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能傍タルツの実話怪談コレクション。その一「現代筑前奇談考」―12月― 『ポン友奇談』

皆さん、こんばんは。

今夜は
ワタシの親友のヒデちゃんの
お話をさせて頂きますね。

今から30年以上
昔の話になるかな。

ワタシと同郷のヒデちゃんは
二人とも一浪の末
博多のある
マンモス大学に入学したんです。

でね、
その当時は古い学生寮ってのが
結構まだあったんだけど
やはり入りてがなかなかいないわけ。

もちろん今みたいに
オートロックだの
ウォシュレットだのあるわけないし
当時ですでに
築何十年とかでね。
寮母さんが朝晩飯作ってくれるような
とこですから
よく言えば人との距離が近いんだけど
プライベートなんかはねえ(笑)

だから
入学シーズンになると
そんな入居者のいない
寮のせがれとかおばさんとかがね、
校門で新入生を勧誘して
自分のとこに連れて行くんです。

で、ワタシは別の寮に
行ったんだけど
ヒデちゃんは
ミツルさんとかいう、
当時で50代くらいかな?
ずんぐりむっくりの
独身のおっさんなんですけど。

マサ子さんっていう
山口出身の母親とやってる
寮に案内されて、
結局、そこと契約したんですよ。

と、いうのも
そこの寮って
建物自体は
普通の二階建ての民家で
六畳一間がずらっと並んでて
風呂とトイレは共同。

一階の奥が
食堂とマサ子親子の部屋
なんだけど、
ちょっとした庭に
なぜか一軒家みたく
プレハブ小屋があって
そこが気に入ったらしいんです。

ところがね
入居の数日前に
マサ子さんから呼び出されて
こんなことを言われたらしいんです。

「ポン友、お前さんに話があるんじゃ」
って。
あ、ポン友とはヒデちゃんのことですね。
まあ、親愛の情の現れなんですかねえ。
何故かマサ子はヒデちゃんのことを
そう呼ぶんですよ。

「ポン友、実はな!
おばさんの山口の親戚の子も
今度この寮に入ることになったんじゃが
向こうの親から
身体の悪い子じゃから
あのプレハブ小屋に入れてくれって
頼まれての。

いや、ポン友、
心配せんでもええぞ。
おばさんは曲がった事だけは
せんけえのう。
おばさんは真っ直ぐな気性の
性質じゃけえのう。

お前さんには二階の非常階段横の
角部屋を用意してやった。
誰か夜に友達が来ても
カンカンカンカン言うからすぐ分かる
便利な部屋じゃ。
一階玄関は夜7時には鍵掛ける。
おばさんが嫁に行けん身体になったら
大変じゃけえの(笑)
なあ、頼むぞ、ポン友。
おばさんは竹を割ったような
性格じゃけえのう」

で、結局
ヒデちゃんとしては
釈然としないまま、
その角部屋に入ったんだけど、
後で聞いたら
そのプレハブに入った奴は
親戚でも何でもなかったらしい(笑)

ただ、マサ子と同じ
山口の出身ってだけで(笑)
どうもマサ子は
何ともイビツな郷土愛持ってんですよ。

ヒデちゃん、
わたしに言ってましたもん。
「あの婆さん、二言目には
竹を割っただの
何だの言うけど
松みたいなひねくれ曲がった
根性してるからなあ」

さて、そんなある晩。

ワタシはその寮の
ヒデちゃんの部屋に
遊びに言ったんです。

例の非常階段
カンカン鳴らしながら
二階のドアを開けると
なぜかその日は
いきなりそこに
ヒデちゃんが立ってて
開口一番。

「お前、今来たよな?子供見なかったか?」

何で学生寮に子供が?
と訝しげに思いながら
聞いてみると…。

今日は1日部屋にいて
ビデオや漫画を見ていたヒデちゃん。

さっきトイレに行こうと
ドアを開けたら
なぜかいきなり
十歳くらいの
子供とかち合った。

ヒデちゃんもびっくりしたが
向こうはもっと驚いたらしく
あわてふためいて
階下に降りていった。

もちろん、入り口は
マサ子が施錠してるから
出入口は非常階段しかないのだが…。

「何だそりゃ?どこから入って
どこから逃げたわけ?」

「いやあ、それがわからんのよ」

「ヒデちゃん、
ちなみにその子特徴は?
どんなカッコしてたの?
ほら、赤いキャップかぶってたとか
ボーダーのシャツ着てたとか」

「うん、兵児帯絞めてた。
古めかしいカッコ。」

「…」

だけどその件は
寮内である事件が起きて
うやむやになっちゃったんですよ。
何が起こったか?

