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とあるクリエイターが「斜め上からの視点」を身につけた、たった1つのきっかけ

「どうしてそんな客観的に自分を分析できるんですか?」

…と、そんな質問をいただくことがちょいちょいあります。

具体的には、自分がデザイナーに向いていないことを受け入れて「イラレ職人コロ」という新しい役割で現在に至っているエピソードや、自身を弱者とした上で戦略を考えている記事などからきた質問だと思われます。

初めましての方のために軽く自己紹介しますと、僕は「イラレ職人コロ」という名前で、Adobe Illustratorというデザインソフトのチュートリアル動画を作る仕事をフリーランスでしています。

「本日のイラレ」という動画を定期的に配信することを中心に、書籍や講師、講演などのお仕事をいただいております。副業とか趣味ではなくこれが本業で、ありがたいことにこれ一本で今のところ普通に食えています。感謝感謝。

詳しくはこちらからどうぞ。

さて話を戻しまして、僕が物事を決めるとき、何を考え、何を重視し、どのような手順で判断するのか。改めて言語化すると、自分自身を将棋などで使う「コマ」のひとつと捉えて、斜め上から俯瞰している節があります。

自分がいて、周囲に同業者がいて、クライアントがいて、消費者がいる。会社があり、SNSがあり、社会がある。その中でデザインはどんな役割があり、課題があるのか。その上で自分はどう立ち回るのが全体にとって、そして自身にとって都合が良いのか。

その中では自分がデザイナーに向いていないことや能力的に劣っていることも、単なる判断材料でしかない…と、今はそう捉えています。


そう言われていきなり「なるほど!」とはならないでしょう。僕だって全く他人の思考をぼんやり説明されても、意味のあるトレースをできる気はしません。

しかし、僕には一つ心当たりがありました。自分がなぜこのような思考回路をしているのか、その原因となったものを知っているのです。








「ファイナルファンタジータクティクス(FFT)」をやりましょう。٩( 'ω' )و








「ファイナルファンタジータクティクス(FFT)」をやりましょう。٩( 'ω' )و





FFTとは

ウィキペディア的には「高速フーリエ変換」なる難しそうな言葉が出てきますがそちらではなく、国民的RPGであるファイナルファンタジーシリーズの外伝作品「ファイナルファンタジータクティクス」のことです。

1997年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からプレイステーション用ソフトとして発売されたゲームで、のちに「獅子戦争」という副題でリメイクもされているため、現代でもスマホやタブレットで遊ぶことができます。

ナンバリングのFFと異なるのは、スタンダードなRPGではなく「シミュレーションRPG」である点です。

平たく言えば、戦闘フィールドが将棋のようにコマ割りされ、複数の味方キャラクターを駒のように動かして戦うゲームシステムです。RPGなのでキャラは経験値で成長し、技や装備を整えて自分好みのキャラを作れるのが特徴です。同ジャンルでは「ファイアーエムブレム」「サモンナイト」あたりが有名でしょうか。

シミュレーションRPGイメージ図

僕は父が所持していた本作をなんとなくプレイし、見事にどハマりしました。その中で培った様々な経験が、現在の僕の戦略思考に多大な影響を与えたと言っても過言ではありません。

細かな部分は省略しますが、FFTの戦闘は「事前のキャラクターのセッティング」と「フィールドでの戦闘」の2つが大きな流れとなります。

事前のセッティングにおいて、本作はキャラクターの個々の性能はもちろん職業や装備・技などの組み合わせの自由度が非常に高く、戦闘と同じかそれ以上に頭を悩ませることになります。

戦闘においても敵もまた多様な性能があり、またフィールドでのキャラの立ち位置によっては一網打尽にされたり袋叩きにされたりすることもあるわけで、キャラの性能だけでゴリ押しも難しかったりします。

そんな無限とも言える選択肢の中で、どうすれば勝つことができるのか。

まずは自軍の戦力を分析します。主人公はもちろんサブキャラたちの攻撃力や防御力などのパラメータを観察し、使用できる職業や技も一通り目を通します。そうやって現在可能な選択肢を把握します。

そして絶対に出撃させなければいけないキャラや次の戦闘の勝利条件などのルールを理解し、その上でどうするのが最も効果的な戦い方なのかを考えます。

例えば物理攻撃に優れているキャラを攻撃の軸として、攻撃をより強くする補助魔法を別のキャラに覚えさせたり、誰かを護衛しなきゃいけない戦闘の場合は防御する役割も必要かもしれません。要はチームのコンセプトを決め、それに合った役割分担と具体的な装備などをセッティングします。

長い準備を終えていざ出撃。まずは敵やフィールドの情報を確認します。敵の強み弱みを把握するのはもちろん、フィールドの高低差や障害物など有利不利を生み出す周囲の環境を把握します。

その上で自軍がより有利に立ち回るにはどのような段取りで動くのが適切か、大まかな戦略を構築してから戦い始めます。戦闘中も相手の動きなどをしっかり観察し、目まぐるしく変わる戦況を把握して対応し続ける必要があります。

仮に負けた場合は新たに得た敵やフィールドの情報を前提に、装備を整えてまた挑んでいくわけです。(もちろん事前にさまざまな敵や環境を想定して準備するのが望ましいですが)


自分自身をコマに見立てるということ

さて、そんなゲーム上の戦略が現実の何の役に立つのかと焦れてきた方も多いでしょう。ここまでの話をまとめると、以下のようになります。

  • 敵味方の強み弱みを把握する

  • 有利不利を生む周囲の環境を把握する

  • それらの情報を踏まえた上で適切な戦略を練る

デザイン関係者なら知っている方も多いのではないでしょうか。つまりこれはSWOT(スウォット)分析です。

ざっくり説明すると「強み(strength)」「弱み(weaknesses)」「機会(opportunities)」「脅威(threats)」の4つの観点から情報を整理し掛け合わせることで、経営課題を導き出す分析方法です。

