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楽しいと言い切れる人生にしたいから、瓦割りで「楽しく暮らす人」を増やす!【瓦割りカワラナ川口民夫さん】

東京メトロのCMで、石原さとみさんが瓦割りをしているシーンを見たことがありませんか?

石原さんが瓦を割っているのは、浅草にある「瓦割りカワラナ」。石原さんの隣に映っているのが、今回インタビューさせていただいた、「瓦割りカワラナ」を運営する合同会社ハハハの川口民夫さんです。

川口さんは大手人材系サービス会社で働くかたわら、2016年8月に合同会社ハハハを立ち上げ、2017年4月に「瓦割りカワラナ」の営業をスタート。現在は会社員をやめてご自身の事業に専念し、土日祝日に「瓦割りカワラナ」の営業をしながら、コワーキングスペースの運営やイベントの企画など、様々な事業を展開しています。

「自分の会社を始めて、働き方についての考えがガラリと変わった」と語る川口さん。「瓦割りカワラナ」立ち上げの経緯や、これからの「働き方」についての考えなど、お話を聞きました。

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「何もない人生でよかった」と言って死にたくない。この思いで「瓦割りカワラナ」をスタート

——会社員をしながら「瓦割りカワラナ」を立ち上げたとのことですが、どうして自分で事業をやろうと思ったんでしょうか?

36歳のときにふと、「仕事がつまらないな」と感じる瞬間があったんです。仕事にもすっかり慣れ、仲間にも恵まれていたんですが、どうも楽しいと思えない。不満があったわけではなくて、逆に何もないというか。
そのときにふと、20歳のころに読んだ志村けんさんの著書『志村流』に書かれていた、「人生72年説」を思い出したんです。

——「人生72年説」というのは?

自分の人生を72年として、年齢÷3で出た数字をもとに一生を24時間換算で考えてみると、自分が人生においてどの位置にいるのかイメージしやすい……という考え方です。たとえば36歳だったら、3で割ると12。つまりちょうどお昼ごろの位置にいることになります。

そこで「36歳、もう人生折り返しの年だ!」と気づいて、「前半戦楽しく暮らせていたかな?」と振り返ってみましたが、ベストとは言えないな、と。

私は1979年生まれなんですが、自分が学生の時代は「いいところを目指しなさい」という教育が強かったんです。いい高校を目指すために中学受験をがんばり、そのあともいい大学を目指し、いい会社に就職し、出世コースを目指す……。このレールに乗るのが正しくて、「転ばないことが大事」という刷り込みの中で生きてきました。

——私は85年生まれなのでもう少しあとの世代ですが、似たような価値観の中で生きてきたので、おっしゃることはすごくわかります。

学生時代にバックパッカーとして世界一周をしたり、社会人サークルを立ち上げたりと、自分なりに好きなことをやって生きてきたつもりでした。でも振り返ると、もっとやりたいことはあったはずで、それを脇に置いておいて過ごしている自分に気づいたんです。

後半戦もずっと同じ生き方をしていたら、きっと死ぬときには「あぁ、何もない人生でよかった」と思うんだろうな……と考えたら、すごく怖くなって。後半戦は楽しいと言い切れる人生にシフトしたいと思いました。

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——「楽しい人生にシフトしよう!」から、どんな流れで「瓦割りカワラナ」を立ち上げたんでしょうか。

就職活動がうまくいかなかった時期に、「やりたいことを書き出して1つずつ実行してくことで理想の姿に近づける」というのを何かの本で読んで、それを実践していたことがあったんです。
同じことをやってみよう、せっかくならほかの人も巻き込んで一緒にやろうと思い、Facebookでやりたいことを書き込むグループを立ち上げました。

ある日そのグループに、深い理由もなく思いつきで「瓦割りをしたい」と書き込んだんです。「自分も行きたい」と言ってくれるメンバーと一緒に戸越銀座にある瓦割り道場に行って、初めて瓦割りを体験しました。

そしたら、ものすごく楽しくて! なぜかわからないけどすごく気分が高揚して、それが1日中続いていたんですよ。午前中に瓦割りをして、夕方までずっとウキウキしているような状態で。「これはすごい!」と感動しました。
2016年の4月ごろ、会社を作る4ヶ月前のことですね。当時もう浅草に住んでいたので、「これを浅草でやったらはやりそうだな」と思いました。

