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深夜の鎮守の森

前書き

この物語は、私が幼少期に祖母から聞いた、田舎の小さな村に伝わる恐ろしい話です。夜遅くに聞いたその話は、今でも鮮明に記憶に残っています。皆さんも、この物語を通して、日本の田舎に潜む古い伝承の一端を感じていただければ幸いです。それでは、深夜の鎮守の森で起こった恐怖の物語をお楽しみください。

本文

ある夏の夜、森村という小さな村に住む少年、浩介は友人の達也と共に鎮守の森へ向かっていた。村では古くから、その森には決して近づいてはいけないという言い伝えがあったが、二人はそれを無視し、肝試しをしに行くことにしたのだ。

「本当に行くのか?浩介」と、達也が不安そうに尋ねた。

「もちろんだよ。怖がりの達也も一緒に来るんだから、絶対に面白い夜になるさ」と浩介は笑って言った。

森に入ると、空気は一変し、冷たい風が吹き抜けた。木々が密集し、月明かりもほとんど届かない薄暗い道を進むにつれ、二人の足音だけが響いていた。

しばらく進むと、突然、異様な音が聞こえた。それは、遠くから聞こえてくるかすかな鈴の音だった。二人は立ち止まり、音の方を凝視した。森の奥から、白い服を着た女性がこちらに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「誰だ?」浩介が声をかけると、女性は立ち止まり、しばらくの間、二人を見つめていた。やがて、彼女は微笑みながら近づいてきた。その顔は異様に白く、目の周りには黒いクマがあった。まるで、生気を失ったかのようなその姿に、二人は言葉を失った。

「助けて…」と、か細い声で女性が囁いた。「この森から出られない…」

「何があったんだ?」達也が恐る恐る尋ねると、女性は悲しそうな目で彼を見つめた。

「私はこの森で迷った。そして、もう何年もここから出られないの。お願い、助けて…」

二人は顔を見合わせ、どうするべきか迷った。しかし、助けを求める声に無視することはできず、女性を連れて村に戻ることにした。だが、歩き始めるとすぐに道がわからなくなり、どれだけ進んでも同じ場所に戻ってきてしまった。

「おかしいな…」浩介がつぶやいた。「さっきから同じ場所をぐるぐる回ってるみたいだ。」

達也は不安げに周囲を見回した。「やっぱり、ここには何かがいるんだ。」

その時、背後から突然冷たい風が吹き付け、二人は振り返った。そこには、無数の白い影が立ち並んでいた。全てが幽霊のようにぼんやりと光り、その中には先ほどの女性も含まれていた。

「助けて…」女性は再び言ったが、その声は次第に低くなり、最終的には風に消えるように消えてしまった。

「逃げよう!」浩介が叫び、達也の手を引いて走り出した。しかし、どこへ行っても白い影が立ちはだかり、逃げ場はなかった。やがて、二人は体力を使い果たし、倒れ込んでしまった。

気がつくと、二人は村の入口に倒れていた。目を覚ました達也が周囲を見渡すと、浩介が隣で目を覚ました。

「何があったんだ…?」浩介が呟くと、達也は首を振った。「わからない。でも、もう二度とあの森には行かないよ。」

その後、村では再び鎮守の森に入ることは禁じられた。村人たちは、この出来事をきっかけに、古くからの言い伝えを再確認し、森には決して近づかないように心に誓った。二人はこの経験から、決して忘れることのできない恐怖を抱えたまま、静かに暮らしていくことになった。

あとがき

いかがでしたでしょうか。鎮守の森に潜む恐怖の物語は、私たちに古くからの言い伝えや教訓を思い出させてくれます。村の人々が代々守り続けてきた戒めには、必ずしも根拠のないものではないのかもしれません。この物語を通じて、皆さんも自身の周囲に潜む古い伝承に耳を傾けてみてください。もしかすると、そこには私たちが忘れかけている大切な教えがあるかもしれません。

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