SWOT分析のイメージ

敵味方の強み弱みと周囲の有利不利になる条件を把握し俯瞰することで、適切な戦略を導き出す。僕らがゲームでやってきたことはまさにこれです。

ようやく本題に戻れますね。要するに僕は、このシミュレーションRPGのキャラの一つのような感覚で自分自身を動かしています。

  • デザイナーに必要な能力のいくつかが僕には欠けているという弱み。

  • 周囲に比べてSNSやソフトの扱いに優れているという強み。

  • デザイナーは忙しいので長い動画を見るのが厳しいという脅威。

  • 当時Twitterにはイラレのチュートリアル動画が無かったという機会。

…などなど、様々な情報を並べ検討した結果「本日のイラレ」というコンテンツに、それを運用する「イラレ職人コロ」という仕事に可能性を見出しました。

「ゲームをクリアする」という目的において、「主人公」とは役割のひとつに過ぎません。他のキャラクターは能力に応じて、味方に、敵に、環境に応じて、適切な役割はいくらでも存在します。

苦手なことも不利な条件も、行動に伴うリスクすらも、全ては斜め上から俯瞰した時には戦略上の「情報」でしかありません。手持ちのカードを最大限に活用し、自分自身の人生をデザインしていく。それが僕の根本的な考え方です。

その結果として、自分は「主人公デザイナー」であるより補助役である方が全体のためになり、最終的には最も自分の利益になると読んで動いています。

余談ですが、僕はゲームにおいて「間違いなく強いキャラ」を使うのを避けがちです。それなりの性能のキャラを使って、しかしレベル上げは程々に戦術で強敵を打ち破る、いわゆる「ジャイアントキリング」に快感を覚えるタイプのゲーマーです。何というか、ゲームはその人の性格や人生を表しますね。


現実という名のゲームの隠しパラメータ

残念ながら現実は全てがゲームの通りには行きません。なぜなら我々は生き物で欲求があり感情があり、何より死ぬまで何十年もゲームは続くのです。

例え「最適な答え」がデザインできたとして、それに対して自分が興味を持てなければいずれそれを運用するのが苦痛になり、どんどん効率は落ちていきます。

それを避けるにはモチベーション、つまり自分がこの仕事の何に喜びを覚えているのかを具体的に把握し、維持するためにはどのような手段が良いのかを知る必要があります。

僕の場合は「素晴らしいデザインができた」ことよりも、「自分のデザインで具体的な成果(儲けや改善されたというデータなど)が出た」ことに喜びを覚えることに気づきました。

それを継続的に観察するのに、フリーランスという働き方や、SNSというメディアは非常に相性が良かったと言えるでしょう。

また、仕事の結果で得られるお金も、ただの数値以上に感情に影響を与えます。
僕は1〜2年は暮らせるだけの貯金を用意し、かつnoteで毎月最低限の生活費が得られる段階になってから独立しました。

つまり、多少仕事がうまく行かなくても「早く次の仕事をもらわなくちゃ」という焦りで他にやるべきことを疎かにしたり、長い目で見てあまり良くない仕事を受けたりしないで済む状況を作ったわけです。

何が言いたいのかというと、現実においては感情もパラメータに組み込んで考える必要があるわけです。就活の時に「自己分析」をたくさんやらされて正直辟易しましたが、自分が何に喜びを覚えるのか、どんな人生を歩みたいのかは、自身の戦略を決定する上でかなり重要な要素だと今は思います。

最初から全部決める必要はない

ここまで読んで「そこまで細かく自分のことはわからないよ」と困惑している方も多いでしょう。大丈夫です。僕も最初から何でも把握できたわけではありません。

一番最初から「イラレ職人コロ」という形を望んで情報発信を始めたわけではなく、「イラレが得意だから、Twitterで発信してたら何かあるんじゃないかな…」くらいフワッとしたスタートでした。

しかし発信の中で自分自身の感情や他人の反応を観察し続けて、彫刻を削るようにだんだんと自分自身の心の形を理解できたように思います。

最初は曖昧でも構いません。少しでも興味を持ったことを見逃さず、挑戦してみてください。発信を続けていけば、他人の反応から自分に向いていることや望んでいることが見えてくるかもしれません。

考えろと散々主張した後で言うのも何ですが、「考えるな!感じろ!」と言うやつですね。考えるのはその後で大丈夫です。


長くなりましたが、ゲーム的思考で物事を考えると色々捗るよと、それだけの話ですね。

なお、FFTは中世ヨーロッパ的なファンタジー世界が舞台で、貴族同士の権力闘争やそれに巻き込まれる平民などなど、終始重くて暗いストーリーです。身分差別など過激なシーンもあるので苦手な人はアレですが、そのシビアな世界観も僕の人格形成に影響を与えた作品だと思います。

まぁ、あと…「リオファネス城の悲劇」とか「赤チョコボ」とか、ゲーム的なトラウマも色々ありましたが、それも含めて心に刻まれています。(リメイク版では修正されているらしいですが)

ちなみにこの記事のために検索して知りましたが、ちょうど2022/1/4までスクエニのアプリが50%オフになっているそうです。今なら7〜800円で買えます。コロくんの思考回路に興味を持った人も、単純にゲームに興味を持った人も、もしよければプレイしてみてください。

以上です。

それでは、良いお年を。
良いイラレライフを。d( ̄  ̄)


エサをください。