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シファン・ハッサンがロンドンマラソンを語る

2019年のドーハ世界陸上1500mと10000mで金メダル、2021年の東京オリンピックは1500mで銅メダル、5000mと10000mで金メダル、そして2023年のブダペスト世界陸上は、10000mではゴール直前で転倒したものの、1500mで銅メダル、5000mで銀メダルという輝かしい成績を残したオランダのシファン・ハッサン選手。
1500mから10000mまで世界トップレベルのシファン・ハッサン選手ですが、2023年の4月にはロンドンマラソンにエントリー。初マラソンにもかかわらず2時間18分33秒で優勝しました。

このときのレースでは、途中で先頭集団から離れてしまい、立ち止まってストレッチをするなどしたあとに復活。どんどんペースを上げて先頭集団に追いついて、なんとラスト100mくらいでスパートしてトップでゴールするという神レースでした。

レース後のインタビューがインスタグラムに上がっていたので紹介します。
私が意訳しています。

Sifan Hassan talked about  London marathon

ロンドンマラソンは、私にとって初めてのマラソンでした。

一緒に走る、マラソンのトップランナーたちとどうやって戦えばいいんだろう。どこまでついていけるんだろう。そう考えると、怖くて怖くて、吐きそうになりました。
その時、私は自分に問いかけたんです。
あなたは一体自分を何者だと思っているの? 
初マラソンを完走できると思っているなんて、ただのバカでしょう。

15kmから20kmの間で、私は立ち止まりましたが、すぐに走り始めました。

大丈夫。これも経験。完走できなくても当たり前。でももう少し行ってみよう。
ハーフマラソンの距離くらいは走ろうと思ったんです。私はまだハーフマラソンのレースも走ったことがないんですから。そこで25kmくらいを目標にしました。

でも、いつの間にか先頭集団に追いついていたんです。
もしかすると内心では追いつきたいと思っていたのかもしれません。
その時、彼女たちのペースが遅く感じました。

そんなことができるの?どうやって追いついたんだろう?何が起きたんだろう?自分自身に何度も問いかけましたが、答えは見つかりませんでした。だけどとても幸せでした。
「神様、ありがとう」

そこからはあっという間でした。
え、あと4kmなの?という感じ。
そして自分の走りに集中しました。

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インタビューは、InstagramのTCS Lindon Marathon @londonmarathon 
のリール動画に収録されていたもので、本編がどこかにあるのかも?
もっと長いかもしれませんね。

ハッサンもレース前は不安になる


このインタビューを聴いて、ハッサンほどの選手でも不安になるんだと思いました。
「走れなくてもいいから」と自分をなだめる感じは私もよくあります。ひどい時は、何かが起きてレースが中止にならないかな、と考えることもあるんですよね。
レース前、怖くて怖くて足がすくみそうなときは「負けてもいいから」「タイムなんて出なくてもいいの」「スタートラインに立つことが重要」などいろいろな声をかけて自分をなだめます。

それでも最後はいつも「やるしかない」という気持ちでスタートラインに立ちます。覚悟が決まるといいますか。

最近は「楽しみたい」というのが主流です。レース前のインタビューでは「ワクワクしています」と答える選手も多いですよね。
リラックスすることはとても重要だと思いますし、緊張しすぎて本来の力が出せないということにはしたくない。

トップアスリートの「楽しみたい」は、あくまでインタビューに答えたり、人に話すときのセリフで、自分の心構えを語っている部分が大きいと思います。「死ぬ気で走ります」「結果を出します」と人前で語ってしまうことのマイナスが大きすぎるから。内面はまた別のものという感じがします。
本気で取り組んできたなら、狙ったレース前に緊張しないでいられるはずがないと思うんです。

楽しまないと本来の力を発揮できない。
それはそうですが、楽しいだけではないはず。
圧がかかるなかでどうやってそれを乗り越えるか。
成果がほしければ、どうやったって苦しい部分はあります。
その先の無我の境地みたいなものを「楽しい」と表現するんですよね。

世界の絶対王者デュプランテスの「楽しむ」

棒高跳びの世界記録保持者デュプランテスが、世界陸上の優勝後のインタビューで「次の目標は?」と聞かれて、「1日1日を楽しむだけです」と言っていました。

Instagram @worldashleticsより

彼は世界のトップアスリートとして世界記録を更新し続けていますが、いつかそれはストップするかもしれませんし、目標が非常に高いところにあるので、「はい、次」「はい、次」とやっていたら身がもたない。でもそれは、きついトレーニングをしていないというわけではないでしょうし、試合に対してもしっかりと狙いを定めて調整しているはずです。
つまり「楽しむ」のレベルがとても高いということ。「楽をする」ということではないですよね。
厳しく律した日常生活も「楽しい」と思えるかどうか、きついトレーニングを「楽しい」と思えるかどうかという話。

本当の勝負は努力が実らないときどうするか


「サブスリーしたい」と自分を追い詰めて、だけどどうしても届かなくて、つらくなって走ることをやめてしまった、なんてのはつらいですよね。

自分に期待して、頑張って、それがかなわないという過程で嫌になる気持ちはよくわかります。私も過去そうだったのです。
何をやってもダメでした。うまくいかないことだらけ。

だけど今は「もっと別のやり方があったよね?」と思っています。
日本のトップでいられないんだったら、とっととそれを認めるしかなかったんです。
受け入れていたら、その先にまた道が続いたんじゃないかと思っています。
押してダメなら引いてみよ、ということです。

「どうやってもうまくいかない」という状況を楽しめるくらいのメンタルが必要なんです。人の本質は努力が実らないときにどうするかってところにあると思います。

ハッサンにしろデュプランテスにしろ、きっとものすごくたくさんの困難を乗り越えているはず。そうやって今がある。
田中希実さんも一時期、成果が出せない状況のなか「虚しくなった」と言っていましたね。
だけど迷い続け悩み続けながらもやるべきことをやってきたから今回の5000m日本新、8位入賞につながりました。

そういう人たちの「楽しかった」「楽しんでいます」の重みを少しでも理解したいです。
レベルはまるで違いますが、私もなんとか頑張り続けたいと思っています。

adidasのレギンス。寺田明日香さんや新谷仁美さんが着ているadidasユニの柄と似ているので思わず買ってしまいました。わたしもこれを着て頑張ろう!

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