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私の昭和歌謡106 ベルベット・イースター1976  

しあわせな思い出の日はおぼろげにお洒落な歌を口ずさむ時

20歳。一浪して武蔵野音楽大学に入学した。
すぐに父が亡くなった。

音大を続けるのは無理だ。自分でアルバイトして卒業できる額じゃない。
母は育英会と父の保険でがんばろうと言ってくれた。

うーん、辛い。しかも、
1、2年は入間の寮住まいだった。これじゃバイトができない。

夏休みにがんばる。
冬休みにがんばる。とても追いつけない。
彼氏が案を出した。

この彼氏は、今のダンナ。幼なじみだった。
最終的に4年生の学費は、彼氏の父親に借りた。

周囲の友人たちと話を合わせるためにずいぶん努力した。
なにしろ、お金がない。

ステージ衣装は母が縫った。上手だった。
今だったら買った方が10倍安いだろう。

歌手になりたかったなぁ、と思ったけど、
この状態では教師になるのがベストだと、彼氏は勧めた。
ま、そうだろう。お金稼がなきゃね。

だが、1回目の採用試験は不合格だった。

卒業してから、高校の非常勤をした。もちろん他のアルバイトも。
2回目の採用試験も落ちた。
こうして4回目になんとか合格して採用された。27歳の新採用。はは

お嬢様のいくような音大をこんなふうにして卒業した。
何を学んだか、全く覚えていない。

まだ父が生きていた頃、荒井由美が流行っていた。
私は、面白いことに、ユーミンの曲をほとんど楽譜で知った。

その中に「ベルベット・イースター」を見つけた。
歌詞からもピアノの採譜からも、ビンビンに才能が伝わってきた。

伝わってきたなんてものじゃなくて、まるで自分が作ったみたいな感じww
求めていた表現が、その中に全て詰まっていた。

今考えたら、笑っちゃうけれど、20歳の夢見る乙女でしたから。

イントロはこんなふうに響かせるんだ。
何度も弾いた。同じようなイントロを作って悦に入ったりしてた。

歌い始めもオシャレだった。

2音の1つ1つに「ベル」「ベッ(ト)」と入る。そりゃあ日本語じゃないから、そうなるんだけど、こんな始まり方はないから、それだけで、なんかフランスの歌謡曲みたいなんだ。

光るしずくが窓にいっぱいついている小雨の朝。
うちはカトリックだったから、イースターはクリスマスと並ぶ行事だった。

その日が小雨だって〜。なんて素敵なの!と思ったものだ。
この歌には、今のようなサビがない。

🎵 空がとってもひくい 天使が降りて来そうなほど🎵

ここは、音程が微妙なソルフェージュのようなメロディーで印象的だ。

🎵 一番好きな季節 いつもと違う日曜日なの🎵

歌はつぶやくように終えて、ピアノがしめくくる。
こんな短い童謡のような、ポップスとしたら未完成の曲に感動した私。
そんな娘っ子の私が、今になってみると、ものすごく愛しい。

今でも私は、くちずさむよ。
でも、この歌は、父の死と、自分の夢と忘れてしまいそうな大学時代の歌。

未完成で、足がついていない私の心の思い出の歌。



【参考資料】



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