寮に広島から来た
かりにAとしますけど
彼が夜な夜な広島の彼女に
寮の固定電話でコレクトコールで
何時間も話すんですよ。

まあ、このAって奴は
共同の冷蔵庫にある
人のお茶でも何でも
勝手に飲んじゃうような
ちょっとどうかしてる
男なわけ。
バレなきゃオッケーみたいな
考えするみたいな。

だけど、まだ
携帯とか無い時代ですからね。

当然、寮には莫大な電話代が
請求されるもんだから
マサ子は烈火の如く怒り狂い
毎晩、食堂で会議が開かれるんですけど
Aは絶対それには参加しない。

で、婆さんが寝静まったら
椅子を出して堂々と喋ってるわけ。

見かねた寮長が
マサ子にその事を言うんですけど
曰く
「あいつはええんじゃ。
なぜならAはわしの故郷山口の
隣の広島の人間。
だから曲がったことだけは
するわけない。
こんな事をするのは
以外の地区のお前らじゃ!」

なんか、ねえ…(笑)

ところがその騒動も
突然解決するわけ。
何が起こったか?

そのAがある日突然
何の前触れもなく
おびただしい吐血の末
息を引き取ったのです。

まあ、ねえ。
まだ若いのに、広島のご家族の嘆きは
いかほどばかりか。
自業自得とはいえ
それ以上に気の毒なのは
突然Aからの連絡の途切れた
広島の彼女。

恐る恐る
唯一知っている番号に電話してみる。
ところがそこには
烈火の如く怒り狂った
マサ子が手ぐすね引いているわけです。

「だから何度言えば分かるかしら?
A君は死んじゃったの。お分かり?
もしもし?泣いてる場合じゃないのよ。
あんたたちの電話代、払ってくれる?」

ところがね、
この一件もうやむやになりました。
何があったか?

マサ子の息子で
ヒデちゃんを寮に連れてきた
ミツルが何故か
おびただしい吐血をして
こっちは確か
命をとりとめたんじゃなかったかな?

そんなこんなで
マサ子は寮母を降り
その後に新しい寮母さんが来た後は
特に何という事もない
毎日が続いたという
オチも何にもない話なんですけどね(笑)。

ただね、
ヒデちゃんはこんな事も
言ってました。

マサ子さんの何が
一番困るって
とにかくうるさい事。

毎朝のように一階で
ドンドン太鼓叩いて
何だか知らないけど
自分で作ったようなご祈祷する
らしいんですって。
軍歌か何か歌いながら!(笑)

で、その日。
バイトから遅く帰った
ヒデちゃんは早朝から響く
太鼓と唄に叩き起こされてね、
さすがに怒り心頭で
おばさんに
毎朝、何やってんですか?
と尋ねたところ
我が意を得たとばかりに
このような返事が帰ってきたそうです。

ポン友!
おばさんは曲がったことだけは
せんけえのう。

ポン友。
おばさんはの

戦争で死んだ子供。
飢饉で死んだ子供。
病気で死んだ子供。

この辺りの恵まれない霊を
この家に集めて
慰めてやっとるんじゃ。

ポン友!
おばさんは優しい人間じゃけんのう。
おばさんは真っ直ぐな気性じゃけんのう。
ポン友!
おばさんは竹を割ったような
山口の出身じゃけえのう。

ヒデちゃんは
ほどなくアパートを借りて
その寮を後にしたそうです。

ポン友奇談という
お話でした。

ありがとうございました!


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