婚活でデート商法に遭遇した話。③
Kとデート…いや、面会の日程を取り付けた私。
しかしここで予期せぬ出来事が起きてしまった。
面会の2日前、私の親族が入院するという非常事態に見舞われ、面会当日はその病院へ行かなければならなくなったのだ。
Kとの約束は、やむを得ずドタキャンせざるを得なくなってしまった。
たまたまこの日は、Kと初めて電話をしようということになっている日だった。
そう、Kから発せられる甘い言葉はLINEでの無機質な文字のみであり、この時までお互いの声はこれまで聴いたことすらなかったのだ。
自分の頭の緩さに辟易する。きっと当時の私の頭をかち割ったら、綺麗なお花がいっぱい咲いてるはずだ…はは…。
兎にも角にも、Kに予定を変更してもらわなければ、謝らなければいけない。
初電話でそれを伝えないといけないのか…。
緊張と不安で震える手でLINEの通話ボタンをタッチした。
「…もしもし」
初めて聞くKの声。
うん?何かだみ声だな…顔と声が一致しない感じ。
私は私で緊張するとやたらめったら早口になってしまうし、妙に半笑いにもなってしまうので「こ、こ、こんばんはwwwフヒヒwww」と、どっかの不審者みたいな挙動不審ぷりであいさつをしたような気がする。
一言二言やり取りをして、家族が入院し、明日は行けなくなってしまったということを、多分キョドりながら伝える。
「そうなんだ、ご家族大変だね、また別の日にしようか」
…みたいな返答があるかと思っていた。ところがスマホの受話口から聞こえたのは
「え…そうなの……?」
心配ではなく、明らかに不審がるような、不機嫌そうな声色だった。続けて
「どうしても無理なの?」
無理だからそう言ってるのに、わざわざ聞き返してくる意味が分からない。
家族が入院したのに、どこの誰かも身元もはっきりせず、信頼関係もクソもないアプリでマッチングしただけの関係の相手を優先するだろうと思っているのだろうか、この男は。
嘘なのではないかと疑われている可能性もあったが、それにしたって言い方というものがあるのではないか。
頭ではそう思っていた、しかし人と揉め慣れておらず、チキンハートな私は
「え、あ、うん…夜なら、いけるかもしれないんだけど…」
と言葉に詰まりながら半笑いで、返すしかなかった。勿論夜だって行ける訳がない。我ながら究極のヘタレである。
「突然夜はって言われても、俺は難しいなぁ」
「そう、です…よね…」
Kは言葉に詰まる私に構うことなく
俺も結構忙しい
接待もあるし、相手もある仕事をしている
仕事の合間縫って調整したんだから、こうやってリスケされたら困る
…みたいなことを、溜息交じりの口調でやんわり言った。
スマホの受話口を介してはいるが、少しイラついているような雰囲気が目に見えるようだった。
ドタキャンしたのは勿論申し訳ないと思っているし、それは平謝りするしかなかったが、Kへの印象はダダ下がりだった。
お互いいい年の社会人だし、都合があるのは10も100も承知している。
しかし、仕事のキャンセルでもないのに、正当な理由もあるのに、こんな言い方される筋合いはあるだろうか。
お互いに素性もよく分からないのに、家のやむを得ない事情によるキャンセルでここまで不快そうな言い方が出来るのか。
一言くらい気遣う言葉があってもいいのではないか。
正直もう会わなくてもいいし、むしろ断ってくれてもいいと思っていた。
だがKはこう言った。
「じゃーさ、一番近い次の休みいつ?」
「え?」
「その日にしようよ、俺も調整するから。涼ちゃんに会いたいし」
なぜそこまで私に会いたいのかこいつは。
勿論そんなことは言えないから、
「で、でもKくんの都合は…?」
とか言って、Kを気遣うフリをしてみた。
「そこまで忙しい人に、時間割いてもらうのは申し訳ないなって思うんだけど…」
「俺は大丈夫だから!」
即答されてしまった。
「その代わり、ドタキャンはなしね!絶対ね」
何度も念を押され、ヘタレな私は断り切れず、次の休みを伝えてしまった。
…□駅の美味しいランチも食べたい欲もあったのだけれど。
そこで初めて
「ご家族、お大事にね」
との言葉をもらった。
Kへの不信感は募るばかりだったし、会いたいという気持ちはすっかり薄れていたけど、私はKと会うことになったらしい。
会うまでにKとは数回電話をした。
Kは思いのほか話題も豊富だった。
恐らく私も聞き上手だということもあるのだろうが、自分のことはよく話してくれた。
・地元の進学校出身(偶然にも、昔付き合った男と同じであった)
・大学は諸々の事情で中退(かくいう私も中退)
・仕事はアクセサリーの企画(卸じゃなかったっけ?)
