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マグザム 2023#52 シート皮制作

とうしても頼む、と何度言わせただろうか。

それなりのものは作れるけど、それなりのものしか作れないんですよ。
布の状態とシートになってからの様子が、想像と違う、みたいなことが起きるかも、ですよ。
出来上がったものに満足できない、と思っても作り直しはしないですよ、良いですか?
耐久性が悪くて1年くらいでほつれてくるかもしれないですよ。

と、さんざんネガティブなことを言ったけれど、それでもなお、どうしても気に入った布からシート皮を作って張り替えて欲しい、と言う。

実績がないわけじゃない。
これまでに3回くらいは切って、縫って、張った。
ただ、それ用の布だったので、あまり苦労した覚えはない。
今回は、一般的なビニールレザーである。
何をもって「一般的」と呼ぶのかわからないが、布販売業者はイス用だといっている。
ちゃんと切って、ちゃんと縫えば、それなりのものが出来上がるであろう、ちゃんとやれば。

ちゃんと出来るはずがない。
だから、何度もお断りしてきた。
そして、頼まれると弱いところにつけこまれた。

では、手順を説明しよう。
用意するのは、布、バイクのシート、裁縫道具、タッカーという大きいホチキスみたいなやつ。
ちなみに「ホチキス」は商品名なので、「大きめのステープラー」が正しい。
同じ関係で、「セロテープ」と「セロファンテープ」がある、どうでもいい話。
ただ、今回仕事を請けるにあたり、エアタッカーの導入を決めた。
以前から使っていた、大きなステープラーは、針がしっかりシートのベースに食い込まず、押し込む手間が必要だった。
シートの形状によっては、打ち込めない箇所もあったので、エアタッカーで効率化するつもりだった。

まずは裁断、と言いたいところだが、裁断するには型紙が必要である。
服飾業界で「型紙」といったら、裁断と縫製のための設計図のことらしい。
服飾業界に無縁のぼくには、型紙とは文字どおり、型を抜くための紙、である。
その型紙、シートのサイズを測って、曲がり具合、立ち上がり度合いを計算して・・・といったやり方はしない、服飾には無縁だからな。
どうするかといえば、シートにもともと張ってある布をはがして、ほどいて作る。
かのトヨタ自動車だって、こういう手順で初期型のクルマを作ったのだから、誰がなんと言おうが間違っていない。

ほどいて布になった、元シート皮で文字通り型をとって、新しい布に線を書いていく。
ここがとってもむつかしく、書いた線は「だいたいの形と大きさ」を示すもので、じっさいに針を入れていく場所は少し内側になる。
だから、縫うべき線も書いておく。
もうひとつ重要なことは、中心を通る線も書いておく。
複数の布を縫い合わせるのに必要だし、シートに被せたときにセンターがズレているとカッコ悪い。
とはいえ、きっちり線対称でなければならないかといえば、そうでもない。
描いた線の通りに縫えるなら、きっちりしていたほうがよいけど、じっさいにミシンを踏むと、かなりズレるので、最終的には張るときの引っ張り具合で調整する。
そして、ようやく裁断。

マグザムのシートは、メインと背もたれ用の枕みたいなやつ、それと、パッセンジャーの背もたれの3つ分が必要で、それが、布の段階では9つのパーツになる。
中でも、パッセンジャー用背もたれは、小さいながら4枚で構成されていて、切ったそばから、どの線はどの線と合わせるかを書いておかないと縫い合わせることができない。
もともと張ってあったシート皮の縫い方を変えて、もっと少ないパーツ量にすることは可能なのだろうけど、服飾に無縁なぼくにはできそうもない。

次いで、仮縫い。
二枚の布を表面どうしで合わせて針を入れるべく書いた線を縫っていく。
その後、ミシンで縫うのだけれど、ミシンで縫うには布がよれないほうがいい。
というか、よれるとしっかり縫えないので仮縫いの段階では、ピッタリ合わせる。

そして、本縫い、ミシンの登場である。
だいたい、厚さ0.8mmのビニールレザーが縫えるのか?と不安はあったが、意外とイケた。
針は14号、糸は30番を選択。
どういうわけか、番号が大きくなると針は太くなるのに、糸は細くなる、らしい。
過去の経験では、自分で使うシートだったので気にしてなかったが、今回はちゃんとした製品にするために調べた。
仮縫いをしてあるので、アームが布の厚みに負けないかを注意するだけで、縫うこと自体は大変なことじゃない。
そりぁ産業革命が起きるわけだ。

そのあと、もう一手順あるのだけど、これは企業秘密にして、いよいよシート本体に張る。

スゴいわ、エアタッカー。
身の危険を感じるくらいの力強さで打っていける。
工作用タッカーで2日がかりの作業を、エアタッカーを使えば2時間もあれば充分、ぐるっと一周打てる。

シートになってみると、縫い目の弱さが既製品より目立つのだけれど、意外とまとまっているように見える。

ただ、その布、全天候タイプだっけ?
ぼくが選んだわけじゃないから、色あせは責任もてないよ。

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