貸出申請書の意見欄から逆算して、銀行からお金を借りる際のポイントを考える
貸出申請書における5つのポイント
私が社会人になって一番書いた書類が「貸出申請書」です。
大半の項目はコンピューターで印字されますが、当時は意見欄だけではすべて手書きでした。
そして、その意見欄には例えば以下のようなことを書いていました。
1.当社は業歴15年の経営コンサルティング会社。
2.本件は経常運転資金10百万円の申込み。
3.売上は横ばいであるが、一定水準の利益は継続して確保中。
4.無担保扱いなるのも既往ピーク内対応。
5.従来の借入金も順調に返済しており、プロジェクトも受注が確定していることから返済面まず懸念なしと思料。
6.新規取引先の開拓で取引深耕中の先であり、本件対応致したい。
これは「既に銀行から借入実績のある弊社が新たに1,000万円の融資を申込んだら」という想定のもとに書いた担当者意見です。
貸出申請書の場合、スペースの問題もあるので、意見欄にはポイントのみしか書けません。
1.会社概要
2.資金使途
3.業況
4.担保・保証
5.返済
6.まとめ
詳細な説明を必要とする事項については資金繰り表などの付表や申請用箋で補足説明する形になります。
皆さんは先の意見欄をお読みになって、どのような感想を持たれたでしょうか?
「あまりたいしたことは書いていないなぁ」と思われた方もおられるかもしれませんね。
たしかに、会社にとっては、お金が借りられるかどうかは死活問題ですが、銀行にとっては、ある意味お金を貸すかどうかは事務処理の一つであるという温度差はあります。このため、表面上はあっさりとしたものであり、小説などと違って、申請書の意見欄は誰が書いても表現方法にあまり違いが出ません。
しかし、見方を変えれば、「会社の事情はいろいろあるけれど、お金を貸す側としては同じような切り口で判断する」とも言えます。そこで、各ポイントについて、簡単に補足します。
会社概要:業種に対する落とし穴を回避する
さて、貸出申請書の意見欄には、「融資の申込みのあった会社がどのような会社であるか」というのを簡単に記載します。
通常、会社概要については、取引先概要なる書類を作成して、「会社の住所、連絡先、役員名、株主構成、主要な販売先・仕入先・・・」など詳細を記載します。このため、意見欄に書く会社概要はほんとにエッセンスだけです。
この時、注意したいのが、「業種によって一律的な見方をされることがある」という点です。
例えば、
・スーパーマーケットは薄利多売
・ソフトウェア業界は競争が激しく利益率が年々下がっている
・飲食業はどこも厳しい状況だ
といったように、一定のバイアスがかかった形で貴社が見られることがあるという点です。
以前、バブル期に、不動産、建設業、ノンバンクに対する融資規制がありました。私の取引先は、土地ころがしや地上げで収益を上げている会社はありませんでした。しかし、この3業種に入っているために、案件がなかなか通らない時期がありました。
この点、「こちらが思うほど、銀行員は会社の仕事の中味を分かっていないし、理解しようとはしない」という前提に立った方が無難です。
マーケティングなどで「自社のポジショニングは?」という質問をよく耳にしますが、
・競合他社とは○○が違います
・自社の特徴は■■です
と簡潔に説明できることは、資金調達をスムーズに進める上でも大切なポイントです。
資金使途:お金を借りたいならハッキリさせる必要あり
会社においても、経営者は「お金を何に使うのかについて、他人にはとやかく言われたくない」のではないでしょうか。
経営者が100%出資のオーナーで、かつ、無借金経営であれば、何にお金を使おうがうるさく言う人はいません。
しかし、銀行から借入する場合、資金使途をハッキリさせないと必要なお金が借りられません。
この点、お金を貸す側からすると、
・一時的なつなぎ資金
・納税や賞与のための決算資金
・機械や工場に投資する設備投資資金
などは比較的分かりやすいのですが、これが、
・経常運転資金
・長期運転資金
になってくると、「そのお金って何に使うのか?」がだんだん曖昧になってきます。
特にまだ収益力が低い状況の時、「本来であれば長期借入金として少しずつ返済していきたいが、銀行が短期でしか貸してくれない」ということがよくあります。
この場合は、返済計画自体にそもそも無理があるので、常に次の借入を意識しておかないと資金繰りが回りません。
資金使途は返済計画と密接につながっています。
