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019. ブルメンフェルトKONAレース分析

クリスティアン ブルメンフェルトは2022年のアイアンマン世界選手権で2時間39分21秒のマラソンを走り、3位入賞を果たしました。Entalpi (近日公開予定のトレーニング管理アプリ)が公開したおかげで、彼のランでのデータ(深部温度、皮膚温度、心拍数)を確認することができます。深部温度と皮膚温度の収集にはもちろんCOREが使われています。

(c) CORE Body Temp

皆さんご存知の通り、KONAの気象条件は本当に“過酷”です。2022年大会は例年よりは“マシ”だったとは言え、気温は30.6℃ (87.1℉)、相対湿度は最高65%に達しました。

データを分析すると、深部体温が40.8℃(105.5℉)に達しフィニッシュ地点で医療処置を必要としたブルメンフェルトの(レース中の)行動に対する生理的反応について興味深い洞察を与えてくれます。

レース中の深部体温の推移

このデータはランニングパートのみで、スイムとバイクのCOREデータは公表されていません。

グラフでまず注目すべきは、クリスティアンの深部体温(緑線)の推移です。 マラソン開始時点での深部温度は38.3℃ (100.9℉)と彼にとって快適な状態でした。 しかし45分後には39℃ (102.2℉)まで上昇し、その後80分間は39℃付近で安定しています。

その後、優勝したグスタフ イーデンから遅れはじめてブルメンフェルトが3位を死守しようとしているところで深部体温が上昇を始めています。そこから25分間で40.7℃ (105.3℉)まで上昇し、心拍数も10ほど増加しています。

クリスティアンの深部体温はレース最終盤の10分間は40.7℃ (105.3℉)を維持し、レースを終えてからも20分間は医療処置を受けている最中も含めて非常に高い状態が続いていました。ちなみに、彼の深部体温が最高に達したのはレースの数分後で40.8℃ (105.5℉)まで上昇しています。
身体(内部)の熱を放散する

ゴールから20分後から体温は降下を始め、さらに20分後にはマラソン開始時と同じ38.3℃まで下がりました。

冷却対策

マラソン開始から2時間、ブルメンフェルトの皮膚温度(オレンジ色の線)は、何度も何度も急激な降下が見られますが、これは彼が冷却に努めたことを示す良い指標です。頭や胴体に掛け水することは皮膚を冷やし、体温を下げるのに有効な方法です。エイドステーションで水をもらうだけでなく、序盤はボトルを持ったまま走る姿も見受けられました。

これらの冷却対策に加え、十分な水分補給と適切なペース配分により、彼の深部体温は80分間39℃ (102.2℉)を保つことが出来ていたと思われます。
2時間が経過したころ、クリスティアンの皮膚温度が急激に低下しています。このタイミングはエイドステーションで氷や掛け水を受け取り、氷はトライスーツの中に入れ、水は頭からかぶっています。

クリスティアンの深部温度はここから上昇し始めていますが、皮膚温度が下がるたびに深部温度も一時的なプラトーになるのがわかります。それでもやはり、次のエイドステーションにたどり着くまでに深部体温は上昇し続けています。

深部体温閾値

欧米の多くのアスリートは既に自身の深部体温閾値(ある程度の時間なら耐えられる最高体温)を特定しています。公表されていませんが、クリスティアンの閾値はどの程度でしょうか?レースデータによるとクリスティアンの深部体温は、レース最後の30分間は39.5℃以上で最終盤の20分間は40℃以上で推移していました。ゴール後はすぐに医師の手当てを受けていました。

分析とアドバイス

今回のブルメンフェルトのデータから、他のレースの他のアスリートでもよく見られる傾向が表れているので、いくつか特筆すべき点を紹介します。

適度な深部体温域でバイクフィニッシュしている:トライアスロン競技ではアスリートの深部体温はランパートではほぼ確実に上昇します。もしランスタート時点での深部体温が高すぎる場合、走り始めてすぐに維持できなくなります。バイクの場合は空冷効果というメリットもあるため、ペース配分とバイク終盤に積極的な冷却を組み合わせる事は、ランに向けて深部体温の低下や安定させる事に役立ちます。

冷却対策がとにかく重要:2時間の間、水分補給・的確なペース配分・掛け水したことでクリスティアンは深部体温を維持していました。そのあと後半40分間、冷却対策を継続し体温上昇を抑えるように努めているにも関わらず強度を高めて走っていたため体温は上昇しています。

• マラソンの大半でブルメンフェルトの深部体温は多くのアスリートにとっての「レッドゾーン」とみなされる範囲にありました。彼が“シーズンを通した暑熱順化トレーニング”を導入することで常に高いレベルで暑熱適応していることが知られています。このような生理的適応は、(深部体温閾値を上げるため) アスリートはレース中のパフォーマンス低下を抑えることが可能になります。

体温調節は個人差が大きい:クリスティアンの様にレース中に深部体温が40℃(104℉)まで達する事はエリートアスリートにおいても珍しいことです。重要なのは、彼がこのような閾値でトレーニングやレースを行って自分の体温調節機能を把握しているという事です。この体温域は、暑熱順化していないアスリートにとっては非常に危険であることも忘れないで下さい。

• (特にレース中などは) 深部体温がとても高くなってしまうと、それを下げる事は非常に難しくなります。ブルメンフェルトの体温がレース最終盤の10分は40.7℃ (105.3℉)に達してゴール後も医療処置を受けながらも20分間はその高い状態が続いていたことからも良く分かります。

参考文献

The Kona 2022 data presented here is provided courtesy of Entalpi under the Attribution-NonCommercial 4.0 International (CC BY-NC 4.0) license.

Data for core body temperature and skin temperature was collected with a CORE sensor worn by Blummenfelt during the entire triathlon.

次回のテーマ

次回のCORE Body Temp 日本公式 noteでは、COREスマホアプリ内の指標についての説明を綴ろうと思いますのでお付き合い頂けると幸いです。

関連リンク

【CORE Body Temp Japan】公式ウェブサイト (日本語)

https://corebodytemp.jp/

【CORE Body Temp Japan】公式Instagram

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