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アメリカの著作権制度『アメリカ連邦著作権法における”著作物”とは(1)』

『アメリカ連邦著作権法における”著作物”とは(1)』
 
著作物の概念
 
アメリカ連邦著作権法(以下、「米国著作権法」という場合があります。)において「著作物」とはどのように捉えられているのか。この点に関して、アメリカ連邦著作権法102条(a)は、その柱書において、次のように規定しています:
 
『著作権による保護は、本編に従い、現在知られているか又は将来開発される有形的表現媒体であって、そこから直接に又は機械若しくは装置を用いて著作物が知覚され、複製され又はその他の方法で伝達されることのできるものに固定された、著作者の作成に係る創作的な著作物に及ぶ。著作者の作成に係る著作物には、次の種類のものを含む。』
(注) 条文中「本編」(this title)とは、合衆国法律集第17編である「アメリカ連邦著作権法」(title17, U.S. Code)を指しています。
 
(参考:原文)
Copyright protection subsists, in accordance with this title, in original works of authorship fixed in any tangible medium of expression, now known or later developed, from which they can be perceived, reproduced, or otherwise communicated, either directly or with the aid of a machine or device. Works of authorship include the following categories:
 
要するに、アメリカでは、著作権による保護は「著作者の作成に係る創作的な著作物」(original work of authorship)に及ぶということなのですが、それが「有形的表現媒体に固定された」(fixed in any tangible medium of expression)ものでなければならないという点が一番のポイントになります。
上記の規定から、米国著作権法の下、著作権によって保護される著作物は、次の3つの要件を備えているものでなければなりません。
①「表現」されたものであること。
②「創作」されたものであること。
③「固定」されたものであること。
 
①「表現」性について
 
「表現」性の要件に関連して、次の規定があります(米国著作権法102条(b)):
 
『いかなる場合にも、著作者の作成に係る著作物に対する著作権による保護は、アイディア[着想]、手順、工程[プロセス]、方式[システム]、操作方法、概念、原理又は発見には及ばない。このことは、これらが当該著作物において記述され、説明され、図解され、又は収録される形式の如何にかかわらない。』
 
(参考:原文)
In no case does copyright protection for an original work of authorship extend to any idea, procedure, process, system, method of operation, concept, principle, or discovery, regardless of the form in which it is described, explained, illustrated, or embodied in such work.
 
すなわち、著作権は、外部に発現した「表現」を保護するものであって、その表現の背後や根底にあるような「アイディア」を保護するものではない、ということを明らかにしています。このように、著作権による保護を画する場合に、「表現」と「アイディア」を厳格に二分して捉える考え方を「アイディア-表現二分法」”idea-expression dichotomy”といい、アメリカでは、古くから現在においても、判例においてしばしば引用されている非常に重要なアプローチ手法です。
 
「アイディア-表現二分法」のリーディングケースと呼ばれている事案が「Baker v. Selden, 101 U.S. 99 (1879)事件」です(以下、Bakerケースといいます)。Bakerケースでは、「独自の簿記システム」に、そのシステムを説明した「書籍」の著作権が及ぶかが最大の争点となりました。連邦最高裁は、簿記に関する書籍の著作権は、その中で解説されているシステム(アイディア)に基づいて(そのアイディを使って)、会計帳簿を作成したり、販売したりすることをその書籍の著作権者に保証するものではない、特許による保護を取得するのであれば格別、そうでなければ、だれでも、当該書籍の中で説明されている簿記の技術(=システム・アイディア)それ自体を実践し、利用することができる、と判示しました。
 
著作権法は、「表現保護法」であって、アイディアやシステムを保護するものではない、とする考え方は、アメリカや日本においてのみならず、国際的な了解事項になっています(注)。
(注) この点につき、WIPO著作権条約2条及びTRIPS協定9条2項には、次のような規定があります:『著作権による保護は、表現されたものに及び、アイディア[思想]、手順[手続]、運用[操作]方法又は数学的概念それ自体には及ばない。』
(原文) Copyright protection extends to expressions and not to ideas, procedures, methods of operation or mathematical concepts as such.
 
