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アステラス製薬 情報システム部長との対談「グローバル製薬会社の考えるDX成功のポイントとは?」

アステラス製薬 情報システム部長 須田真也 氏

カンバセーションヘルスCCO リチャード・ マーシル

はじめに

R:こんにちは。カンバセーションヘルスCCO(Chief CustomerOfficer)のリチャードです。本日は「グローバル製薬企業が実施すべきデジタルトランスフォーメーション戦略」についてお伺いする為、アステラス製薬様から須田様にお越し頂きました。ライフサイエンス業界も他の業界同様、パンデミックの影響を受けて大きくデジタル化にシフトしました。中でも、アステラス製薬様はコロナ以前から積極的にデジタル改革を進められており、製薬会社のDXを率先されている企業です。本日は、アステラス製薬様でグローバルデジタル戦略をリードされている須田様から、デジタルトランスフォーメーション成功へのヒントや戦略についてお話をお伺いできれば、と思います。

S: アステラス製薬の須田です。本日はお招きいただき、ありがとうございます。

R: こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。まずは簡単に須田様のご紹介をさせてください。大学院で薬学をご専攻の後、アステラス製薬へご入社。そして、ご入社5年後にオランダにて研修を行うなどとてもお若い段階からグローバルな経験をお積みになられたんですね。その後、イギリスそして日本で勤務され、現在は情報システム部長として日本そして、グローバルのデジタル戦略を牽引されていらっしゃいます。

S: ご紹介いただきありがとうございます。リチャードさんからご説明頂いたように1997年に上司からオランダへ行くように言われ、不安の塊でした。しかし、この経験が後に私の人生や世界観を変える貴重な経験となり、今の世界中のチームと密に仕事をする立場へ繋がったのだと思います。

R: それは素晴らしいですね。若いうちからローカルな視点とグローバルな視点を養い、現在ではアステラスのグローバルのデジタル戦略に活用されていらっしゃるのですね。

DXは「患者さんにとっての価値貢献」の為に

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R: では、早速インタビューの方に入っていきましょう。まず初めに「デジタルトランスフォーメーション(DX)」についてお聞きしたいと思います。近年、ありとあらゆる場所でDXという言葉を耳にするようになりましたが、時にDXという言葉だけが一人歩きしてしまっている様にも見受けられます。グローバルにDXを推進されているアステラス製薬様では、DXの目的や重要性をどのようにお考えですか?また、アステラス製薬様のDXへの取り組みもご紹介頂けますでしょうか。

S: アステラス製薬では『変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える』ことをビジョンとしております。これは、患者さんのために価値を創造し、その価値を患者さんにお届けすることを意味しており、DXの取り組みにおいても他の取り組み同様に、患者さんの価値に変えることに重きを置いております。

また、DXの戦略においてはデータ・テクノロジーとデータ・アナリティクスの価値を最大化するために、以下の4点を「価値の源(レバー)」として様々な取り組みを行っています。

1) センス 2)分析(アナライズ) 3)自動化(オートメーション) 4)エンゲージメント

この4つのレバーが、デジタルトランスフォーメーションにおける私たちの鍵となっています。デジタルトランスフォーメーションは簡単ではなく、一度にすべてを行うことはできません。この4種のレバーを活用すべく、デジタルトランスフォーメーションのためのロードマップを構築しております。

また、弊社はさまざまな分野、領域、プロセスでテクノロジーとデータ分析を活用してきましたが、中でも特に注目したいのが研究開発の分野です。新薬の研究開発において、患者さんへの有効性、安全性、経済的利益を確保するために、研究開発から承認を得て市場に出すまでに10年程度かかります。

研究開発については、自動化や高度なデータ分析技術を導入しています。例えば、化学合成の自動化と薬効評価のデータ解析を組み合わせることで、ヒューマンインターフェースを最小限にしています。また、リアルワールドデータを利用して、臨床試験の設計を最適化しています。

製造分野では、データ収集と分析を導入し、医薬品製造プロセスにおけるリアルタイムのモニタリングにより最高の生産品質を確保しています。また、コーポレート機能においては調達、財務、サプライチェーン、人事におけるグローバル統一ビジネスプラットフォームを導入しています。

