お味噌汁の山中くん

小学校5年生の時だったと思う。調理実習の授業でお味噌汁を作る回があった。私はクラスで4番目くらいのお調子者である山中くんと同じ班になり、一緒にお味噌汁を作ることになった。調理中、山中くんは随分楽しかったようでテンションが上がって自作の「お味噌汁ソング」を歌い始めた。

おみそしーる♪おみそしーる♪ララララ ラララン ラ〜♪(シド#シソ#ミ/シド#シソ#ミ/ファ#ソ#ファ#レ#/シド#レ#/ミ)

お味噌汁の具材も、作っている状況も、なんの説明もしていないシンプルソング。しかし、どんなCMソングより、頭にこびり付いて離れない。現に15年近く経った今でもはっきりメロディを覚えている。

小学生の私はこの歌が結構気に入って、その日家に帰ってから母にお味噌汁ソングの話をした。もちろん歌も歌った。母はそれを聞いて「山中くん可愛い、ほんとに可愛い」と言って笑い転げ、それ以来お味噌汁ソングは私の家族にお馴染みの一曲になった。(父が歌っているところは見た覚えが無いが、少なくとも母と姉は歌える。)私は食卓にお味噌汁が並ぶたびにお味噌汁ソングを歌い、母はそのたびに「山中くん可愛い」と言って笑った。

当時の私は「山中くん面白い」とは思ったが、「山中くん可愛い」という言葉の意味はいまいちよく分からなかった。しかし、年月が過ぎてふと「小学生の息子が調理実習で初めて子供だけでお味噌汁を作るのが楽しくて自作ソングを歌っている」という状況の、有無を言わせぬ可愛さに気付き、なるほど自分も大人になったのだと思って笑った。

私は家でお味噌汁を作る時、コンビニのお味噌汁を買ってきた時、毎回では無いが未だに山中くんのお味噌汁ソングを歌う。お味噌汁という、台所にいつでも登場する汁物に自分のアイデンティティを重ねることで、同級生に折に触れて自分を思い出させる山中くんのやり方にはあっぱれである。

私にとってはいつも、山中くんのお味噌汁、お味噌汁の山中くんなのだ。

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