げてしまったし、俄然失敗できない。

そんな誰からも言われてないし頼まれていないプレッシャーと戦いながらの90分×3コマの授業だった。

授業に出ていたのは12名だが、聞くと半数以上は海外からの留学生らしい。僕が話したのは、漫画制作論でも、ストーリー論でも、編集論でもない。どちらかというとビジネスの話。大きくいうと、時代の流れの話だった。

大学生にとって、しかも「漫画を描きたい」という気持ちで入学してきた学生たちにとって、ビジネスの話は少々退屈だ。だから、できるだけ分かりやすく、できるだけ難しい言葉を使わずに、「出版業界・漫画業界の現状」と、「そんな中で漫画家がどう生き抜くか」について話すことに努めた。

今回は、そんな大学の授業でお伝えした内容を備忘録的に書き記しておきたい。

1コマ目の要点: 出版も、漫画も、めっちゃ斜陽産業

今から漫画家や編集者など、希望を持ってこの業界に入ろうと努力する若い学生たち(20〜21歳くらい)の前でこの話をするのはちょっと辛い。でも、この圧倒的事実であり前提条件を伝えないと、この授業で最も伝えたいことの説得力がなくなってしまう。

「2018年の出版業界の市場規模はいくらか」

僕の問いに、誰も答えられる人はいなかった。「30兆?」なんて声も上がった。声が上がることはとてもいいことだ。そして、今思えば僕も学生の頃は業界の市場規模なんて気にしたこともなかったから、何も問題はない。

正解は、1兆2800億円。ピーク時(1996年)の2兆6563億円と比較して半分以下。14年連続前年割れ。書籍は12年連続、雑誌は21年連続前年割れ。書店の減少(1999年の22,296店から2017年には12,526店へ)……etc. 軽く調べただけでもこんなに悲しい現実が待っている。圧倒的事実として、出版業界は右肩下がりを続けている。

2018年のコミック市場はどうか。4414億円で、ピークは1995年の5864億円だ。紙の売上だけでいうと下げ止まる気配すらない。出版も、漫画も、めっちゃ斜陽産業である。

一方の電子コミック市場は、2017年に初めて紙のコミックスを売上で抜き、毎年順調に売上を伸ばす。斜陽な出版産業において、デジタル領域だけは希望の光として燦然と輝いている。

1コマ目の授業では、そのことだけをできるだけシンプルに、かつ事実に基づいて伝えた。出版・漫画業界に身を置いている人間からすると当たり前過ぎて細胞レベルで理解していることも、ほとんどの学生は知らなかった。それでも、授業のあとに開かれた飲み会の席で、学生たちが漫画の市場規模を覚えてくれていたことが嬉しかった。

2コマ目の要点: 求められる「出版社の独占的依存からの脱却」

2コマ目では、僕たちが実際にナンバーナインで行っている事業や、新しい取り組みを積極的に行っている漫画家たちの事例を参考に、漫画家個人のこれからの生き方について話した。

ここで一番伝えたかったことは、「出版業界としては斜陽でも、漫画家個人の活動の幅は広がっている収益を上げる方法も増えている」ということ。いや、もともと活動の幅は広いはずだった、という方が正しいだろう。

『HUNTER×HUNTER』でも、グリードアイランド編で大団円を迎えたと思ったら能力も強さも人種もすべて違う全く別の新大陸があったように、漫画家個人にとっては紙の一大産業がその全てではない。それにもかかわらず何となく「出版・漫画業界ヤバい」と個人レベルで話が出ているのは、紙の単行本・雑誌が好調だった時代の漫画業界を引きずってしまっているからだろう。

これは非常に難しい問題で、出版社も悪くないし、漫画家も悪くない。単に、紙が売れなくなり、「商業誌で連載して単行本の印税で儲かる」という従来の仕組みが立ち行かなくなってきている中で、漫画家-出版社の二者間のお金の流れが悪くなってきているというだけなのだろうと推察している。ただ単に、デジタル化が急速に進む時代の大きな流れには逆らえない、というだけのことだ。

では、漫画家たちの生きる道はどこにあるのか。漫画家の本分は漫画を描くことなので、「漫画を描く」「描いた漫画を売る」「それ以外」の3つに分けて想定できる方法を考えてみたい。

