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『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』を巡って、一人のイルアミ(日本のARMY)として

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』という本がBTSファンの間で話題になっている。K-popやコスメなど、韓国文化から歴史に興味を持った大学生たちが、一年間かけてゼミで学んだことを書籍にしたもの。

私もさっそく読んで、すごくいい本だと思ったんだけど‥‥とあるARMYさんのnoteやつぶやきが目に留まった。

その方は、この本を読んで「考えろ、学べと怒られているような感覚」「無知な者への寛容さが欲しい」という感想をもったらしい。

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‥‥などいくつかつぶやいたところ、ご本人からリプライをいただいて、いくつかやりとりをさせてもらった。ありがとうございます! とても参考になった。彼女のように感じる方(あるいはもっと強い抵抗感をもつ方)はきっとたくさんいるだろうと思うので。

彼女は、「0か100かではなく、20か45も認めてほしい」と言う。
この本からは、100のコミットメントしか認められないような、100でなければ拒否されると感じたそうで。

「積極的に討論会やデモやフィールドワークなどには今のところ参加するつもりはないけれど、あの本を読んで知ったことはたくさんあるので、これまでの認識をあらためて日韓関係を考えていこうというスタンスです。応援団長クラスではなく、いちサポーターでありたいと思っています」

とのこと。ふむー。
私はあの本から、「100であるべき」という意思はまったく感じなかったので、彼女がどのあたりでそう感じたのか、とても興味深い。
(削除されたnoteには、“はしばしから感じた” と書いてあった)

" 応援団長レベル” を求められているようで、苦しくなったってことだよね。

とはいえ

「歴史は難しく複雑で、向き合うのも簡単ではない。一度読んで理解するのは難しい」 
「少しずつでも向き合ってほしい」
「私たちは一歩を踏み出すあなたの側にいる」

この本にははっきりと上記のように書いてあり、「0か100」ではなく、むしろ20や45を許容して、連帯を示していると思えるのだけど。


今さらだが、私はBTSの沼にハマる前から日韓の歴史や差別の構造には多少知識があるほうだと思う(もちろんまだまだ勉強中)。ジェンダー問題にも自分なりに取り組んできた。
(住んでいる自治体で男女共同参画推進サポーター → この春から審議会委員)

日韓問題については、デモやフィールドワークに参加したことはない。
(※その後、デモにも参加。)
普段はSNSで意見表明する程度。
何かの機会に話題にあがれば、自分の意見を述べるのはやぶさかではない。

積極的に市民グループ活動をしているような、アクティビストな方たちには大きな敬意を持っているけど、若い人を巻き込んでいくには、既存のやり方では難しいなあ‥‥と思うことも多い。

だからこそ、Kpopやコスメが好きな大学生たちが書いたこの『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』という本は、オルタナティブな入口になると思ってうれしかったのだけど‥‥。

想像するに、あの本を読んで、「怒られているような」「圧迫感」を感じる人は、以下のような人なんじゃないだろうか? (私がやりとりした彼女がそうかどうかは別として)

・BTSは大好きで、楽曲やパフォーマンスだけでなく、彼らの人間性や社会性も尊敬しているけれど、韓国という国には反日的なものも感じるし、あまり親しみが持てない

・悲しい過去は過去のこと。今そして未来、両国が友好関係にあることが大事だし、そのためには草の根の交流から。自分には韓国への差別感情はなく、むしろBTSが大好きで韓国文化にもなじみがあり、親韓なほうだと思う

・政治やイデオロギーに関することは言いたくない、触れるのも好まない。自分は「中立」だという感覚をもっている

・「直接手を下していなくても、自分は誰かを踏み台にする構造の一部分をなしている」 
「中立でいようとするのは実はすごく政治的な選択で、結局、加害者擁護にしかならない」
というような真理(真理だよ)を聞いたことがない

このような「固定観念」というか、「日本人的な通念」を出発点にして、とても丁寧に解きほぐしている本だと思ったんだけど‥‥。
人間にとって、「自分が責められているような感覚」って、他の感情や理性をおしのけるくらい、ものすごく強い感情のひとつなのかもしれない。

彼女とやりとりをしていて、感じたことが2つある。

●被害者感情。いわれなく責められている、という気持ち。

●「ラインを引いている」感覚。
日韓問題を真剣に考えている人と、無知な者との間の線。
BTSのような現代の韓国文化と、いわゆる「日韓問題」との間の線。
「日韓問題」と、ジェンダーや他の人種差別、貧困などの問題との間の線。
無意識かもしれないけど、頭の中でそんなラインが引かれているのだろうと思った。

