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能傍タルツの実話怪談コレクションその七「現代筑前奇談考」-6月-『水筒』(みかやなさんより伝え書き)

 久しぶりに同級生と会って、
 ご飯ば食べようかと
 待ち合わせしたのは、
 福岡城下町 大名。
 大きかデパートの岩田屋さんの通りの
 蟹の看板があるじゃろ?
 もう無いとかいな?移転したったい。
 街の変わるたぁ賑やかで良かろごとあるね。
 
 あそこんにきに、鉄砲町通りてあるやろ?
 そこから入って西小性町通りの方に抜けて
 馴染みの店で待ち合わせしましたと。

 やけど、ここいら辺りは、まー!若者の街。
 土日は九州各地や山口から
 若者が天神まで出てきて買い物して
 通り超えて大名町まで
 買い物袋ぶら下げて、そうつく。
 ファッションと雑貨とカフェとレストランで
 夜中まで人通りが絶えんちことで
 大学の先生が街の調査ばしんしゃって。
 この街区画には一日四万人プールされとらす
 結果になったげな。
 道理でネオンのキラキラした看板や
 エスニックな匂いのするお店まで
 様々賑やかなんやねえ。
 不夜城、中洲とはまた違った雰囲気で
 キラキラしとる
 エネルギッシュな街になっとったねえ。 

 で、あたしも同級生のKちゃんも
 浮かれて呑んで食べて
 昔話に花咲いて調子にのっとったね。
 
 とうとう三件目でお開きにしようか
 どうしようかち思いながら
 そこは気のおけない同級生やし。
 朝まで呑むぞ~とか言いながら
 あてもなく国体道路まで出てきてさい。
 
 ここまで来たら
 ちょっと大人の街でしっとりしよらすけん
 警固か赤坂のバーで仕上げるかいなち、
 警固の交差点から渡って
 けやき通りに抜けたったい。
 
 警固から来たけん、交差点に着くまで
 ゆる~くカーブしとらすけんが
 先の大きか
 欅の木のアーチの通りが
 ようと、見通せんとね。

 夜中の一時過ぎとらしたけん、
 欅のぼ~っと
 街頭に照らされてからくさ。
 昼のお洒落な
 大人の街通りとかじゃ無か
 色合いになっとんしゃったったい。

 二人とも
 大声張り上げて歩く迷惑はかけん
 大人じゃあった
 ばってんね。

 「何か色合いの違うた~」
 
「今日は暑かったけんかいな。
  まだ、蒸し暑つうして、
 昼間は蝉がよう鳴いとったよ」
 
「じゃんねえ」

 💥カンカラコーン‼️ コンコンコーン‼️

 「あんた、年甲斐の無く
 夜中に缶けりやらしなんなぁ!
 酔っぱらいって、
 ほんなごつ迷惑ち言われっばい!」
 
 「あのくさ、
  私が缶ば蹴ったならなし、
  後ろから音がして
  前にあの缶の転がっとるやろか?
  しかもあれ
  缶じゃ無うして何やろか?」

 「ジュースの缶じゃ無か。
  黄ーぃないよ!」

 「何かいな?」

 ぼーっと
 アスファルトの歩道に浮かび上がる
 でこぼこ傷のある
 見覚えの有るような無いような
 黄色の金属の光が見えたとです。

「何かの蓋ばい!」
「水筒?」
「水筒っちゃ!」

二人が顔を見合せていると
💥ザッツツッ‼️ ザッツツッ!!

片足引きずる足音のようなものが
後ろから前方へと
音だけで移動しんしゃーとです。

してから
後ろ姿の男ん人のごとあって
帽子にヒラヒラの付いとるごとあって
リュックのえらい
年期の入っとるごとあって…。

「見えたね?」
「見えた!!」

そして
国体道路のその先少し、
左にカーブして
護国神社の在るとです。

「帰って来んしゃったとやろか?」

「じゃろ」

「エイレイになって、
祖国へ帰って来んしゃったとじゃろか?」

「じゃろうね」

「もうすぐお盆やけん、お参り行こう」

酔いのいっぺんに醒めてしもて
黙って六本松の方へ歩いて帰りました。

だんだん。


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