——瓦割り体験がきっかけで、会社を立ち上げられたんですか。

後々つながってきますが、会社を作ったのはまた別の理由です。
同じFacebookのグループに「自分の会社を作りたい」とも書き込んでいたんですが、「学生のころから同じことをずっと言っているな」と気づいて。40歳になってもまだ同じことを言っていたら恥ずかしい、とりあえず作ってしまおう! と思って、2016年8月に「合同会社ハハハ」を設立しました。
設立にあたり、「楽しく暮らす人を増やす」という企業理念は考えていましたが、具体的な事業内容は決めていませんでしたね。ひとまず1年間は、会社員と並行しながら自分の事業を進めていこう、と考えていました。

——そうなんですね。そこからなぜ瓦割りに?

会社を立ち上げた2ヶ月後くらいに高校の同級生と飲みに行って、そこで会社を作ったことを話したんです。そのときまだ事業は決まっていなくて、「人を楽しませるような機会を提供したいんだ」という話をしました。その流れで瓦割りのことを思い出して、戸越銀座での瓦割り体験の話もしたんです。
そしたら、「それ、高校の同級生だよ」と言われて。なんと、瓦割り道場の代表が高校の同級生だったことが発覚したんです。

——そんな偶然ってあるんですね……!

クラス数が多い高校だったので私は知り合いではなかったんですが、一緒に飲んだ同級生は仲がよかったので、3人で飲む場を設けてもらいました。そこで「浅草で瓦割りをやりたい」と伝えたところ、協力してもらえることになって、2017年4月に、「瓦割りカワラナ」をスタートしたんです。
いろいろなパーツがつながって、今があります。まさに「コネクティングザドッツ」の世界ですね。

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ツイッターと東京メトロCMがきっかけで、お客さんが爆発的に増加

——「瓦割りカワラナ」は、立地的に観光客の方が通りかかるような場所ではありませんよね。お客さんって最初来ました?

いえ、宣伝も何もしていなかったので、最初の1ヶ月間は全然お客さんが来なくて……。このままだとまずいと思い、メディアに取材依頼をして記事にしてもらい、その記事を見たほかのメディアから少しずつ取材の依頼が来るようになってから、徐々にお客さんが増えていきました。

——今ではテレビなど数々のメディアに取り上げられていますが、取材後にお客さんが増えたなど、大きな影響を感じたものはありますか。

大きく認知が広がったきっかけは2つあって、ひとつは2017年8月の元アイドルプロレスラー・伊藤麻希さんのツイートです。CSの番組で瓦割りを体験してくれて、その様子を写真付きで投稿したツイートが、2万リツイートまで伸びたんです。その週末から、客数が大幅に増えました。

——ツイッターから、実際の来店につながるものなんですね!

もうひとつは、2018年4〜6月に放映された、石原さとみさん出演の東京メトロのCMです。放映後の週末は、対応しきれないほどのものすごい数のお客さんが来ましたね。知人からも「CM見たよ!」と連絡が来たりして、CMの影響力ってすごいなと思いました。

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高収入を目当てに生きる時代は終わった。ライフの心地よさをもっと大事に

——会社を辞めてご自身の事業に専念されたのはいつごろですか。

2018年8月です。平日は会社の仕事、週末は自分の事業……と、休みがないのは体力的にも厳しくて。これからどうしようと考えたときに、「そもそもどうして会社を作ったんだっけ?」と原点に立ち返って考えてみたんです。

自分は、楽しいと言い切れる人生にしたいと思って、会社を作ることを決めました。目の前にある「会社員メインで瓦割りは副業」「自分の会社で食べていく」という2つの選択肢を考えたとき、どう考えても後者の方が楽しそうだ、と思ったんです。

——収入面での不安はありませんでしたか?