漫画を描いて発表する4つの方法

1. 商業誌で漫画を連載する
 …従来どおりの方法。ページ単価で原稿料が出るため、「描く」ことに対する対価が支払われる金額が最も高く、漫画を描くことに一番集中できる。
2. Webマガジンやメディアで漫画を連載する 
 …こちらも原稿料が支払われるところが多いが、IT企業だとページ単価ではなく記事単位での金額だったりするため描けば描くほど赤字になる可能性がある。しかし、SNSなどへの拡散や漫画掲載への自由度は高く作家としての認知度は上げやすい。
3. クラウドファンディングを利用して描きたい漫画を描く
 …希望の金額を提示し、達成すれば希望額を原稿料として賄うことができる。その分、クラウドファンディングのためのページ制作や支援者対応、リターン品の制作など漫画制作以外の作業が多い。リスクとリターンの関係が如実に現れるので、向き不向きもはっきりしている。
4. TwitterやnoteなどのSNS/Webサービスを利用して一人で漫画を描く
 …自信があれば、出版社やメディアに頼る必要はなく一人で公開すればよい。そこから単行本化、商業誌デビューなどの道はいまや無視できない一つの道筋として成立しているが、自身でUPしている以上原稿料は一切出ない。

描いた漫画で稼ぐ3つの方法

1. 単行本の重版が掛かるようプロモーションする
 …従来どおりの方法。出版社が色々とプロモーションを頑張ってくれたりするが、このご時世それでうまくいくケースは少なくなっている。知り合いの漫画家はSNSを駆使して作品を知ってもらう努力を怠らない。
2. 過去作品の権利を引き上げて自分で電子書籍化する
 …1で出版社が動いてくれないならば、せめて電子書籍の配信権を自身で管理する方法を採る。配信代行サービスを利用すれば、高い印税率で作家に還元される。
※僕らの本業でもありますが、漫画家が利用する際のメリット・デメリットについては別のnoteで書こうと思います
3. オリジナル漫画を同人誌(紙)として発表する
 …コミケやコミティアといった同人誌即売会の発展やECサービスの充実により、紙の本を書店でしか流通できない、という時代でもなくなってきている。価格設定も、ページ数も、台割も、装幀も、全てDIYでやりたい作家はこの方法でちゃんと生計を立てている人も結構いたりする。

漫画を描く以外の方法で稼ぐ2つの方法

1. ECサービスを利用しオリジナルグッズを販売する
 …色紙、原画、Tシャツ、ステッカーなど、自分でオリジナルグッズを販売することが容易な世の中である。ある漫画家は、直筆イラスト入りサイン色紙の販売額が半年で数百万円にもなったという。
2. ファンコミュニティやオンラインサロンを作る
 …少しブームが去りつつある印象だが、その気になればファンコミュニティやオンラインサロンを作って月額定額で収益を上げることもできる。ここでは漫画を描くのではなく、裏話やそこでしか見れない(読めない)コンテンツをどう生み出すかがカギ。
※これらの方法については誰でもできるわけではなく、すでに作品や作家にファンが付いている状況でないと成立しない

このように、今や漫画家が漫画で食っていくための方法はかなり多様化しつつある。僕の観測範囲内でしかないが、すでにデジタルの領域で個人で活躍している漫画家を見ていると、出版社に依存しない道を歩む人も少なくない。

誤解のないように伝えておくと、出版社に依存しない=出版社が嫌いということとはまったく違う。出版社で連載もするし単行本を出すこともある。さらには個人活動も積極的に行っている、ということだ。彼ら彼女らは、常に複数の収入源を持っている。最早、漫画家もビジネスパートナーとして出版社を選ぶ時代になりつつあるのかもしれない。

まとめ: 令和時代の漫画家たちはどう生きるか

京都精華大学での授業では、おおよそこんな話をしてきた。彼ら、彼女らがどれだけ受け止めてくれたのかは正直分からない。ただ、「自分が身を置く(であろう)業界の現状を知り、その上で自分がどういうスタイルを目指すべきなのかを自分で考え、突き進んでほしい」ということだけは言い続けた。

正直誰も正解が分からない時代になってきていると思う。強いて挙げるとするならば、「おもしろい漫画を作り続ける」という一点に関しては何も変わらない。しかし、その漫画を誰と作り、どこで発表し、どういう形式で販売し、どうPRしていくかは、紙が衰退を続ける今、業界をあげて模索しているところだろう。

だからこそ、自分で多角的に情報を取得し、まずどうすべきかを考える。責任の所在を外に作るのでなく、自分で持てるようになることができれば、後悔のない漫画家人生を送れるのではないだろうか。

難しい世の中になった。でも、だからこそ今動かないでいつ動くのだろうか。そんな気持ちで、僕自身もこの荒波が打ち寄せる漫画業界のいちプレーヤーとして人生を賭けた戦いに参加している。漫画家の皆さんも、どうかおもしろい漫画を作り続けるためにも、新しい時代を生きるロールモデルを僕たちと一緒に模索していってほしいと思う。

最後に、貴重な機会をいただけたおおひなたごう先生には、本当に感謝しています。

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ありがとうございます!ところで『パンダ探偵社』って漫画はもう読んだ?
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1985年兵庫の宝塚生まれ。関西学院大学→求人広告制作→Webメディア編集→schooディレクターを経て、 「すべての漫画を、すべての人に。」をMissionに掲げるナンバーナインに取締役CXOとして参画。※アイコンはトミムラコタさん作