これにより、世界中の会社活動データを一か所で管理、分析することで、マネジメントチームがよりデータを活用した意思決定を行うことが可能になっています。

そして、最後に強調したい分野がコマーシャルです。医薬品を扱っている製薬会社として、正しい情報を必要な人に必要な時に確実に届けることが重要です。

そのため、いくつかの国や製品において、対話型AIエージェントを組み込んだ情報提供サービスをウェブプラットフォームに取り組んでいます。

部署や地域を超えて行われているDXへの取り組みは、すべて「患者さんのための価値を創造し、患者さんに届ける」ためのものです。先ほど申し上げた様に、DXは患者さんがより健康で幸せになる為に、アステラス製薬が貢献できるツールや戦略であることが重要です。

アステラス製薬のユニークなグローバル戦略


R:非常に興味深いご指摘ですね。イノベーションの柱が、お客様や患者様と結びついていることがよくわかりました。そんなアステラス製薬様のDXへの取り組みですが、イノベーションをローカルに閉じ込めるのではなく、グローバル全体で迅速に共有し、分散されていますよね。デジタルと製薬の分野で長年仕事をしてきた私は、ローカルで革新的な活動をすることに関してはハードルがまだ低いものの、グローバルにおけるイノベーションの難しさを知っています。そんな難しいグローバルにおける一貫したDXを、アステラス製薬様がどの様にして行っていらっしゃるのか、そして須田さんの役割をお話いただけますか。

S: おっしゃる通りです。アステラス製薬はグローバル規模でのDXの実現に注力しており、私が現在、グローバルな立場に在籍しているのも、まさに日本のみならずアステラス・グローバルでDXを進めるためです。

まずはグローバルなDX戦略をとっている背景、理由からお話します。

一つ目は、ビジネスの観点から見ると、アステラス製薬は70カ国以上で事業を展開しており、国内売上高よりも海外売上高の方が多いです。そのため、各種の業務システムをグローバルで統一することによって複数の地域においてシームレスにビジネスオペレーションを行うことが可能になります。

二つ目は、一つ目にも関連しますが、ビジネスオペレーションのみならずデータ収集、分析をグローバルレベルで行うことによって、データ資産を活用したグローバル規模のビジネス戦略を構築することができます。

そして、三つ目が大規模で広範囲のデジタル資産を企業として所有することで、地域拡大を計る際にスムーズに戦略を組め、データやオペレーションの移行をスムーズに行うことが可能になります。

加えてご質問いただいた、どの様にしてグローバルDX改革を行っているのかに関しては、日本に本社を置くグローバル製薬企業として、北米や欧州に本社を置く多くの製薬企業とは異なるアプローチを取っています。北米や欧州に本社を置く他社の場合、強い影響力のあるグローバル本社を持っていますが、アステラス製薬のグローバル戦略においては、日本本社だけが意思決定に大きな役割を果たすのではなく、各地域が協力して一つのデジタル戦略を持ち、強い情熱を持って一緒に仕事をする体制になっています。そういう意味では、どの国で働いているか、どの法人に所属しているかは気にせず、世界中のみんなが同じチームになっています。「Wedon't know what we don't know」(知らないことは知らない)という言葉があるように、意思決定に伴うリスクを知らなければ、大胆かつ適切な意思決定はできないと考えています。一人の人間がすべての答えを持っているわけではないので、戦略的な意思決定を行うためには、多様性のあるチームで仕事をする必要があります。グローバルプロジェクトでは、各国のメンバーがそれぞれの地域で責任を持って活動をリードしますが、1つの国がグローバルな活動をリードするというわけではありません。特に顧客エンゲージメントに向けたプロジェクトでは、国・地域ごとのローカライズが重要になるため、各国・地域のチームメンバーがプロジェクトの意思決定に大きな役割を果たすことになります。プロジェクトごとに、どのような戦略が最適なのかを見極める必要があり、グローバルな標準化と柔軟性のバランスが成功のカギとなります。

R:それはとても先進的な企業戦略ですね。ローカルかグローバルかという単純なものではなく、ローカル性とグローバル性のバランスをプロジェクト毎によって戦略的に変えていらっしゃるんですね。

また、先ほど「資産としてのデータ」というお話は、素晴らしいご指摘だと思います。データは単なるデータではなく、ビジネスのための資産という考えは私も大変推奨している考えの一つです。2022年に向けて、私たちは幸運にも、お客さまや薬に関するデータなど、ますます多くのデータを収集してきています。データはビジネスにとって重要な資産であり、そのデータをいかに簡単に広範囲で拾えるかがとても重要です。‍