他人には口出しされたくない資金使途ですが、「借りたお金を何に使うのかをきちんと理解する」ことは、資金繰りを回すための第一歩です。
業況:業績が悪い時こそ論理的に説明する
貸出申請書の意見欄にもスペースがあれば、
・売上高
・経常利益
・当期利益
について、
・前々期(実績)
・前期(実績)
・当期(見込)
の数字を記載していました。
この場合、当期の数字については上場会社ならば、公表されている数字がありますが、中小企業の場合、たいていは過去の2~3期分の業況をベースにした推定値です。
このため、「過去の数字が悪いと、当期に業況が改善すると言ってもなかなか信用してもらえない」傾向にあります。この点、融資の交渉の際には、単に過去の決算書を提出するのではなく、きちんと要因分析した資料を一緒に提出することが重要です。
先にも書きましたが、こちらが思うほど、銀行員は会社の仕事の中味を分かっていないし、理解しようとはしません。
したがって、補足資料で
「前期の売上が減ったのは○○の需要が大きく減ったのが原因」
「当期は前期中より□□の販促に力を入れており、○○の売上減少をカバーして」
というような説明があれば、
「当期は前期並みの数字は最低限達成できる」
と会社が主張した時により説得力が増します。
銀行員の考え方は基本保守的。このため、
・過去のトレンドを基に考える
・マイナス要素はまた起こると考える
人が多いと言えます。
一方で、
・論理的に整合性がつけば納得する
側面も強いのも事実。
そこで、業況が必ずしも順調とは言えない時、「会社としてその要因を分析して、対応策をきちんと明示する」ことは大切なポイントです。
担保・保証:自社のポジションを知る
銀行の場合、今は担保や保証があれば貸すということはありません。
しかし、最初の融資申込の際には「まずは信用保証協会付きで」と言われるように、返済をより確実にするため、保全面の話は避けて通れません。
このため、
・業績の見通しが不透明で返済面に不安が残る
・今までよりも借入金額を増やす
ような場合、「何かありませんか?」と担保の提供や追加の保証を打診されます。
銀行では「担保評価額-貸出金の総額」を、「ポジション」と呼んでいます。
「ポジション>0」の場合は比較的融資が出やすいのに対し、「ポジション<0」の場合は、よりしっかりとした資金計画や見通しがないとなかなか融資が出にくい傾向があります。
また、
・不動産であれば3年に1回
・株式であれば半年に1回
ぐらいの頻度で、定期的に担保の再評価を行います。
このため、業況があまり変わらないのに「前回はスムーズに融資が出たのに今回はなかなか融資のOKが出ない」というような時、
担保価値が下がる
↓
ポジションが悪化する
↓
より厳しく審査している
という可能性があります。
長年銀行とつきあっていると、「当社の場合、だいたいこのくらいのポジションまでならすぐに融資が出そうだ」というのが分かってきます。この点、借入金の金額はすぐに分かりますが、担保の価格については、自社で把握していることは意外と少ないのではないでしょうか。
掛目は銀行や担保の種類によって違いますが、「担保提供している不動産や株式の時価を自社でも定期的に見直す」ことはぜひお薦めします。
返済:日頃の信用の積み重ねから
お金を貸す側にとって、一番の心配はなんと言っても「貸したお金はきちんと返してもらえるのか」ということ。
そして、こればかりは、いくら立派な事業計画を作っても、すぐに信用されるものではありません。
・借りたお金はきちんと期日に返済する
・何か問題が起きた時に、早め早めに報告し、相談する
・約束したことはきちんと守る
といったように、「日頃の活動の中で少しずつ信用を勝ち取っていく」ものです。
そして、返済に関しては数字も大切ですが、「最後はやはり人」というのが私が実感するところです。
まとめ
1.会社概要
2.資金使途
3.業況
4.担保・保証
5.返済
貸出申請書の意見欄はスペースの問題もあるので、必要最小限のことしか書けません。しかし、逆に考えれば、「銀行が融資案件を審査する際のポイント」が集約されています。
各ポイントについて簡単に補足しましたが、具体的に「ウチの場合はどこをどうすれば良いのか?」が気になる方もおられるかもしれません。
この点に関しては、会社によって状況がそれぞれ違ってきますので、お気軽に弊社までお問い合わせいただければと思います。
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