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2022年までの『旅する台所』アーカイヴ

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2022年までの『旅する台所』有料記事です(今後の追加はありません)。
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記事一覧

キッチン付きの宿で始める、暮らす旅の楽しみかた

きっかけは、パリのマルシェ旅先で、市場を見にゆくのが好きだ。たぶんそのいちばん最初の経験は、ロンドンで学生をしていた時分に訪れた、パリ。曜日ごとに街のあちこちでマルシェが開かれて、鮮やかな色彩を敷き詰めたように並ぶ、いきいきとした野菜の勢いのあるうつくしさや、日本では見たことがないほどに多様な、累々と積まれたチーズのもの珍しさや、マグレブや西アフリカの、異国情緒に満ちた見知らぬ食べものの香りに、私はすっかりと、心から恍惚とした。これこそ、旅の楽しみ。だから宿はいつも、ムフター

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ウズベキスタン風茄子のサラダの作りかた

住宅街のまんなか、それでいて全く人気のないバス停でバスを降り、小さなディスプレイの地図を頼りに僕たちは歩いた。目指す宿は、看板もなく他と変わらないアパートメントだから、住所だけが頼みの綱なのだけれども、通りの名前の看板は、この国の眩しい太陽に晒されて判読し難く色褪せていて、住宅の番号はところどころ欠損している。同じような景色を、結局どのくらい歩いたのか判らない。目当ての呼び鈴を鳴らし、遠くからこちらに向ってくる管理人の足音が扉の近くまで聞こえた時、彼女はふうと大きく息をした。

料理する旅、その持ちもの、オマーン編

まずは、料理のテーマを決める今年の夏は、オマーンのマスカットに旅行することにした。宿は、キッチン付きのホテルレジデンスを予約して。ネットで写真を見ると、海沿いに広がる街の白く砂っぽい建物が、アラビアンナイト然として、私にはとてもエキゾチックに見える。以前かの地に住んでいた友人は、バクーよりも魚がおいしいよ、と言う。私が今暮らしているバクーも海辺の街で、新鮮魚介類もたくさん手に入るのだけれど、カスピ海は塩分濃度が低い汽水だから、そのラインナップは私が慣れ親しんだ海の魚とは少し違

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外国のスーパーマーケットで叶える、「暮らす旅」の非日常体験

スーパーマーケット巡りから始まる「暮らすような旅」今回、私の提案している「暮らすような旅」のスタイルで、おすすめなのが、簡単にでも自炊をする体験。そんな料理する旅に欠かせないのが、現地での食料品のお買いもの。実は私の場合、その過程が楽しいからわざわざ旅先で料理するようなものでもあり。 本当は、旅先で見つけたバザールとかファーマーズマーケットで、店主とのやり取りを楽しみながら、あれこれ食材を買い物をするのが楽しいのだけれど、旅行中に必要なのはほんの少しの食材なので、キロ売りが

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スルタンイブラヒムという魚を煮付けにしてみるという冒険

魚は、特別なごちそうもともとはそんなに魚好きではなかったくせに、このごろの私はいつも新鮮でおいしい魚介類を渇望していて、魚というと断然ごちそうで貴重な感じがする。外国暮らしもかれこれもう20年ばかり、しかも近年は海のない国での生活が長かったせいなのかもしれない。ウズベキスタンに3年、ルワンダに2年。鶏も牛も羊も山羊も好きだし、なんならビーガンを目指した時期もあったけど、魚は特別。タシケント郊外の川のなまずを揚げて食べさせるお店には喜んで出かけたし、キブ湖のサンバサという小魚を

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休日の朝、メルジメッキ・チョルバスを煮るという安堵

また、冬が来る。私は、11月生まれなせいか、寒さにはめっぽう強い。(ちなみに北海道では11月はもう冬だ。)普段、夏が好きとか言って格好をつけているけれど、秋が深まって木々が真紅や黄金色に色づいてくると、その実、心がほっとする。温かいジャケットやセーターを出しながら、しめしめと思う。冬が、来るのだ。 バクーの冬は、雨の季節。乾いて暑い夏が終わると、次第に風の日や雨の日が増えてくる。そして本格的に冬になると、毎日のようにびゅうびゅうと風が吹いて、ざあざあと雨が降るものだから、な

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行先表示のないバスに乗っていた、あの日々のこと

ある朝、戦争は始まった。いつのまにか、市内を走るバスの行き先表示が、この戦争の国威発揚スローガンにとって代えられていた。私はそれを痺れた頭でぼんやりと眺め、それからバスの番号を確認して、その赤い車体に乗り込んだ。車内にも、その電光掲示板の文字列は流れていた。「カラバフはアゼルバイジャン。」砲撃が始まって、13日めの朝。 2020年9月末の日曜早朝、長年の係争の土地で、再び戦争が始まった。 テレビを点けても、インターネットを開いても、国内のあらゆるメディアで、前線の様子や爆撃

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