S: 全くもって同感です。

R:須田さんは常に最新のデジタルトレンドを把握し、積極的にアステラス製薬に取り入れてこられたと思います。しかし、全ての人が最新デジタル化や新しい試みを好むわけではありません。新しい試みは変化を意味し、今ある居心地のいいシステムから慣れないシステムへの変更など、DXのプロジェクトにあまり前向きではない人たちには、どのように説明されてきましたか。

S:デジタル変革は、運転中に車の車輪を交換するようなものだと私は思っています。もちろん、動いている車の車輪を交換することはリスクが伴い、実際に現場で運転されている方が反対するのは自然です。しかし、世界が止まることが無いように、製薬会社のオペレーションも環境の変化も止まることはありません。そのため、リスクを取ってでも車輪を交換しなくては、いつか車は壊れて動けなくなってしまいます。他部署への理解を得るためには、常に長期的な視点からメリットと今実施すべき必要性を伝えることを意識しています。

また、近年ではより経営レベルでスムーズな変革を実現するために、創薬、メディカル、製造、コマーシャル、ITなどの各部門の代表者によるクロスファンクショナルな委員会を組織しました。どのように、どのようなデジタルトランスフォーメーションが必要なのか、何を優先すべきなのかを現場の声を聴きながらオープンに議論し、決断しています。

対話型AIの未来とは?

R:素晴らしいですね。さて、先ほどの話に戻りますが、患者エンゲージメントについて言及されましたね。須田さんには患者さんや医療従事者のエンゲージメントなどの観点から、カンバセーションヘルスのソリューションを含む、対話型AIの導入を推奨していただいております。2022年以降を見据えて、なぜ対話型AIなのか、もう少し詳しく教えて頂けますか。

S: 前述の通り、私たちのビジネスにはデータが欠かせません。カンバセーションヘルス社の対話型AIエージェントを使えば、患者さんや医療従事者からの質問に答えられるだけでなく、その会話をデータ資産として収集することが可能です。このデータを会社として顧客エンゲージメントの改善に役立てることやビジネス戦略に使うなど、情報提供のみならず、他領域で役立てることが可能です。また、24時間365日情報提供が可能なことはもう一つの魅力です。先ほどから申し上げている様に、弊社のビジョンは「患者さんへの価値提供」であり、そのためには必要な情報をいつでも提供することが重要だと思います。人間ではなかなか難しい、24時間対応を対話型AIエージェントでは問題なく行うことができます。

そして、対話型AIエージェントは決められたトーンや方法でユーザとインタラクションするため、正しい情報、正しいデータを収集することが可能な点です。100人の人間のエージェントがいれば、100通りのインタラクションがあります。したがって人間によるミスやバイアスのある回答などが提供される可能性を完全に防ぐことは不可能です。しかし、対話型AIエージェントによる回答によって、そのバイアスやミスを最小限に抑え、そして全てのユーザに対して同様の対応を行えるからこそ、より正しいデータを収集できると考えています。対話型AIの価値はまさに、一貫性、最適化、24時間対応可能な利便性にあると思います。

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R:ありがとうございます。とても参考になります。データとデータ精度の点に関しては弊社ソリューションを含む対話型AIエージェントの強力な利点だと自負しています。

私たちカンバセーションヘルス社は、須田様をはじめとするアステラス製薬の皆様と一緒に仕事ができ、大変幸運に思っています。須田様とアステラス製薬様は、弊社のような「デジタル・トランスフォーメーション・パートナー」、そしてビジネスパートナーに何を求められていますか。

S: デジタル分野では常に未来を見据え、最新のテクノロジーを提供されていらっしゃる御社のデジタル分野の専門性を高く評価しています。リチャードさんのように、ライフサイエンス業界を深く理解した上でデジタルの最前線で活躍されている方のご意見やアイデアはとても貴重です。ビジネスパートナーとして、また、リチャードさんがソートリーダー(thought leader)として我々を教育してくれることを願っています。そして、アステラス製薬としては、ライフサイエンスとその将来に焦点を当てた洞察を提供し、ユーザーの体験を継続的に改善し、患者さんに役立つソリューションを共に創造していきたいと考えています。

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R:さて、ここからは少し楽しい質問を一つさせていただきます。対話型AIは2025年にどの様なものになっていると思いますか。今はできないが、3〜4年後にはできる様になっているかもしれないケーパビリティーのアイデアなどありますか。

