アイコンであるがゆえ

己の立場への理解

「道悪のせいにはしたくない」
これは2024年宝塚記念のレース後に武豊騎手が残したコメントです。

武騎手鞍上のドウデュースは6着に敗れました。直線で外に回った勝ち馬含めた上位に来た馬たちと比べて、内を回ったドウデュースは伸びを欠いていました。
個人的にはあの馬場状態ではドウデュースは厳しいと見て、馬券対象からは外していました。この馬は道悪に向いていないと思っているからです。

手前味噌ではありますが、1着馬が軸で2~5着馬の4頭が相手でした

武豊騎手は日本競馬界最高の騎手です。なのでドウデュースにとって直線での鋭い末脚が削がれる道悪が良くないということを誰よりもわかっているはずです。
しかしそれを絶対に口にはしません。なぜならば武豊騎手は自ら競馬界のアイコンであることを自覚しているからです。
自分の発言の影響力の大きさを誰よりもわかっているので、馬についてコメントをする時にファンや関係者をガッカリさせるようなことは絶対に言いません。

加えてドウデュースという馬は日本ダービーの勝ち馬であり、この馬のオーナーであるキーファーズ(松島正昭氏)は、凱旋門賞を武豊騎手で勝つということが夢であり目標であるということを公言しています。
ただ凱旋門賞を勝ちたいのではなく武豊騎手で勝ちたいのです。
もし道悪が敗因と言ってしまえば、オーナーの夢を否定してしまうに等しいこととなります。なので口が裂けても道悪が敗因などとは言えないのです。

伝説のG2レース

「史上最高のG2レースは何か?」とか「伝説のG2レースは何か?」という話が出ると必ず上がってくるレースがあります。
1996年の阪神大賞典。このレースは4コーナーから完全にナリタブライアンとマヤノトップガンの一騎打ちとなりアタマ差で勝利。3着ルイボスゴールドはこの2頭から9馬身も離されました。

このレースの後、ナリタブライアンの鞍上だった武豊騎手は以下のコメントを残しています。

「めったにできない、いいレースだったと思います。ただ、正直、4コーナーを回ったときは、もっと楽に勝てると思っていました。ゴール前の叩き合いで一瞬相手に前に出られましたが、前の年に乗ったときと違い、今度は最後まで持つと思いました」

しかし2着に敗れたマヤノトップガンの鞍上であった田原成貴騎手はこのように語っています。

「あれは名勝負でも何でもない。おれの馬は直球を投げた。カーブもフォークもあるのに使わなかった。それをブライアンに打たれただけだよ」

非常に対照的な2人のコメント。「名勝負」とマスコミもファンも称える声の中、武騎手は勝ったこともあってファンや関係者の思いを決して壊すことのないコメントを残しています。

一方で歯に衣を着せず本音で語る田原騎手。これ以前もサンエイサンキューのことなど、全く忖度せずにコメントを残してきただけあって、このレースについても本音で語っています。
そしてその思いは今でも変わっていないようです。

もうそれなりの歳となって競馬界から離れてだいぶ経つせいか、言葉はだいぶ柔らかくなっているものの、やはりあのレースを「伝説」と言うにはちょっと違うかなという思いが垣間見えます。

個人的にもあれが伝説のG2レースだったかと言われるとそうだとは思ってはいなくて、なぜならばナリタブライアンが「スーパーホース」だったのは前年の阪神大賞典までであって、その後に右股関節炎を発症してからは「スーパーホース」から「ただの一流馬」になってしまったと思っているからです。
そんなナリタブライアンと、天皇賞春を前にして完調ではなかったマヤノトップガンが繰り広げた直線の攻防。確かに3着以下は大きく離されたものの、それは単にG1ホースである2頭とそれ以外の8頭との地力の差がありすぎたというだけのことだったと思うのです。

ちなみに私が思う史上最高のG2レースは1989年の毎日王冠です。

まだこの先に秋のG1戦線が控えているというのに、オグリキャップとイナリワンが直線で死闘を演じました。鞍上はともに腕っぷしが強く剛腕タイプの南井克己騎手と柴田政人騎手。この2人の鞍上の直線での追いっぷりは、馬が精魂尽き果てるのではないかと思うくらいの凄まじさです。

ちなみにオグリキャップに関しても多く語られるのは引退レースとなった1990年の有馬記念ですが、この馬が最強だったのは間違いなくその前の年、5歳(現4歳)の秋だったと思います。
それについてはまた別のノートで書きたいと思います。

さて、秋はどうするのか?

話は戻ってドウデュース。
もし宝塚記念を勝っていれば、大手を振って凱旋門賞への2度目の挑戦となったいたのでしょうが、果たしてどうなるのか。
私は国内専念が良いと思っています。仮に宝塚記念を勝っていても・・・です。
この馬は直線で切れ味抜群の末脚を生かして速い上がりで走れる馬場の方が向いています。日本の道悪であのパフォーマンスなので、凱旋門賞が行われる洋芝で草丈が長く、少しでも馬場が乾けば意図的に散水して重い馬場にしてしまうあの環境では、ドウデュースの能力は全く発揮されないで終わると思います。
日本の競馬とヨーロッパの競馬は、同じ競馬のはずなのに全く違う種目なのではないかと思わせるくらいに違います。凱旋門賞と日本馬の挑戦についても今度別のnoteで書いてみたいと思っています。

宝塚記念のあと、ファンや関係者の思いを壊さないコメントを残した武騎手ですが、ドウデュースを管理している友道康夫調教師はこんなコメントを残しています。

「馬場かな。枠が内で自分の競馬ができなかった。外に出したかったけど、3角でフタをされ、枠の差が出てしまった。直線でも内を突かざるを得なく、外の枠だったら自分の競馬ができたのかも。今日はドバイの時よりも落ち着きもあって雰囲気は良かった。最後までしっかり走ってくれたし、1、2着はこの馬場が合っていたからね」

馬場適正に触れています。やはりその部分を感じたのでしょう。
もしかしたらオーナーに対して、ドウデュースの馬場適正と凱旋門賞の馬場を鑑みて国内専念、もしくは海外ならばアメリカのブリーダーズカップターフや香港あたりを進言する可能性があるのかなと思っています。

とりあえず秋まで休養するみたいなので、その前にどの方向に進むのか発表があるまで楽しみに待ちたいと思います。

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