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映画『トロピカル マラディ』

※ネタバレ含む記事になっておりますので、未視聴の方はご注意ください。

最初に観たときの事

いまいち理解できないのに、忘れられなくて、もう一度観たい、と思う映画はありませんか?私にとって『トロピカル マラディ』はそんな映画です。最初に観たのは15年ほど前。どこかの映画祭で上演されたときに観ました。その時は、監督のティーチインもあったので、映画終了後に監督のお話も聞きました。チケット買った時から「きっと難解な映画なんだろうな」と思っていましたが、果たして、やっぱり難解でした。なのに忘れられない映画でした。どうしてこんなに忘れられないのか。思うに、冒頭に、中島敦の山月記の一節が引用されているからではないか、と。
中島敦の『山月記』は大好きな小説なのです。私の高校時代には国語の教科書に載っていたのですが、今はどうなのでしょうか?最初に読んだとき、衝撃を受けました。簡潔ながら重厚で、読む者をぐいぐい引き込む文体。その文章に惹かれて、ゾクゾクしたのを覚えています。そんな山月記の一節が、冒頭にいきなり出てくる訳ですから、映画の印象も強くなります。

どうしても、もう一度観たい、と思いましたので、先日、DVDを購入しました。外国製で、英語字幕しか無いです。リージョンが違うため、普通に市販されているDVDプレーヤーでは見られませんので、パソコン視聴です。リージョンの違うDVDは、VLCメディアプレーヤーを利用すると見られる事が多いです。ただし、見られないパソコンもある様です。

映画のあらずじ

Tropical Malady - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Tropical_Malady

Tropical Malady - Kick the Machine Films
http://www.kickthemachine.com/page80/page24/page25/index.html

映画は2部構成で、前半と後半では全くトーンが変わります。
前半は、辺境警備(?)の兵士と近隣の村の青年との恋のお話です。一緒に映画や食事に出かけたり、近所のお寺を訪問してみたり、普通に恋愛が進んでいくのですが、最近のBLドラマの様なラブシーンはありません。唯一ラブシーンと言えるのかな、というシーンが、お互いの手を舐めあうシーンです。というか、兵士は青年の手にキスをしているんですが、青年は兵士の手を舐めるんですね、ベロベロと。そしてそのことがあった夜を最後にその青年が失踪してしまいます。もしかしたら、手を舐める、という行為も、その後の展開になにかしら影響があるのか?とも思いつつ。

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そして後半、家畜や村人が次々に消えていくため、兵士が森に調査に行きます(なぜ一人で行くのか?)。そこで兵士は虎と化しつつある青年と会います。兵士は魔物を追っている様で追われている。そして。。。

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後半部分では、村の青年役の役者さん、素っ裸で熱演です。森の中で素っ裸ですよ!大変だったでしょうね?

解らないなりに考えてみる

後半に入る前、昔話が挿入されています。
「昔々、様々な生き物に変身することができるシャーマンがいた。彼は森を歩き回り、村人にいたずらをしていた。ある日、虎に変身し、さらに人に変身して猟師をだましていたシャーマンを、猟師が撃ち殺した(虎が人に変身しているのだと思われた?)。虎の死体は博物館に展示されている。シャーマンは虎の魂に捕らえられた。」
今、シャーマンの魂が虎と化して村人や家畜を襲っている。

この昔話が重要なのかな、と思うのです。シャーマンの身体は虎の身体として博物館に収められてしまっているのですから、虎と化したシャーマンの魂には宿る身体が無い。そこで村人である青年が捕らえられ、青年の身体にシャーマンの魂が入ってしまった。しかしシャーマンの魂はすでに虎と化しているので、青年も徐々に身体が虎と化していく。

この物語で一番解らないところは、時間が前後しているような表現です。冒頭に、シャーマンに乗り移られたと思われる裸の青年が出てきたり、後半に森に入って最初の夜を迎えた兵士が、2日目の夜に兵士自身が出していたと思われる音を聞いていたり。

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最後のシーンで、兵士は虎と相対します。その時、虎が言葉を発しますが、その言葉はシャーマンの言葉なのか青年の言葉なのか?そして兵士は虎に食べられてしまったのか?

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15年前のティーチインのお話

映画祭で観たとき、上映後に監督のティーチインがありました。監督は物静かなたたずまいで、小さい声でぼそぼそと話される方で、観客全員、固唾をのんで監督の言葉に耳を傾けていた印象が強く残っています。その時に監督が話されていた事で、メモしていた事がありましたので、ここに追記しておこうと思います。
この映画は「個人的な映画」であるという事。また、前半も後半も、「ある意味、ハンティングを描いた映画だ」という事。
何か映画の理解の助けになるような言葉を期待していたのですが、全くそういった言葉が無くて、あれ?と思った事も、今、ありありと思い出しました。

この映画、日本では今、単館の特別上映か、図書館や博物館での特別上映会などでしか見ることができないようなのですが、観られた方がいらっしゃったら、ぜひ感想とか考察を教えていただきたいです。私が見いだせなかった様々な気付きを得られるかもしれない。

タイトル画像cr:Kick the Machine Films
本文中画像cr:Kick the Machine Films

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