自分の会社を始めて、収入に対する価値観がガラリと変わったんです。今の時代、会社員だから安心だとか、高収入を目指せるというわけでもないですし、そもそも高収入を目当てに生きる時代はもう終わっているんじゃないか? と思っていて。

「収入」という条件を外せば、できることはかなり広がると思うんです。もちろん、先立つものはある程度必要ですが。
自分は何をしたいのか、その上でどこまでの収入を求めるか。そこで自己決定できる人が、満足のいく人生を送ることができるんじゃないかと思います。

——私はフリーランスなんですが、「どこまでの収入を求めるか」を自己決定するってすごく大事ですよね。収入を求めて仕事を詰めすぎると、ストレスが溜まってしまうし。

昔は、月曜から金曜はストレスをためながら働いて稼いで、週末や長期休みにはそのお金を使ってストレスを発散する、という働き方が「普通のこと」と思っていました。そこの考えも変わりましたね。ストレスをためながら働くよりも、好きなことでゆるく稼ぐほうが自分はいいな、と。

「ワークライフバランス」って、本来はライフが大きな円で、ワークはその中の1つのパーツに過ぎないんです。ライフの心地よさをもっと大事にしたほうがいいと認識できたのは、会社を始めてよかったことですね。

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地域に根ざした活動を進めて「楽しく暮らす人」を増やしたい

——浅草在住とのことですが、浅草に住もうと思ったのは、何か理由があったんでしょうか?

以前は仕事の都合で札幌と金沢に住んでいて、異動で東京に戻ってきたタイミングで浅草に住んだんですが、「カルチャーのある街に住みたい」というのが浅草を選んだ理由ですね。札幌や金沢のように、街特有のカルチャーがある街って東京だとどこだろう? と考えたときに、浅草が思い浮かんだんです。

引越し早々三社祭があって、家の中までお囃子の音が鳴り響いてきたので「何だこれは?!」ってびっくりしました(笑)。隅田川花火やサンバカーニバルなどイベントも多いですよね。
ちょうどスカイツリーが創業したばかりのころで、街の雰囲気もどんどん変わっていくし、インバウンドで外国人観光客も増えていって。面白い街だな、と思います。

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——ここは予想と違ったな、とギャップを感じた部分はありましたか。

下町って、地域の人が向こうから積極的に関わりを持ってくるようなイメージだったんですが、そんなにグイグイ来るような人はいなくて。
地域の人ともっと関わりを持ちたいと思っているので、自分から積極的に人間関係を作りにいこうと、地域に根ざした活動を進めているところです。

——「地域に根ざした活動」は、具体的にどんなことをやっているんでしょうか。

「台東区100人カイギ」という企画の運営メンバーをしています。「100人カイギ」はもともと港区でスタートした企画で、毎回5人のスピーカーが登壇していき、20回くりかえしてスピーカーが100人になったらそこで組織が解散する、というものです。

私含め、台東区にゆかりのあるメンバー6人で運営をしていて、2019年10月に第一回を開催します。開催情報はFacebookでお知らせしていますので、興味がある方はぜひ遊びにきてください!

——最後に、これからどんなふうに事業を展開していきたいかを教えてください!

「瓦割りカワラナ」以外にも、コワーキングスペースの運営や、居合を体験できる「居合抜力カタナバ」、学びや遊びにまつわるイベントを提供する「浅草マナバナ」「浅草アソバナ」というサービスの展開など、様々な事業を展開しています。

まずは浅草で地域に根ざした活動を進めていき、ほかの地域でも展開していくことで、楽しく暮らす人を増やしていきたいと思っています。
とはいえ、「自分が楽しく暮らしたい」という思いでやっていることなので、あまり堅苦しく考えずに、楽しんでやっていきたいですね!

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終わりに

自分は何をしたいのか、その上でどこまでの収入を求めるか
やりたいことと収入のバランスを模索している私にとって、川口さんのこの言葉はとても響きました。

いい高校に入り、いい大学に入って、いい会社に就職して高収入を目指す。私が社会人になった10年前と比べると、働き方はずいぶん多様化しましたが、「こうあるべき」という価値観は未だに強く残っているように感じます。そしてフリーランスを選んだ今でも、その考えに縛られている自分がいます。

収入はやりたいことを叶えるためのツールの1つに過ぎないはずなのに、収入を多く得ることを目的に置いて、疲弊して、「時間ができたらやろう」とやりたいことを脇に置いてしまう。これってとても、不健全なことなんじゃないか?

ライフの心地よさを、もっと優先しよう。改めてそう感じた取材でした。

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この記事を書いた人:中村 英里(Eri Nakamura)
浅草出身・東京在住のフリーライター。趣味はイラスト、写真、純喫茶めぐり。「近場でちょっと足を伸ばすお出かけ」が好き。おさんぽWebマガジン「てくてくレトロ」を運営しています。

Official Web:https://2erire7.com/
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