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【コラム】今思えば、江口洋介さんがきっかけだった。

一度だけ、俳優江口洋介さんとお話したことがある。

といっても江口さんにとっては、私など記憶の片隅にもないはず。でも私にとってはものすごい大きな記憶になっている。

その日、私は某家具会社のショールームに立っていた。入社1年目の私は、朝はショールームの掃除、家具の配置、在庫確認を行う。その日も同じ作業を行っていた矢先、近所に住まれていた(と噂があった)江口さんが「あのさ~、ここってベッドオーダーメードやってる?」と急にショールームに入ってこられたのだ。

私は一瞬ぼーっとしてしまっていたが(普通、芸能人の方と突然お会いしたらそんなものだと思う)、そんな私の様子を全く気にすることなく、江口さんは「好きなんだよね~ここの家具」と言いながら、ショールームの椅子をいじっている。ようやく正気になって、応対をし始めた私。江口さんが何を話していたかは忘れてしまったが、彼のつけていたスカーフがとても印象的だった。その日の江口さんのファッションは、ブラウンのスウェードの上着に、赤いスカーフ、そしてジーンズという出で立ちだった。

「スカーフがあるから、江口さんの顔周りが明るく見えるんだなぁ、そして長い髪の江口さんのスタイル=イメージが強調されている気がする。スカーフしてなかったら、普通の人になっちゃうだろうな」と、私は応対しながらぼんやり考えていた。

その一瞬の出会いで、スカーフの持つ魅力について色々考え始めた。いささかオーバーな表現かもしれないが、私にとって、江口さんのファッションはそれだけ衝撃的だったのである。

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その日、私はシンガポールからバンコクへ出張だった。風邪気味だったのに首元を出した服装だった私は、空港内のショップでリーズナブルなスカーフを購入しようとお店を物色していた。

色々な種類のスカーフがあったのだが、私は単色で赤のスカーフを選んだ。「赤いスカーフなら、白いシャツを着たときに襟もとに合わせ、真っ赤なルージュをひけばセクシーなスタイルになるし、スカーフの素材はシルクだから顔もきれいに見せてくれる、あ、インディゴブルーのジーンズにも合うし、着こなしも応用が利くな、そして今日はとにかく防寒用に・・」と支払いを済ませた。

フライトに搭乗し、案の定エアコンが効いている。早速席に座り私は購入したばかりのスカーフを首に巻いた。

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一応確認、と思い、手持ちのミラーでスカーフをつけた自分を見た。その時私は何かをいきなり思い出した。そう、15年以上前の江口さんのスカーフを思い出したのである。

その日私は、滅多に着ないブラウン系のカットソーを着ていて、首には購入したばかりの赤いスカーフ。当時、江口さんが来ていたブラウン系の上着に赤いスカーフと同一のカラーコーディネーションだった。それを思い出し1人でくすっと笑ってしまった。

飛行機がバンコクに着き空港を出ると、やはりバンコクは暑い。私はそのスカーフを首から外し、キャビンケースのハンドルのところに巻き付けてタクシースタンドに向かった。仕事後、そのスカーフを腕に結わき、ジーンズとTシャツに合わせバンコクの街で食事をした。この赤いスカーフは、バンコク出張では大活躍だったのである。

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それからというもの、そのスカーフは私のファッションで多様な活躍を見せている。でも必ず飛行機に搭乗する際は、私はその赤いスカーフを携帯する。フライトでスカーフを首に巻いてから睡眠に入ることは、すでに私のフライトでの習慣となっている。スカーフを巻いた後、ミラーでその姿を確認するたびに、遠い昔に出会った江口さんとのやりとりを思い出すのである。




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