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アメリカの著作権制度

『アメリカ連邦著作権法における”著作物”とは(2)』
 
著作権による保護を受けないもの
 
WIPO著作権条約及びTRIPS協定(アメリカ合衆国は同条約及び同協定の締約国(加盟国)です。)には、著作権による保護は、「アイディア(思想・着想)」(ideas)、「手順(手続))」(procedures)、「運用(操作)方法」(methods of operation)、「数学的概念」(mathematical concepts)には及ばないとする規定があります(同条約2条、同協定9条2)。これらの規定の内容は当然に締約国(加盟国)であるアメリカにおいても通用することになるのですが、米国著作権法にも、同規定と同様の趣旨の規定がある(102条(b))ことは上述したとおりです。また、Bakerケースに見られるように、アメリカでは早くから「アイディア-表現二分法」のアプローチが採られてきたことはすでに述べたとおりです。
 
米国著作権法規則202.1には、著作権による保護が及ばず、したがって、米国著作権局への登録申請が認められていないものが例示されています。この規則を参考にしながら、アメリカで著作権による保護を受けることができないものの典型例について解説します。
 
(1) 名前、タイトル、短いフレーズ、一覧表など
 
名前や名称(例えば、商品やサービスの名前、商号、団体名、グループ名、バンド名、キャラクターの名前、ペンネーム、芸名)、著作物の題号(タイトル)、短いフレーズ(例えば、キャッチフレーズ、モットー、スローガン)などは、それがいかに奇抜で目新しく特徴的でも、著作権による保護を受けることはできません。また、出来事や事実・素材などをただ羅列しただけの一覧表(例えば、材料をリストアップしただけのレシピ、イベントの一覧表)も、著作権による保護を受けることはできません。もっとも、これらのなかには、商標法(trademark law)や不正競争法(unfair competition law)などを通して保護されうるものもあります。なお、ロゴ(logo, logotype)のなかには著作権法によって保護されうるものもあると思います。
 
(2) アイディア、方法、システムなど
 
アイディアや方法、システムなどは、著作権による保護を受けることはできません。何かをしたり、何かを作ったりするための「アイディア」や「方法」(例えば、ゲームのルール、料理法)、科学的又は技術的な「方法」や「発見」、商売の「やり方」、数学的な「原理」や「公式」、「方程式」、「アルゴリズム」、その他何かの「概念」や「プロセス(手順)」、「操作方法」、「発見」などは、すべて著作物性が否定され、著作権保護の対象外になります。この点は、すでに述べたとおりです。
 
ここでは、具体例をあげて、もう少し詳しく解説します。
あるアイディアやシステムなどが表現物として言語的・絵画的に「記述」され「説明」され「図解」されれば、その表現物は著作権による保護対象となりえます(例えば、ゲームのルールを説明した「解説書」、レシピを解説した「本」)。しかし、その場合でも、著作権は、その表現された特定の言語的・絵画的な「記述」「説明」「図解」を保護しうるにとどまり、その背後や根底に含まれる「アイディア」や「システム」「方法」等に保護を及ぼすものではありません(ゲームのルールや料理法そのものを保護するものではない)。また、ある人が「インナーネットを使ったうまいビジネスの方法」を考案したとしましょう。その人は、イラストや図解を駆使しながら自分が考案したその「うまいビジネスの方法」を本にまとめました。この場合、この人は、著作権に基づいて、その本の内容(イラストや図解、説明部分)を誰かが勝手に複製して出版する行為を止めさせることはできますが、彼の考案したその「方法(アイディア)」を誰かが実践して金儲けをしても、そのことに対して文句を言うことはできません。このように、「表現」を保護し、「アイディア」を保護しない、というのが、洋の東西を問わず、現代の著作権制度の大原則になっています。
 
(3) 書き込み用紙、書式など
 
書き込み用紙(blank form)や書式・体裁(format)などは、著作権による保護を受けることはできません。規則202.1(c)は、「タイムカード、グラフ用紙、会計簿、日記帳、銀行小切手、スコアカード、アドレス帳、レポート用紙若しくは注文用紙のような、情報を記録するためにデザインされ、それ自体で情報を伝達するものではないもの」を、保護を受けない”blank form”として例示しています。
 
(4) 計算装置、測定器具など
 
何かを計算したり測定したりするためにデザインされた装置や器具などは、著作権による保護を受けることはできません。例えば、計算尺(slide rule)、万年歴(perpetual calendar)、巻尺、定規、九九の表など。これらは、「アイディア」や「システム」「原理」「公式」等に基づいているからです。装置等に含まれる線や数字、記号、目盛り、又はこれらの組み合わせといったものは、アイディアや原理、公式などによって必然的に決定されるものであるため、著作物性が認められないことになります。
 
(5) タイプフェイス(印刷用書体)
 
タイプフェイスの著作物性については、以前よりさまざまな国で議論されているところです。ちなみに、わが国では、その著作物性を完全に否定しているわけではなく、一定要件のもとでタイプフェイスが独創性及び美的特性を備えていれば、ベルヌ条約上保護されるべき「応用美術の著作物」に該当しうると判示した最高裁の判例があります。
 
(参考:§ 202.1 Material not subject to copyright.)
The following are examples of works not subject to copyright and applications for registration of such works cannot be entertained:
(a) Words and short phrases such as names, titles, and slogans; familiar symbols or designs; mere variations of typographic ornamentation, lettering or coloring; mere listing of ingredients or contents;
(b) Ideas, plans, methods, systems, or devices, as distinguished from the particular manner in which they are expressed or described in a writing;
(c) Blank forms, such as time cards, graph paper, account books, diaries, bank checks, scorecards, address books, report forms, order forms and the like, which are designed for recording information and do not in themselves convey information;
(d) Works consisting entirely of information that is common property containing no original authorship, such as, for example: Standard calendars, height and weight charts, tape measures and rulers, schedules of sporting events, and lists or tables taken from public documents or other common sources.
(e) Typeface as typeface.
AK

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/

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