そしてジャンルは違えど、楽器をやっているという私と共通の趣味すらあったし、お酒も嗜む方だと分かった。
先日の家族の入院事件がなければ、いい友達からスタートできたのかもしれないとも思った。
若者言葉で表せば、なしよりのありというところだ。まあなしよりのなしに近いがな!
奴はうんうんと話を聞く私を従順な女だと思ったのか、徐々に一人で盛り上がり
「ついてきてくれる女性が好き」
「今年のクリスマスは涼ちゃんと手つないでるような気がする」
と宣ったり、肩から上まで撮られた自撮り(背景はどう見てもバスルーム)も送られてきたりした(涼ちゃんの写真もちょーだいと言われたが、断固拒否した)。
ちゃんちゃらめでたい頭だなぁ…と内心呆れていた。
まぁ仕事の合間を縫って、それに付き合う私も大概頭が湧いてるんだが。
早く面会日が終わればいいのに、とぼんやり思いつつ、Kと通話中のスマホ片手に、PCからマッチングアプリにアクセスしたりもしていた。
面会日さえ終われば、Kとはそれっきりにする気満々だった。
一刻も早く別の人と会わなければと思っていた。
そんな私の適当な、どこ吹く風な態度が声に出ていたのか
「何か話しててすごい壁感じるわー」
と言われた。
当たり前だ。何をもってあなたを信用しろというのだろうか。
別に責められている訳ではないが
恥ずかしげもなく「俺がこんなにアピールしているのに、心を開いてくれない涼ちゃん」みたいな言い方をしてくるK。
そんなこと言われても、今のところKと進展する可能性はほぼ0だし。
そんな私の思いとは裏腹に
「俺の涼ちゃんと仲良くなりたいって気持ちは嘘じゃないから」
LINEでもそういった言葉がよく出るようになった。
マッチングアプリでマッチングしただけとは思えないくらい、距離感なぞ初めから存在しないかのごとく、攻めてくるK。
薄々思ってはいたけれど、Kはもしかしてアプリ内の要注意人物なのではないかと疑問が湧いた。
奇跡的に映りのいい、しかもそれも美人とは言い難い顔写真1枚だけしか知らない、若くもない女にこんなに入れ込む理由は何なのだ。
アプリを開いてみると、Kのもう1つの変化に気付いた。
Kとのやり取りが、メッセージの一覧から消えている。
アプリの説明を読む限り、これは相手をブロックするか、本人が退会していることを意味するらしい。
超絶めちゃくちゃものすごく好意的に考えれば、私という本命に出会ったので、退会したという可能性もないことはない。
んなおめでたい話あるかい。
何かしら後ろめたい理由があるのでは?と思わざるを得なかった。
Kへの不信感指数は更に上昇したが、しかし要注意人物としては名前が一切出てこなかった。
向こうはLINEを本名で登録していたので、さっそく検索にも掛けてみる。
すると、アプリの顔写真と全く同じ写真がアイコンになっている、Facebookの個人のページが出てきた。
Kというプロフィールどおりの人物は存在していて、多分嘘もつかれてはいない。
全体公開の投稿もあったが、旅行や趣味の活動だったりで、別段おかしな投稿はされてない…かな?
友達の数も多いし、少なくともFacebook上はおかしな人には思えなかった。
気付けば面会の前日になっていた。Kからは
「いよいよ明日会えるね☆明日仲良くなれたら、俺の自慢のショールームを見せたいと思ってるから、楽しみにしててね☆」
ショールーム?なんの???仕事の???
まぁいいや。Kは仕事に打ち込んでいるのは事実だし、適当に見るだけ見るだけならありだろう。
そもそも仲良くなるつもりは一切ないし、適当な理由をつけて帰ればいい。
何かあればすぐ逃げればいいのだ。
さっさと切り上げて、昼飲みにでも繰り出そう。
ほんの1,2時間過ごせばきっと終わるだろう、大丈夫だ。
かくして、私はとうとうKとの面会日を迎えた。
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