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なぜプロジェクトの当初予算・納期は守れないのか:魔王軍に見る失敗要因の研究

プロローグ

ここは、魔王率いる悪魔族と、人間族・エルフ・ドワーフ等の妖精種族が800年間も戦争を続けているイリオス大陸

魔王ディアブロ配下の魔神将アスタロトが支配するログレス地方は、魔王国の最東端に位置し、西側に位置する人間族のトリニティ王国との戦闘では、最前線となっている。3年前の魔王軍による侵攻作戦の大失敗の後、近年はトリニティ王国側の反撃によって、当地方の魔王軍は各地で撃破され後退し、ログレス西部の要所である要塞都市アストランに立て籠もっている。

プロジェクトの概要と現状

要塞都市アストランの市長バラムは、この3ヶ月憂鬱だ。トリニティ王国の攻勢に耐えるための都市要塞の増改築プロジェクトが、まったくうまく行っていないからである。

市長バラム:「俺は運が悪いなぁ。。 他の魔王軍から転職してすぐに、人間どもとの戦いの最前線の都市の市長に任命されてしまった。逃亡した前任者の市長が進めていた要塞増改築プロジェクトは、当初予算を2億ゴールド超過・期間は3ヶ月も遅延することになり、先週の魔神将定例会では、アスタロト様に死ぬほど怒られたな・・・」

市長バラム:「これ以上プロジェクト予算オーバー、納期遅延が発生したら、俺の首が飛ぶ。しっかりとプロジェクト計画をレビューし、進捗・課題管理を厳密にやって行こう。都市秘書官エストリエ、プロジェクトの状況を報告してもらえるか?」

秘書官エストリエ:「はい、丁度昨日に、要塞増改築を発注して対応してもらっている獣人族建設集団ゾーマのプロジェクトマネージャーから、現在のプロジェクト計画からの変更要望が上がってきました。追加予算3億ゴールド・期間も5ヶ月延長しないと、要塞増改築が実行できないとのことです。」

市長バラム:「なんだと! 先週、追加予算と期間延長を、やっとのことでアスタロト様から認めてもらったばかりではないか!長年の戦争で国家財政は厳しく、来年にはトリニティ王国の大攻勢が予想されることもあり、これ以上のコスト・期間オーバーは、絶対に許してもらえない・・・」

プロジェクト予算超過・期間遅延の要因

市長バラム:「エストリエよ、なぜこのような状況になっているのだろうか・・・?」

秘書官エストリエ:「はい、予算超過・納期遅延の原因分析結果をご報告します。ご存知の通り、要塞都市アストランの要塞増改築プロジェクトは、2年前にも実施され大失敗に終わっています。」

市長バラム:「うむ、前回のプロジェクトでは、計画が杜撰で、建築会社の手抜き工事もあり、当初予算・納期を大幅に超過して、やっと完了したと聞いている。増改築はなんとか完了させたが、都市の防御力は著しく低く、昨年のトリニティ王国軍の攻撃では、あやうくアストランは陥落しそうになったそうだな。」

都市秘書官エストリエ:「今回のプロジェクト計画には、前回の失敗の原因となった課題や、前回達成できなかった要望対応を盛り込んでいます。具体的には下記です。

1.トリニティ王国軍の遠距離攻撃魔法への対応:前回の増改築では、短距離砲台しか装備しなかったため、トリニティ王国軍の遠距離攻撃魔法に対して反撃ができませんでした。今回の計画には、超長距離射程である魔神砲台の配備を予定しています。

2.セキュリティ対策:前回の要塞増改築は、トリニティ王国が送り込んでくるスパイに対して無策・無力でした。今回の計画では、最新鋭の他種族スキャンデバイスを各城門に装備する予定です。」

市長バラム:「前回の失敗を踏まえた課題・要望対応はしっかりできているということだな。

さらに、今回のプロジェクト計画策定には、悪魔族で著名な建設コンサルタントに参画してもらって完璧なものが出来上がったと聞いている。その計画にもとづいて実際の要塞増改築を担当する獣人族建設集団ゾーマも、最先端の魔都市建設技術を持つグループだと聞いているのに、なぜ当初予算超過・納期遅延が発生しているのだろうか?」

秘書官エストリエ:「前回失敗時の課題対応・要望対応だけに気を取られすぎたのが失敗の原因です。課題・要望への対応は完璧に計画できていますが、「現在問題なく実現できていること」を計画に盛り込むことが失念されました。」

市長バラム:「「現在問題なく実現できていること」だと?それはなんだ?」

秘書官エストリエ:「代表的な例を上げると、下記になります。

1.要塞都市アストランの住民居住環境整備が未考慮:アストランには防衛軍として2万の悪魔族兵士がいますが、それ以外に行政官僚・地方貴族・商人・職人とその家族、捕虜にした奴隷などの住民が約20万人住んでいます。住民の住む集合住宅・通行用道路・飲料水や排水等の上下水道整備・各種エネルギー供給ネットワーク等の整備が、増改築計画から漏れていました。

2.食料供給システムの不備:要塞防衛力強化に偏った計画であるため、食料供給のための耕作地を長距離砲台設置陣地に転用する、食料の収穫・保存施設が想定されていない等、要塞の継戦能力維持が考慮されていない計画になっています。

プロジェクト当初予算超過・納期遅延の発生原因をまとめると下記となります。前回増改築失敗を踏まえた課題・要望対応は十分に計画できていますが、現在問題無く実現できている要素が、プロジェクト計画が漏れており、予算超過・納期遅延要因となっています。

プロジェクト当初予算超過・納期遅延の発生原因

市長バラム:「なるほど、状況はよくわかった。となると、これが最後ではないな・・・」

秘書官エストリエ:「はい、お察しの通り、現在のプロジェクト計画のままでは、進行とともにまた必要要素の漏れが発覚し、予算の追加・期間の延長要望は次々と出てくるでしょう。」

市長バラム:「プロジェクトをこのまま強引に進めるより、一旦停止して、プロジェクト計画から見直したほうが良さそうだ・・」

サマリ

現在発生している課題や実現できていない要望が大きいほど、「現在問題なく実現できていること」を計画に盛り込むことを失念しがちです。

業務改革、新システム導入、今回のような大規模な建造物構築等のあらゆるプロジェクトにおいて、現状の実態把握を行い、「現在問題なく実現できていること」もプロジェクトゴールのあるべき姿に盛り込むことが必要です。

ベラスケス流風景画 Stable Diffusionで生成

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