きっと、この2つの感情、感覚を減じていくことが大切なんだ。
そういう言葉や行動を探していかなければならないんだと思った。

本当は、私たち(彼女たち)は被害者ではないし、
当事者と非当事者をキッパリわけるような線は存在しないんだから。

本の中にも書いてある。

「歴史は難しく複雑で、向き合うのも簡単ではない。大切なのは、知識の有無ではなく、いかに「自分ごと」として日常の中で意識できるか」 

BTSを大好きで、彼らの社会的な発言(表現)や、その勇気をも含めて尊敬しているというイルアミなら、きっと「自分ごと」に感じてもらえるんじゃないかという例を、以下にひとつ書いてみる。

8月15日。日本では終戦記念日。
韓国では「光復節(=植民地支配からの解放記念日)」を祝う日で、
Twitterでは #광복절 とか #KoreaLiberationDay などのタグで、たくさんの人が投稿している。

2013年にデビューしたBTSのメンバーたちも、最初の2年くらいは、この日を大切に思っていることがわかる投稿をしていた。

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こんにちは、ジンです。
今日は光復節です。みんな太極旗を忘れてませんよね?
国のために努力された方のことを少しでも考える時間をもってはいかがでしょうか?

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こういった投稿は、「反日」だろうか?

自分の国に対する自然な愛国心をもっているのは
ちっとも不思議なことではないし、
この本を読んだ人なら
彼らの祖父母や曾祖父母の時代にどのような苦労があったか知った人なら
「反日」だとは思わないはずだ。
(そもそも「反日」という概念自体が日本人の傲慢さだと思うけど、議論が煩瑣になるのでおいておく)

でも、現実には。

日本デビューしてしばらく経った2015年以降、
BTSは光復節を祝う投稿をしなくなった。
投稿を事務所がやめさせたのか、彼らの意思でやめたのかはわからないけれど、彼らが光復節に決して触れないのは、現在進行形の事実。

なぜ?
日本を慮っているからだろう、きっと。

いわゆる「ネトウヨ」みたいな人たちに絡まれるから。
いや、ARMYの中にさえも、光復節バンザイというと不快に思う人がいるから。
「反日」だというレッテルを貼られるから。

Black Matter Livesに連帯し、アジアンヘイトに抗議するコメントを出したBTS。「アメリカの主流になりたいとは思わない」「自分は結局、どこまでいっても韓国人」だと語るナムジュン。韓国に誇りをもっている彼ら。メンバー同士とも、ARMYとも、社会に対しても、コミュニケーションを大切にしている彼ら。

そんな彼らから、自分の国の主権回復記念日を祝う言葉を奪っているのは、日本社会の風潮だと思う。

日本では近現代史をきちんと教えないから。
長く政権を握っているのが、極右に近い右派だから。
日本の社会では政治や思想の話をしにくい空気があるから‥‥。

そんな日本社会の風潮は、大人である私たち一人ひとりに責任がある。
何もしないことも含めて、私たち一人ひとりの言動が日本の空気を作り、維持させている。
もちろん、「私たち」には私自身も含まれる。

私はデモやフィールドワークに参加したことはない、と先述した。
「自分なりのやり方で」声は上げているつもりだけど。

現実的に、私たちは「100じゃなくても、20でも45でも」、ゼロですら許される立場なのだ。それがマジョリティのもつ、いわば「特権」だ。私は特権を行使している‥‥。

コリアンルーツの在日の方や、韓国からの留学生は、いきなり差別的な言動に遭遇する。45だけ考えたいとか、20だけ行動したいとかいう選択肢がない。それが、「社会的に弱い人」「小さな者」という立場。

「私たちはみんな、尊重される権利を持っています」
と声を上げ、Stop Asian hateのタグを付したBTS。

それは、欧米におけるヘイトだけを指しているのではないはず。
この日本にもヘイト・差別があり、
その構造には私たちもかかわっている。
私たちマジョリティは被害者ではなく
ラインの向こう側に対して「非当事者」として振舞える立場ではない。

日本でも人気のKPopのアーティストたちが
光復節を祝うツイートができるようになるといいな。
日本のKpopファンダムで一番大きなのはもちろんARMYだから
私たちがもっと大きな声を上げられたらいいなと思う。

そのために、日韓の歴史を知って、行動する人が増えますように。
コミット0だった人が、コミット20になるだけでもいい。
20の人が「そこで終わり」と決めないで、25や30とコミットを増やしていけたら、もっといい。
そして、コミット20でもいいんだけど、そうやって選べるのはマジョリティの特権なんだと知ってほしい。

そんな人が増えますように。



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