S:間違いも正解も無いので、未来に関する質問はいいですね。対話型AIが賢くなり、情報のナビゲーターや情報のハブとして活躍してくれたらいいなと思います。現在、私たち人間は、誰が情報を共有するのか、誰に聞けば正しい情報が得られるのかを判断する必要があり、場合によっては正しい人に辿り着くまでに時間がかかります。ある人にメールで質問すると、その人から別の人に転送され、また別の人に転送された経験はないでしょうか。対話型AIが答えを持っていなくても、誰が答えを持っているのかを特定し、ナビしてくれればすごく便利ですね。

R:いいアイデアですね! 是非、参考にさせていただきます。

デジタルトランスフォーメーションを成功させる方法はひとつではない

R:さて、これが最後の質問です。 少し真面目な質問をさせてください。須田さんは本当に素晴らしいローカルとグローバルの経験を持っていらっしゃいますし、アステラス製薬様では最先端のDXを進められていらっしゃいます。その経験から、ライフサイエンス業界の同業者がDXに取り組む際に、何かアドバイスやメッセージがあればお願いします。

S:私は、デジタルは単なる価値の源であり、デジタルの使い方や関わり方は人それぞれだと思っています。しかし、何をどのように使いたいのかを考えることは非常に重要です。「イノベーション」という言葉に囚われて、デジタルを使う理由を忘れてしまうことがよくあります。一人ひとりがデジタルを何のために、どのように使いたいのかを再確認することが、成功への鍵となります。同時に、イノベーションには失敗がつきものですが、成功するためには失敗も必要です。

R:素晴らしい答えですね。本日お話しさせていただく中で、アステラス製薬様がいかに患者さんのことを思い、患者さんを中心にDX戦略を組まれているのかをよく理解できました。また、最後のメッセージでは、失敗も必要であるというメッセージから、DXを再考させるためには一つの正解となる方法は存在しないこと、会社一つ一つにあった戦略を組むことの重要性、そして、成功する為には失敗を覚悟することの重要性を教えていただきました。

とても興味深い見解をたくさんお話しいただき、私としても大変勉強になりました。本日はお忙しい中、お時間いただき心から感謝申し上げます。また、アステラス製薬様と弊社のソリューションを使って、より多くの患者さんの健康へ貢献できることを、これからも楽しみにしております。

(了)


アステラス製薬株式会社について
アステラス製薬は、世界 70 カ国以上で事業活動を展開している製薬企業です。最先端のバイオロジーやモダリティ/テクノロジーの組み合わせを駆使し、アンメットメディカルニーズの高い疾患に対する革新的な医薬品の創出に取り組んでいます(Focus Area アプローチ)。さらに、医療用医薬品(Rx)事業で培った強みをベースに、最先端の医療技術と異分野のパートナーの技術を融合した製品やサービス(Rx+®)の創出にも挑戦しています。アステラス製薬は、変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えていきます。アステラス製薬の詳細については(https://www.astellas.com/jp/)をご覧ください。

カンバセーションヘルスについて
カンバセーションヘルスはライフサイエンスに特化した対話型AIソリューションを提供する企業であり、人工知能エンジニア、ソフトウェア開発者、データサイエンティスト、会話型アーキテクトなど専門家集団で構成されています。カンバセ-ションヘルスSaaSプラットフォームは、ライフサイエンス業界向けに設計されており、医学的に訓練されたタクソノミー、データセット、およびヘルスケア固有のNLPエンジンにより、AIの精度とコンプライアンス両面でのリーディングカンパニーです。また、このプラットフォームは、ライフサイエンス業界での主要なソフトウェアプロバイダーとの統合が可能であり、製薬業界向け営業、医薬品情報提供、また臨床試験の支援など多岐にわたり対話型エージェントを展開しています。

‍登壇者

須田真也 氏:   情報システム部 部長 アステラス製薬

1992年千葉大学院薬学研究科修了と同時に、山之内製薬株式会社(現アステラス製薬株式会社)へ入社。2008年~2010年英国子会社IT部門の欧州ITインフラ運用のアウトソーシングなどを担当するなどグローバル規模で活躍。  2015年より情報システム部長としてグローバル組織化した情報システム部を統括。

リチャード マーシル: CCO カンバセーションヘルス

オタワ大学で生化学を学んだのち、ジョンソン&ジョンソンへ入社。同大学でMBAを取得し、2000年台にはVPマーケティング&エグゼクティブ マネジメントを務めるなど大手製薬会社の経営陣として敏腕を振るう。2004年からは数々のスタートアップを支援し、現職ではグローバルにおけるセールス及びマーケティングを統括。

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