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能傍タルツの実話怪談コレクションその六「現代筑前奇談考」ー5月ー『××××ブルース』

今から五年前くらい。九州某県での話。
福岡のある会社では
支社が常駐契約をしている
海沿いの某エネルギー施設の再稼働に伴い、
24時間勤務が必要となった。

福岡の支社では
本社からの要請で
その施設に常駐している
支社の社員の応援をする事となり
再稼働の日まで
その施設の寮に数名の社員が一週間ほど
泊まり込むことになった。

常駐社員はその施設に付随して
通常の昼の勤務をする。

応援の社員たちは夕方から朝まで
勤務に入る特別なローテーションである。

無論、仮眠休憩はあるが、
夜昼逆転した上
一晩中屋外のあちこちで
立ちっぱなしの勤務は
長くつらい。

近くにある小山の裏には
由来は不明だが
屹立する大きな
長方形の石の回りに
放射状に石を散りばめた
古代の遺跡らしいものがあった。

あるいは
夜行性の動物であろう。
毎晩同じ時間に遠くから
ふごっふごっという、息せく音と
疾走する音が近付いてきては
走り去っていったりもした。

元来、警察官の詰所であったという
20畳ほどのロビーには
古びたソファーがあちこちに置かれ
常駐の人々は
クーラーの効きの悪いその部屋で
臨時応援の社員たちに気を遣ってか
あちこち綻びのあるソファーで
折り重なるように仮眠している。

ところが
奥にはちゃんと
クーラーの効いた清潔な
畳み敷きの部屋があり
むろん綺麗な布団も枕もある。

快適すぎて
熟睡してしまうのを警戒してだろうか。
常駐の社員はもちろん
誰も使おうとしないその部屋を
ある社員はいぶかしみつつも
毎晩使っていたそうだ。

そんなある晩。
夜中にふと気配がして目覚める。
自分の身体に柔らかい和菓子のような
ちょっと汗ばんだ
温かくぷにぷにした感触がする。

暗闇の中に真っ裸の赤ちゃんが
「兄たん、兄たん」と
ニコニコしながら懐いてきたそうだ。

不思議と全く怖くはなかったという。

その後、仮眠時間が終わり
勤務に戻った彼だが
疲れが極限に達していたのだろう。
自分の意識が遠のき
身体は動いているのだが
寝ているか起きているかさえ
全く自覚できず、異常を察した
他の社員のサポートで何とか
朝を無事迎えることができたそうだ。

その社員が後で聞いた話。
その施設の広い敷地内には
常駐社員の間で
行ってはいけないとされる場所が三ケ所あり、
その一つがその仮眠室だそうである。

彼は常駐社員たちに
その理由、あるいは他の場所なども
尋ねたらしいが、
誰一人、頑として口を割らなかったそうである。

わたしが数年前
聞いた話である。



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