② 「創作」性について
 
次に、米国著作権法上、「創作物」といえるためには、他人の著作物に依拠していない(他人の著作物を盗用したものではない)ことと、「最低限の創作性」「ほんの少しの創作性」があれば足りるとされています。この点は、日本でも同じですが、発明(特許)に要求される「新規性」や高度な創作性は要求されません。
 
先のBakerケースにおいても、「書籍に対する著作権は、それが他人の作品の著作権を侵害するものでなければ、そのテーマ[主題]に関するノベルティー[斬新さ・目新しさ・新規性]にかかわらず、すなわち、そのようなノベルティーが不足していても、有効である。」と述べています。
また、別のケース(「FEIST PUBLICATIONS, INC. v. RURAL TEL. SERVICE CO., 499 U.S. 340 (1991)事件」)ですが、そこでは、「著作権の分野で使われる用語としてのオリジナルとは、ただ、当該著作物が当該著作者によって独自に[独立して]創作されたものであること(つまり、他人の作品からコピーされたものでないこと)、そこには、少なくともいくらかの最低限の創作性(at least some minimal degree of creativity)があれば足りることのみを意味する。」と述べています。
 
なお、著作物の「創作」に関しては、定義規定(101条)において、著作物は、「それが最初にコピー又はレコードに固定される(fixed)時に『創作』される」と規定されており、アメリカでは、次に解説します固定性の要件を重視し、これを「創作」の概念に絡めている点に特色があります。
わが国では、著作物を「創作」したというために、著作物を何かの有体物に固定することが要求されることは、「映画の著作物」の場合を除くと、ありません(著作権法2条1項1号、同2条3項参照)。
 
(参考:原文)
A work is “created” when it is fixed in a copy or phonorecord for the first time;
 
③ 「固定」性について
 
「固定」性の要件については、上述しましたように、わが国の著作権法では一般的には要求されていません(「映画の著作物」についてのみ「固定」が要件とされています)。米国著作権法の規定は、表現が何らかの有体物に「固定」されている場合にのみ著作物は著作権によって保護されるべきだとする考え方に基づくものですが、このような考え方は、国際的にも了解されています。ベルヌ条約には、次のような規定があります:
 
『もっとも、著作物一般又は特定のカテゴリーに属する著作物について、これらの著作物が何らかの物に固定されていない限り保護されないとすることを定めることは、同盟国の立法に属する問題とする。』(ベルヌ条約2条(2))
(原文)
It shall, however, be a matter for legislation in the countries of the Union to prescribe that works in general or any specified categories of works shall not be protected unless they have been fixed in some material form.
 
固定がなされる媒体としては、米国著作権法上、「コピー」(copy)と「レコード」(phonorecord)の2つが予定されています。この点、米国著作権法は、次のように規定しています(101条):
 
『著作物は、著作者によって又は著作者の許諾のもとで、一時的な期間以上のある期間の間著作物が知覚され、複製され、又はその他の方法で伝達されることが可能な程度に永続的に又は安定的に、著作物がコピー又はレコードに収録されるときに、有形的表現媒体に「固定」されている。送信されている音声、映像、又はその両者から成る著作物は、本編において、その送信と同時に当該著作物の固定がなされている場合には、「固定」されている。」
 
(参考:原文)
A work is “fixed” in a tangible medium of expression when its embodiment in a copy or phonorecord, by or under the authority of the author, is sufficiently permanent or stable to permit it to be perceived, reproduced, or otherwise communicated for a period of more than transitory duration. A work consisting of sounds, images, or both, that are being transmitted, is “fixed” for purposes of this title if a fixation of the work is being made simultaneously with its transmission.
 
上述のように、アメリカで著作権による保護を受けるためには表現が「有体物」(コピー又はレコード)に固定されていることが前提となるため、有体物に固定されていない、例えば生演奏や生放送などは、原則的には米国著作権法による保護の対象外となります。もっとも、上記の定義規定にあるように、音声や映像を含む生放送番組を送信する場合に、送信と同時にビデオテープ等に録画すれば、それは「固定」されたものして扱われます。
AK

【より詳しい情報→】【著作権に関する相談→】http://www.kls-law.org/

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